29-14.調査方法
今回もノアちゃん視点のお話です。
私達は一通りの調査を終えてから、ニクスも交えて話し合いを始めた。
「ニクス、パタラという男の生死は話せますか?
地下の町で例の組織を纏めていた首領です」
「ごめん。ノアには話せない」
「ああ、なるほど。
マリアさんの件は、ニクスの所有者であるアルカにだから教えられたのですね」
「ごめん」
「いえ、気にしないで下さい。
無茶を言っている事はわかっています。
そうでなくとも、安易にニクスに頼っていては、私達自身の対応力が育ちませんから」
「ニクスって攻略本とかカーナビみたいな存在なのね」
「ミユキしかわからないでしょ、それ」
「いえ、どちらもわかりますよ。
アルカとお姉さんの世界の事はアニメや映画で勉強しましたから」
「ミキサーは出てこなかったのかしら」
「広めないでよ……」
「そんな事より話を進めるわよ。
あなた達、アルカがいなくても脱線してしまうのね」
「最初に余計な事を言い出したのは深雪だよ。
エイミーの時はそんなんじゃなかったよね?」
「そう言いながらさらに脱線しようとしないで下さい。
ニクスも大概ですよ」
「とにかく、ニクスは話せない。
けれど、アルカに知らせるのは最後の手段よ。
なら、私達は他の方法で犯人を探す必要があるわ。
そもそもだけど、本当にそのスライムとやらのせいなの?
確かに否定できる材料は見つからなかったわ。
その代わりに、何の証拠も見つからなかったのよね?」
「そうですね。
そもそも、あの魔物の事も殆どわかっていませんから。
というか、魔物だったのかどうかすら、現状不明です。
わかっているのは、発生原因が魔道具にあるらしき事。
無作為に魔力を取り込んで巨大化していく事。
以前戦った個体はダンジョンコアを取り込んでいた事くらいです」
「神力は取り込めなかったのね?」
「はい。あくまでも魔力だけです。
そもそもが、魔物の魔力を無理やり引き出して苦しめる事で、一定範囲に魔物を近づけさせないという用途の魔道具ですから」
「ダンジョンコアが扱うのは魔力ではないわ。
わざわざそのスライムに取り込ませる理由がない筈よね?
なら、首領ごと取り込んでしまったんじゃないの?」
「私達もそれは考えました。
あのスライムが現れる直前に聞いたのを最後に、あの首領が話しかけてくる事はありませんでしたから」
「一旦、その首領とやらの事は忘れましょう。
問題はあくまでも、レヴィちゃんの母を襲った存在よ。
確たる根拠も無しに、ターゲットを狭めては見当違いの方向に進んでしまうかもしれない。
生死不明の相手になんて拘るべきじゃないわ」
「そしてその上で、もう一つ気になる事があるの。
レヴィちゃんの記憶には、襲撃犯の事も事件そのものの事も無かったわ。
レヴィちゃんはどちらも目撃していないの。
ただ、少し慌てた様子のセルフィーさんに、家から離れた森の中に隠されただけよ。
つまり、セルフィーさんは襲撃犯が近づいている事を事前に察していたのよ。
そして家の中に隠さなかったのは、それでは守れないと判断したからなんじゃない?
なら、セルフィーさんは過去に襲撃犯との接点があったという事よ。
少なくとも手口や気配を知っていたはずなの」
「誰がやったかはともかく、どうやったかは、現状そのスライムモドキの可能性が一番高いわ。
だから、先ずは地下の町に話を聞きに行きましょう。
それで、そっちはノアちゃんにお願いしたいの。
その間私は、ギルド本部に潜り込んで調べてくるわ。
調べるのは魔道具についてと、セルフィーと言う名のエルフについて。
これはノアちゃんの方も同じよ」
「以前小春が、原因となった魔道具と同じものを全て破壊したはずだけど、だれかが修復したか、他に同じものを持っていた可能性があるわ。
とはいえ、あれは例の複合魔石の産物でもあるから、修復したって可能性はほぼありえないわね。
もしそんな技術が復活しているのなら、ニクスも黙ってはいられないでしょうし」
「そうですね。
わかりました。こちらは任せて下さい」
「私はノアに付き合うわ」
「いいのですか?
私にはルチアもいますし、お姉さんに付くべきでは?」
「必要ないわ。
ギルド本部に潜り込むアテはあるもの。
むしろ、私の場合一人で行くべきね。
準備してあるのは私の分だけだから」
「ならせめて、ナノハを連れていきなさい。
ミユキはナノハと契約しているから、同化出来るでしょ」
「…………よろしく」
「わざわざ来てくれたの?
でもそうね。
いてくれると心強いのは確かだものね。
よろしく。ナノハちゃん」
「…………ナノハでいい」
「わかったわ。ナノハ」
話は付いたと、ナノハはお姉さんの体に同化した。
「ノア、私とも契約しましょう。
同化出来るようにしておいた方が何かと都合が良いでしょうし」
「本当に良いのですか?
イロハはアルカ以外とは嫌なのでしょう?」
「何で知ってるの?
ルチア、あなたの仕業?
まあいいわ。
なんにせよ、私は問題ない。
私はアルカの為になら何でもできるわ」
『ダメよ。認めない。
イロハ、あなたは、アルカ以外にあまり興味ないでしょ?
そんな気持ちで私のノアに手を出さないで』
「信用ないわね。
これでも、ノアの事はそれなりに気に入ってるのだけど」
『その程度じゃダメよ。
全然足りないわ』
「イロハ、すみませんが、契約は無しでお願いします。
ルチアが認められないのなら、私は同意できません」
「そう。
ならそれでも良いわ」
イロハは霧化して、私の首筋に纏わりついた。
そのまま、ネックレスに変身した。
『無機物への変身なんて初めてだけど、意外となんとかなるものね』
『そんなわけ無いでしょ。
少なくとも、私には出来ないわ』
「気にする必要はありません。
そもそもルチアは生後半年も経っていないのです。
ハルやイロハと比べるのは間違っています」
『けど諦めないわ。
先日の試合の件は必ずリベンジしましょう、ノア。
負けっぱなしではいられないもの』
「はい。一緒に強くなりましょう、ルチア」
 




