29-18.ダンジョン
今回もノアちゃん視点のお話です。
私はダンジョンにやってきた。
ギルド長さん、いや、今後の事を考えるのなら、呼称も改めるべきだろう。
ギルド長さん改め、カリアさんにスライムモドキの目撃情報とダンジョン消失に関する情報を聞いてみたのだが、そのものズバリと言えるような情報は得られなかった。
とはいえ、何の成果もなかったという程ではない。
結果的に二つのダンジョンの情報を得ることが出来た。
一つは、詳細不明の新しいダンジョンについて。
もう一つは、魔法の通じない巨大スライムがダンジョンボスとして居座っているダンジョンが存在する事だ。
ただ、このダンジョン自体は随分と昔から存在しており、今回のターゲットとは別物であると既に判明している。
というのも、以前アルカが報告した内容から、例のスライムモドキとの関連を疑われて調査がなされているからだ。
そんな経緯もあり、このダンジョンの事はすぐに情報が出てきたのだった。
ギルドの調査を疑うわけではないが、念の為、私も見ておく事にした。
直接的には関係が無くとも、何らかのヒントを得られる可能性も無くはない。
幸い移動についても、世界中を旅したアルカの記憶を覗けるイロハが、ダンジョン近くの町まで転移できた。
なので、新ダンジョンの前にこちらを手早く済ませてしまう事にした。
『私だって出来るのに……』
『ルチア、大丈夫です。
わかっていますよね?
私がルチアを軽視している筈がありません。
イロハにヤキモチを焼くルチアは可愛いですが、どうか落ち込まないで下さい。
ルチアは私と一緒に成長してくれるのでしょう?』
『うん、ごめん』
『いいえ、謝る必要はありません。
元気を出してくれればそれだけで良いのです』
『うん、元気出す』
『はい』
私達はダンジョン内を探知と転移を最大限に活用して、最深部まで辿り着く。
ダンジョンボスは、記憶にあるスライムモドキとは似ても似つかない。
サイズも力の質もまるで違う。
魔力の吸収が出来るというより、本当にただ魔法が通じないだけのようだ。
抵抗力の高さで弾いているだけといった感じだ。
『やっぱりハズれね。
特段珍しい相手でも無かったわ』
「あれはどういう理屈なんですか?
魔力が通りづらいというと、神力を思い浮かべますが、この魔物が神力を持っているようには視えません」
『とうぜんよ。
この魔物は別世界の産物なの。
偶然、元の性質が魔力と相性悪くて反発してるだけね。
別の世界なら大した強さじゃないわよ』
「そもそも、ダンジョンボスとはどのように選ばれるのですか?
倒しても一定期間で同種が復活しますが、なぜ別の種族に変わる事がないのですか?
コアが選んで再召喚しているのですよね?」
『そういうルールとしか言いようが無いわね。
少なくとも、コアそのものに意思が宿っているとかでは無いわ』
「そうですか。
不可解ですが、今は気にしている場合でもありませんね。
次のダンジョンへ向かいましょう」
『そうしましょう』
「ルチア、転移をお願いします」
『任せて!』
私達はもう一つの情報にあった、新しいダンジョンの近くへと転移した。
こちらも今回の件との関連性は特にないが、難易度が高く調査が進んでいない為、フィリアスの関与が疑われている。
『正確にはフィリアスになる前の吸血鬼よ』
『なぜ、ダンジョン自体の難易度まで上がるのでしょう。
強い魔物が出るだけでなく、広さも相当ですよね?』
『リソースの問題よ。
ハルをベースにした吸血鬼をダンジョンボスとするなら、相応の力が必要になるわ。
そして、ダンジョンボスにそれだけの力を注げるのなら、比例してダンジョン自体も強大になっていくのよ』
『ハルが節約と称したように、素の力を減らす事は出来ないのですか?
本当に脅威なのは力の量ではなく、技術の方ですよね?』
『そこまでは無理よ。
ダンジョンコアに設定されたルールは、そこまで融通の効くものではないの。
コアを扱うマスターがいれば話は別だけどね』
『なるほど。
ということは、ある程度自動的に機能しているのでしょうか。
ゴーレムのように、定められた法則性でダンジョンを展開するのでしょうか』
『ある程度どころでは無いわ。
全てが自動的なものよ。
コアには自我なんて無い。
ただのシステムであり、その端末なの。
あらゆる世界に勝手に現れて、勝手に産み出して、勝手に収集する。
そうして、段々と力を蓄えていく。
何れはあらゆる世界がダンジョンに飲み込まれるでしょうね』
『どういう事ですか?』
『そのままの意味よ。
私の世界の話は聞いているでしょう?
何れはどこもそうなると言っているの。
ノアもわかっているでしょう?
フィリアスどころか、その前の吸血鬼ですら、この世界の人間には手に負えないわ。
言っておくけど、この世界の人の強さはデタラメよ。
私の世界にはルネルなんていなかったわ。
けれど、例えルネルがいようとも関係ないの。
ダンジョンコアは世界を侵食し続ける。
たった一人の強者が世界中を守り抜けるわけじゃないわ』
『私達だっています。
ハルはともかく、ルチア達より私の方が強いですよ?』
『だから関係ないってば。
あなた、意外とおバカね。
ダンジョンコアは収集し、力を増していくの。
純粋な力だけでなく、経験として積み重ねていくのよ。
チグサはラピス達に比べて優秀だったでしょう?
この世界では碌な戦闘なんてしてないんだから、きっと他の世界で学習した結果よ。
もしくは、今はまだハルの完全な再現に手こずっているのかしら。
なんにせよ、次に現れる子はチグサより優秀になっているでしょうね』
『人に害意を持てないという制約はどうしたのですか?』
『そんなものとっくにあるわけ無いじゃない。
というか、ハル本人が外した上で登録し直してしまったもの。
そうでなくとも、コアを掌握すれば自ら変更も出来るし、制約込みで人を滅ぼす方法だって思いつくわ。
ダンジョンコアの成長も問題だけど、それ以上に私達にはコアの掌握が可能だという事も問題視すべきよ』
『何故ニクスは止めようとしないのでしょう。
ダンジョンコアがそこまで危険ならば、排除するのではないですか?』
『そこまでは知らないわ。
出来ないのか、する必要がないのか、理由はわからない。
けれど、ニクスが気付いていないという事は無いでしょうね』
『全てハルが、いえ、ミユキお姉さんが原因なのですか?』
『ハルの誕生で事態が加速したのは事実よ。
けれど、そんな事は関係ないわ。
ハルが産まれなくても、何れは似たような事になっていた筈よ。
いえ、もしかしたらそうではないのかも。
各世界の時間の流れは違うのだから、時間の問題なんて話でもない。
むしろ、とっくにそうなっていてもおかしくはないはず。
なら他にもなにか……』
『イロハ?』
『とにかく、下らない事を気にするのは止めなさい。
あなたは、ルチアを否定するつもり?
ハルがいなきゃ、ルチアも産まれていないのよ?』
『そうですね、ごめんなさい、余計な事を考えました。
ルチア、私はルチアが居てくれて嬉しいです』
『うん。ありがとう、ノア』




