29-9.分担と方針
結局、私は大した成果も得られずに自宅に帰還した。
明日、明るくなってから改めて調査するとしよう。
あれ?明日?
あ!
「ノアちゃん、例の件なんだけど……」
「深層の拠点の件ですよね。
もちろん、二人が落ち着いてからで構いません。
流石に今の状況では気分も乗らないでしょう。
こちらの世界で時間が経たずとも、アルカの体感は違うのですから」
「ありがとう、助かるわ。
それで、明日からの事なんだけど」
「今後の調査は私に任せて下さい。
ルチアを通して調査状況も把握しています。
アルカは二人の側にいるべきです」
「ノアちゃん……
わかったわ。ありがとう。
お願いね」
「はい。二人を元気づけてあげてください」
「うん。私も頑張るわ」
「ところで、あの子の名前は決めたのですか?」
「うん。決めてある。
ルビィ、がいいんじゃないかなって思ってるわ。
あの子の瞳は綺麗な赤色なの。
ハルちゃんの深い真紅の瞳と比べると、少しだけ明るい色合いよ」
「レヴィとも似た響きなのですね。
二人の関係なら喜んでくれるのではないでしょうか」
「うん。きっと気に入ってくれると思うの。
そうだわ!
明日はリヴィにも協力してもらいましょう。
名前だけでなく年も近いし、何よりリヴィはしっかりものだから、二人も心を開きやすいと思うの」
「お願いしてみましょう。
私の愛娘は頼りになりますから安心です」
「ふふ。そうね。
きっと良い姉妹になるわ」
「ルビィはともかく、レヴィはどうするべきなのでしょう。
お母さんが見つかったら帰すべきですよね」
「そうね。
そうは思うのだけど……」
「この騒動がその人の狂言だった場合、事と次第によっては帰すわけにはいきませんね」
「う~ん。
少なくとも、ハルちゃんはその可能性も懸念しているわ」
「アルカは納得できないのですね。
私はどちらの可能性も考慮して調査する事にします」
「そうね。悪いけどお願いね、ノアちゃん。
調査の方はお姉ちゃんにも協力してもらいましょう。
悪いけど、イロハにもお願いしていい?」
イロハが眼の前に現れる。
つい今しがたまでお姉ちゃんの側にいたけど、私の呼びかけを聞いて、間髪入れずに飛んできてくれた。
「後でサービスしてね」
「ありがとう、イロハ。約束するわ。
ノアちゃんは強いけど、魔術的な経験は少ないから、調査の補助だけでなく、護衛の意味でもお願いね」
「心得たわ」
「ルチアとお姉さんもいるのに過剰では?」
「少なくとも、私とハルちゃんすら見つけられない程の技術で、痕跡を隠した相手がいるはずよ。
用心するに越したことはないわ」
「なるほど。
ならばこれ以上は言いません。
ありがたく頼らせてもらう事にします。
というか、この件ならルネルさんも力を貸してくれるのではないですか?
本当にお手上げならば、頼ってみては?」
「ううん。無理ね。
私言ってしまったもの。
この件は私に任せてくれって」
「また深く考えずに安請け合いしたんですね」
「仕方ないじゃない。
あの子達の事情を知ったら放ってなんておけないわ」
「ええ。わかっていますよ。
だから今回は責めていないでしょう。
ただ事実を確認しただけです」
「ノアちゃん、厳しいわ。
もっと甘やかしてよ。
頭撫でて。ノアちゃん」
子供モードに変身してノアちゃんにすり寄る。
ノアちゃんは私を抱き締めて、いっぱい甘やかしてくれた。
「レヴィとルビィが元気になって、皆に任せられるようになったら、私も調査に合流するわ」
「なら競争ですね。
どちらが先に解決して相手を手伝えるか勝負です」
「ふふ。
勝った方のやることが増えるなんてあべこべだわ」
「けれどやる気は増すでしょう?
お互い、暗い気持ちで臨むよりはずっと良いですから」
「そうね。
レヴィとルビィの為にも明るく楽しく過ごしましょう」
「大丈夫ですよ。
アルカならきっとすぐです。
私もそうでしたから」
「やっぱり、ルビィの事で色々思い出しちゃうよね……」
「言った側から暗い顔をしないでください。
もうずっと昔のことです。
既に私の人生の三分の一は、アルカと共に楽しく暮らしてきたのですから」
「うん。ごめん。
もう言わないわ。
これからもよろしくね、ノアちゃん」
「はい。こちらこそ」
 




