29-15.気遣い
私がレヴィと話をしていると、暫くしてルビィが目を覚ました。
寝ぼけ眼でキョロキョロと周囲を見回していたルビィは、私達と視線が合うと、にへらと、表情を崩す。
「「ルビィ、おはよう」」
「……」
ルビィはベットの上で危なっかしげに立ち上がり、よたよたと、ベット脇のコタツに入っていた私達の隣に降り、そのまま私にしがみついてきた。
そんなルビィを見たレヴィは私の膝の上から横にずれて、私の横にぴったりとくっついた。
レヴィの意図を察した私は、ルビィを抱き上げて、自分の膝に乗せる。
それから、レヴィの肩にも手を回して抱き寄せた。
レヴィはとっても優しいお姉ちゃんだ。
自分だってまだまだ余裕があるとは言い難いのに、常に誰かを気遣っている。
きっと、レヴィが元々優しいだけでなく、レヴィのお母さんが、優しくて良い人だったからでもあるのだろう。
早く見つけてあげられると良いのだけど。
『アルカ』
『いいかげん』
『あきらめる』
『ぶじなわけない』
『どうしても』
『あきらめない』
『なら』
『どうして』
『ニクス』
『きかない?』
『それはもう答えたじゃない。
ニクスがダメだと言ってる事を無理強いする気は無いわ。
それに今回は、相手の居場所もわかっていないのよ?
名前だけでは、いくらニクスだってどうにもならないでしょ?』
『ししゃのたましい』
『しらべられるかも?』
『お願い、止めてハルちゃん。
今はそんな話聞きたくないわ』
『ごめん』
『いいすぎた』
『ごめんね。
もう少し落ち着いたら、ちゃんと考えるから』
『そうだね』
『もういわない』
『ノアたちも』
『がんばってる』
『向こうの様子はどう?
なにか進展はあった?』
『ぼちぼち』
『そう。あまり芳しく無いのかしら』
『しかたない』
『そうね……』
『そんなことより』
『いまは』
『レヴィとルビィ』
『なによりたいせつ』
『そうね。向こうは信じて任せると決めたのだものね』
「そろそろお昼の時間ね。
ルビィはお腹空いているのかしら。
朝食を食べた後、直ぐに眠ってしまったけれど」
そう口にした直後、ルビィのお腹から、「グゥ~」と可愛らしい音が響いた。
私とレヴィは思わず吹き出す。
ルビィも釣られて笑顔を浮かべた。
そうしていると、部屋をノックする音が響いた。
「は~い、どうぞ~」
扉が開き、リヴィが部屋に入ってくる。
どうやら、昼食を持ってきてくれたようだ。
収納空間から取り出して、次々とこたつの上に並べていく。
何時もノアちゃんのお手伝いをしてくれているので、とっても手際が良い。
魔法で皿ごと浮かして操っているので、手は使ってないけど。
リヴィのちっちゃなお手々では大変だものね。
「ありがとう、リヴィ。
良かったら、リヴィもここで一緒に食べない?」
「いいの?」
「うん、レヴィもそれでいい?」
「うん……一緒に食べよ」
「うん!」
『そのまえに』
「って、ごめん、忘れてたわ。
レヴィ、この子はリヴィアっていうの。
あれ?リヴィ、羽と尻尾は?」
「アルカ!しぃー!」
「ああ、ごめん、ごめん。
レヴィ達の為に気を使ってくれていたのね。
流石リヴィね。ありがとう!」
「えへへ~」
「名前……似てる」
「そうなのよ~
仲良くしてあげてね~」
「うん。ふふ。
妹、またふえた」
「ふふ。
良かったわね、レヴィ」
「うん。うれしい」
「レヴィおねえちゃん、いっしょにたべよ?」
「うん」
リヴィとレヴィは仲良く並んで座る。
リヴィが追加で取り出したリヴィの分の食事も、私達と同じ消化に良い特別メニューだった。
ノアちゃんはこの状況を想定して準備してくれたようだ。
とはいえ、リヴィには全然足りないだろう。
