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29-13.痕跡

ノアちゃん視点のお話です。

 アルカの見た通り、周囲には残骸しか残されていなかった。

一応元の家の形についても、アルカがレヴィの記憶から読み取ったものを私もルチアに見せてもらった。

あの家の様式から、レヴィのお母さん、セルフィーさんが何処の国と縁があるのか調べられるかもしれない。


 誰かから学んで自分で建てたにせよ、誰か人間を連れてきて建ててもらったにせよ、相応に親しい相手がいたはずだ。

もしかしたら、その人がレヴィの父親かもしれない。


 夫婦二人でこの地に家を作り、レヴィを育てた。

そんな可能性もある。

けれど、レヴィの記憶に父親の姿は無かった。

出ていってしまったのか、死に別れたのか。

家の近くにお墓の類が無いかも調べておくべきだろう。


 仮に父親が存命で、この地を去っただけならば、話を聞くことも出来るかもしれない。

上手くすれば、母親の情報も手に入るかもしれない。

今の状況がわからずとも、人となりを知ることが出来れば手がかりにはなるはずだ。



『そこまでする必要ある?』


『どういう意味ですか?』



『そもそもの話よ。

 その母親の手がかりを見つけてどうするの?

 既に亡くなっているのなら、調査なんてキリが無いわ。

 周辺で目撃された大型の魔物の腹を裂いてまわるの?』


『仮に生きていて、誰かに連れ去られたのだとしたら、相手は相応の強者のはずよ。

 エルフは覚視すら使える者もいるのよ。

 それを傷も負わせず、一方的に連れ去るような相手よ。

 ノアに危険が無いとも言い切れないわ』


『それだけじゃない。

 もし行方不明の当の本人が、自ら行方を晦ませたのなら?

 そんなのとっ捕まえて、反省させるの?

 あんな小さな子供を放りだした母親を?

 レヴィになんて説明するの?』



『ふふ。ルチアは随分とセレネに似てきましたね』


『何で喜ぶのよ。

 別に心配だからってだけで言ってるわけじゃないわ』


『そうですね。

 ルチアの言うとおりでしょう。

 この件で私達が一番に考えるべきはレヴィを幸せにする事です。

 当てもなく調査などするより、側で元気づけるべきです。

 だから、その一番大切な役目はアルカに任せました。

 私達はアルカが望む事を代行しているに過ぎません。

 憂いなく専念できるようにと、力を貸しているのです。

 そんな理由では不満ですか?』


『いいえ。

 わかりやすいし、何より私好みの回答よ。

 それなら私も全力で協力してあげる』


『わざわざそれを宣言するために、あんな回りくどい質問をしたのですか?

 そんな面倒臭い所まで似ないでほしかったです』


『うるさいわね。

 全部本心よ』


『そうですね。

 何時も私の為に全力を尽くしてくれるのも本心ですしね』


『ノアの意地悪。

 そんな事言ってないで調査に集中して。

 早く帰りたいのでしょう』


『はい。

 頑張りましょう、ルチア』



「イロハちゃん、この場所の過去の映像を再生するみたいな魔法って使える?」


「無理よ。そもそもそんなの存在するの?」


「いえ。ダメ元で聞いてみただけよ。

 私は知らないわ」


「アルカなら出来るんじゃないの?」


「あの子、全然能力を使いこなせてないのよね……」


「単に気付いていなかった可能性もあります。

 思いついた手段は纏めておきましょう。

 後でアルカに頼んでみます」


「わかったわ」


「ノア、ミユキ、この瓦礫おかしくない?

 物理的に潰されたり、爆発で吹き飛ばされたにしては、瓦礫の散らばり方が不自然だわ。

 飛び散る方向が滅茶苦茶よ」


「確かにそうね。

 まるでミキサーでバラバラにしてからひっくり返したみたいだわ」


「ミキサーとはなんですか?」


「えっと、底に回転する刃が付いた円筒状の入れ物で、そこに食材を入れて刃を回転させる事で、細かく刻む道具よ。

 この瓦礫はそうやって、まるでかき回されたみたいに、配置があべこべなの。

 普通、ただ上から押しつぶすだけなら、ある程度法則性のある飛び散り方をするでしょう?」


「なるほど。そうですね。

 言われてみると妙ですね。

 しかも、多少散っているとはいえ、ある程度一箇所に纏まっています。

 この規模の破壊が行われたのなら、もっと飛び散っている方が自然ですね」


「なにか巨大な生物が家ごと丸呑みにして噛砕してから、吐き出したとか?」


「突拍子もない意見にしか聞こえないけど、現状一番可能性が有りそうなのよね」


「そんなのドラゴンですら無理ですよ。

 口のサイズなんて、精々人間を数人丸呑みに出来る程度です。

 家丸ごとは不可能です。

 そもそも、足や尾で押しつぶすか、ブレスでも吐いた方が手っ取り早そうですし」


「それに地上を移動した痕跡も無いのよ。

 空を飛べて、そんな大きな口があってってどんな魔物よ」


「最初に言い出したのはイロハちゃんじゃない。

 空を飛ぶような魔物でないなら、転移が出来るとか?」


「そんな巨体で高度な魔法を使う知性まであるのなら、とんでもない脅威ですね」


「転移させたのは別の何者かって事もあるわ。

 もしくは、ダンジョンコアを使ってこの場に産み出したとか」


「イロハちゃんはそんな魔物に心当たりある?

 ダンジョンコアには長いこと触れていたのでしょう?」


「どうだったかしら」


「ダンジョンコア……

 飲み込む、巨大……」


『間違いないわ、ノア』


「ノア?ルチア?

 なにか思いついたのね?」


「もしかして、前に言っていた巨大スライム?」


「そうです。

 あれなら魔力の痕跡が出てこない理由も説明が付きます。

 あの魔物は周囲の魔力を吸収します。

 全て吸い尽くされたんです」


『ノア、落ち着きなさい。

 あなた達のせいじゃないわ。

 例えその男が生きていたのだとしても、あなた達には何の責任も無いわ。

 先ずは確認するべきよ。

 そのスライムがこの惨劇を産み出したのだと仮定して、矛盾が無いか調べるわよ。

 ニクスには私から伝えておくわ。

 もし想像通りなら、ニクスも力を貸してくれるはずよ。

 それ程、この世界にとって大きな脅威になりかねないわ。

 悩んでる暇があるなら、今すぐに動きましょう』


「そうですね。お願いします、ルチア」


「ルチア、アルカには伝えないでくれる?」


『ええ。ハルにもそう伝えるわ』


「イロハちゃん、まさか私達だけで解決するつもり?」


「そのつもりよ。

 けれど、それ以上に今言うべきことでは無いだけよ。

 まだ事実と確定したわけじゃないもの。

 先ずはそこをハッキリさせてからよ。

 無駄に後悔させる必要なんてないわ」


「ありがとうございます、イロハ」


「お礼なんていいわ。

 私だってアルカが大切なだけだもの。

 とにかく動きましょう」


「はい!」

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