29-10.成長と限界
寝る支度を済ませた私は、レヴィとルビィを寝かせた私の部屋に戻ってきた。
結局、約束していた飲み会も、大寝室での日課も参加する事なく、二人を見守る事にしたのだった。
家族の皆も、そんな私を快く送り出してくれた。
というか、半ば追い出された。
皆もこの子達の事を心配してくれている。
きっとこの子達もすぐに元気になることだろう。
なにせ、ここは私達の楽園だもの。
私はベットの端に腰掛けて、二人の寝顔を見つめる。
この子達はこのまま朝まで眠り続けるのだろうか。
何の不安も感じずに眠れるのなら、好きなだけ眠るといい。
心も体も癒しが必要なはずだ。
もし起きてしまうのなら、すぐに抱き締めてあげよう。
そうして少しでも安心できると良いのだけど。
『マスターも眠られては?
二人が目覚める直前に私がマスターを覚醒させますよ?』
『私、とっても寝起きが悪いの』
『大丈夫です。私の制御により急速覚醒が可能です』
ナノマシンで無理やり脳みそ起こすの?
さすがにちょっと怖いわ……
『承知しました。以降、この手段は封印します』
『まあ、シーちゃんが必要だと思った時は任せるわ。
緊急時なら役に立つ事もあるでしょうし』
『了解です。マスター』
『気遣ってくれてありがとう、シーちゃん。
とりあえず、今は必要ないわ。
なんだか眠れる気分ではないの。
でも、シーちゃんは休んでね。
シーちゃんも睡眠は必要なのでしょう?』
『いえ、必要はありません。
ですが、マスターが私に人間らしさを求めている事はわかります。
ですからご指示には従います、マスター』
『シーちゃん、嫌なことは嫌とはっきり言いなさい。
そんな回りくどい言い方はダメよ。
今までは私達に合わせて眠ってくれていたのね。
私の気持ちを汲んでくれてありがとう。
その気遣いはとっても嬉しいわ。
けれど、何もかも無理に従う必要はないのよ。
シーちゃんが今は眠るより、私の話し相手になりたいと思ってくれるのなら、喜んでお願いするわ』
『イエス、マスター。
私はマスターとの時間を楽しみたいです。
マスターの心情を考慮するとそぐわない表現ですが、私はマスターを独り占めできるこの機会を逃したくありません』
『ふふ。嬉しいわ、シーちゃん。
その調子よ。
シーちゃんは我儘を言うくらいで丁度いいのよ。
早速何かお話をしましょう。
シーちゃんはどんな事を話したいの?』
『どんな話でも構いません。
私に意識を向けて下さるのなら、それだけで嬉しいです』
『それなら……
そうだ!
私世界の名前を一緒に考えてくれる?
それと、深層に建てるお屋敷の構想も練っておきたいの。
協力してくれる?』
『イエス、マスター。
マスターの世界の呼称は、"マイワールド"などいかがでしょう?』
『シンプルね。悪くないわ。
けど一応他も考えてみましょうか。
私が呼称する分にはいいけど、この先私世界が発展していけば、他の誰かが呼ぶこともあるかもだし』
『心像世界はいかがですか?』
『う~ん。自分で呼ぶ分には良いのだけど、やっぱり他の人から呼ぶならそういうイメージから離れた方が良いんじゃない?』
『それなら……』
私はシーちゃんと話を続けた。
こうして二人きりで気楽に過ごすのは、随分と久しぶりだ。
ミーシャの世界に飛ばされていた時も、戻ってきてからも、なにかとバタバタ慌ただしく動き回っていた。
自分から来てくれる子とは頻繁に話を出来るけれど、遠慮がちな子や、気を使ってくれる子とは何日も言葉を交わせない事も珍しくない。
私世界の中でもなにかやっているようで、そっちに熱中してしまう子も多い。
三女神やフィリアス達は特に顕著だ。
元々長く生きている子たちは、平気で数日引きこもってしまう。
毎朝ハグのルールでも作るべきかしら。
『いいかんがえ』
『さっそくつうち』
『あれ?
ハルちゃん、起きてたの?