午前中は訓練に参加していたのだろうし、そうでなくとも、元々ドラゴンのリヴィはよく食べる。
気軽に一緒になんて言ったのは失敗だったかしら……
けれど、ノアちゃんが想定していないわけが無いので、別メニューも用意されているのかもしれない。
とはいえ、この場では食べづらかろう。
「リヴィ、それで足りるの?」
「うん、だいじょぶ。
さきにすこし、たべた」
「なるほど」
リヴィはやっぱり賢い。
ノアちゃんに言われていたにせよ、ちゃんと指示に従って準備を済ませてくれていた。
とてもまだ三歳とは思えない。
成長の速さは、魔物だからこそなのかしら。
リヴィ自身の素質や、ノアちゃんの教育の賜物という部分もありそうだ。
『いいかげん』
『けいやく』
『むすんでおきたい』
『突然どうしたの?』
『リヴィのからだ』
『きになる』
『何度も隅々まで見てるじゃない』
それこそ、舐め回すくらい。
『ちがう』
『おばか』
『そうじゃなくて』
『ドラゴンとして』
『しんたいこうぞう』
『けんきゅうしたい』
『はやく』
『アルカネット』
『つなぐ』
『リヴィをモルモットみたいに言わないで。
私達の大切な娘よ』
『そういう』
『ことでもない』
『りゅうか』
『してみたい』
『さんこうにしたい』
『竜化?
なにそれ?
なんかそういう技術があるの?』
『ちがう』
『なんとなく格好良さそうだから?』
『そんなとこ』
『ハルちゃんは吸血鬼じゃない。
それとも、魔物的にはドラゴンに憧れるものなの?
最強種になってみたいな~的な』
『しつれいな』
『きゅうけつきが』
『ドラゴンのした』
『みたいな』
『いいかた』
『ダメ』
意外と拘りがあるのね。
それとも、誇りかしら。吸血鬼としての。
いや、今はもうフィリアスなんだけど。
『それはそれ』
『ドラゴンも』
『かっこいい』
『アルカ、一つ言っておくのです。
ドラゴンにもなってみたい、なんて思っているのは母様だけなのです』
『サナ、わざわざそれを言いに来たの?
今日は私世界で遊んでたんじゃなかったの?』
『不満ですか?』
『ううん、来てくれて嬉しいわ。
元々放置してるのは私の方なんだけど、皆で抜け出されると結構寂しいのよ。
そうだ!せっかくだし、サナも出てきて一緒にお昼食べない?』
『遠慮しておくのです。
今はその子達に集中するのです』
『うん。わかったわ、サナ。
気遣ってくれてありがとう』
『後でいっぱい構って下さい』
『うん、必ず』
サナの気配がまた遠ざかる。
私世界の中に戻ったようだ。
私は膝に座らせたルビィに匙を運びながら、レヴィとリヴィにも覚視を向ける。
食事中だからか、それとも流石にまだ緊張しているのか、二人は互いに意識を向けながらも、会話は弾んでいない。
「レヴィ、美味しい?」
「うん。おいしい」
「リヴィ、今日も手伝ってくれたの?」
「うん。リヴィもつくったよ」
「良かったわね、リヴィ。
レヴィが美味しいって言ってくれたわ」
「うん!うれしい!
ありがと!レヴィおねえちゃん!」
「……こちらこそ」
少し赤くなりながら、顔を伏せて返事をするレヴィ。
逆効果だったかしら。
「ふふ、レヴィ、照れてるの?」
「……うん」
素直ね。
「リヴィも可愛くて良い子でしょう?」
「……うん」
「きっとこれから楽しく暮らせるわ。
他にも優しい家族がいっぱいいるからね」
「……」
『アルカ』
『すてい』
『そうね、ごめん。
話題間違えたわ』
『あせるダメ』
『いつもどおり』
『ゆっくり』
『よわってるこ』
『おとすの』
『とくいなはず』
『ちょっと言い方は引っかかるけど、褒められたと受け取っておくわ』
『それでいい』
『どんなときでも』
『ぽじてぃぶはーと』
『たいせつ』
『もしかして、竜◯人になりたいの?』