何も言ってこないから寝てるのかと思ってたわ』
『しごとちゅう』
『だった』
『これからねる』
『無理しないでね~』
『もんだいない』
『そもそもすいみん』
『ひつようない』
『すきだから』
『ねてるだけ』
『フィリアス達が全員、毎晩寝ているのは、きっとハルちゃんの影響ね』
『にてる』
『とうぜん』
『みんなむすめ』
『そうね。随分と子沢山になったものね』
『私はマスターの娘ですか?』
『そうよ。
私の一部を与えて産み出したのだもの。
紛うことなき、私の娘よ』
『ふっふ~』
『ハルも』
『ママ』
『いっしょ』
『いたい』
『明日、向こうと一緒に行動する?
それならイロハにはこっちに居てもらおうかしら』
『むむ』
『なやまし』
『朝までに決めてくれれば好きにして良いわよ。
イロハは承諾してくれるでしょうし』
『またこんど』
『ゆっくりする』
『そっか』
『しんそう』
『べっそう』
『はやくつくる』
『今から作る?
それくらいなら、別にいいけど。
どうせシーちゃんなら大した時間はかからないでしょ?』
『はい。出力に要するのはごく短時間です』
『けどいみない』
『まだつかえない』
『さいしょはノルン』
『やくそく』
『そうね。
それに私も今はそんな気分じゃないわ』
『レヴィとルビィ』
『よくねてる』
『きっと』
『あんしんした』
『きんちょうのいと』
『きれた』
『きっとすぐ』
『げんきなる』
『いっぱい』
『あまやかす』
『さくせんねる』
『私世界に遊園地とか作ってみない?』
『いいかんがえ』
『けど』
『けっきょく』
『わたしせかい』
『まま?』
『結局決まらなかったのよ』
『とりあえず、マイワールドにしませんか?』
『そんなにダメ?
私世界』
『あいちゃく』
『わいた?』
『マスターって面倒臭いところがありますよね』
『いいわシーちゃん。その調子よ。
もっと毒吐くらいで丁度良いのよ。
そのまま敬語も取ってしまいましょう』
『それは嫌です』
『シイナ』
『せいちょうした』
『アップデートしました』
『翼を真っ黒にしてみない?』
『わっかにヒビいれる』
『それなら、ハルが新しいドレスをデザインして下さい。
お揃いが良いです』
『まかせろ』
『良いわね、楽しそうだわ。
というか、シーちゃんがいればコスプレ衣装作り放題なのね。
カノンに頼んで作ってもらってるのが出来たら、皆でファッションショーでもしましょうか。
せっかくなら、フィリアス達に観客になってもらって、投票でもしてもらいましょう。
またあの子達と親睦を深められる機会が欲しいと思ってたのよ』
『ぜんかい』
『しっぱい』
『そうですね。親睦を深める事は出来ませんでした』
『次こそリベンジね』
『スケジュールたてる』
『やることおおすぎ』
『こんらんする』
『突発的な事態への対処が多い為、一向に片付きませんね』
『ほんと、どうにかしなきゃね。
私が分身出来ればいいのだけど』
『むむ』
『ハルがやる?』
『アルカやく』
『つーぴーからー』
ブラックな感じになりそうね
『でも』
『アルカのそば』
『はなれる』
『いや』
『それなら仕方ないわ。
ずっと一緒にいましょう』
『私もお供します。マスター』
『そうね。シーちゃん』
『アリスもよぶ』
『さいきん』
『あそんでるだけ』
『そうだったの?
私世界の事を任せてたつもりなんだけど』
『マスター、任せるとは言っても、アリスに出来る事は殆どありません』
『というと?』
『ぽんのこつ』
『ハルちゃんの教育受けたんじゃなかったの?』
『ベースがアルカ』
『げんどがある』
『ハルちゃん。言い過ぎよ。
産まれた直後に凄い勢いで知識を吸収していたじゃない。
あの調子なら大丈夫でしょ?』
『きのうがある』
『ちしきをえる』
『けど』
『ちのうがたかい』
『べつのはなし』
『さいだいち』
『あたまうち?』
『イエス、マスター』




