4-13.杖の真価
偉そうな男の正体はルスケア領の領主本人だった!
いや、もうわかってたけどね。
兵士達連れてきて命令してるし。
魔王の眷属がわざわざ守ろうとしてたし。
「セフィド領?何を言っている!?
ワシが狙っていたのは貴様だ!」
なんと、びっくり。
セフィド領へのちょっかいは全部私が目的だった。
いや、まあ毎回都合よく私が解決するなぁとは思っていたけど、
逆だったわけだ。私がいるから周辺で事件が起きていただけなのだ。
最高ランク冒険者に暗殺者を放ったところで勝てるわけがないから、
わざわざ大規模な被害が出る方法でまとめて葬ろうとしていた。
どうやら、以前に私が旅をしている時に
ルスケア領内で解決した事件で目をつけられたらしい。
それ以来、何度も邪魔されたとの事。
知らんがな。
え~
こいつどうしよう。
生きて帰したら国にあること無いこと吹き込まれるよ?
今までどんな証拠を上げても罪に問えなかったのだから、
ルキウス司教という生き証人がいた所で、
国はこいつの戯言を採用する可能性が高い。
これについては正しいか間違っているかではなく、
権力の問題なのでどうしようも無いだろう。
そうしたら私達は犯罪者だ。
一旦どこかに幽閉するしかないだろうか。
兵士達ごと無人島にでも放り込んでこようかな?
でも鎧の男が身を挺して庇うほどだ。
まだこいつに利用価値があるのだろう。
目を離したら敵に回収されるかもしれない。
まあ、一旦置いておこう。
まずはこの装置を調査して皆と合流しよう。
この装置はこの町の全てのエネルギーを賄っているはずだ。
他に大きな魔力は無いようだし。
重要な装置だから、この町ごと破壊する時に何らかの保護がかかるのでは
と思って見に来たのだけど、見た感じ、防護壁みたいなのはない。
衝撃に反応して障壁とか貼るのかしら?
流石に試しに破壊してみるわけにもいかない。
やっぱりグリエモンに頼むとしよう。
私は皆の所に転移門を繋げ、
ノアちゃんと拘束した領主と兵士達と共に移動する。
「何かわかった?」
「うむ。わからん」
流石のグリエモンでもそんな短時間ではどうにもならんか。
若い頃とはいえ、専門家のドワーフ爺さんが放置していったくらいだし。
グリアには今度はもう一つの装置を見てもらう。
「こっちはなんとかなりそうだ」
早速心強い言葉をくれる。
こっちはそもそも実際に動かして管理していたものだ。
当然だけどちゃんと制御装置が存在する。
制御装置を何やら操作していくグリア。
その間に私は暴走した魔道具を収納空間に回収する。
破壊する事に変わりはないが、
こちらはこんな所で破壊するわけにもいかないだろう。
込められたエネルギー量が段違いだ。
なんせ、一国の民の命を全て吸い上げた代物だ。
周囲に町など無いとは言え、
無理やり破壊したらどれだけの規模の爆発がおきるかわからない。
あとで、遠い海の上にでも行って破壊しよう。
収納空間内なら妙なことにはならないだろう。
再び、グリアの所に戻る。
「措置は完了した。
ついでに魔力も放出しておいたから
少し時間を置けば誘爆することはないだろう」
「ありがとう。完璧だわ」
結局捕らえた領主と兵達は無人島に放り込む事にした。
転移で回収するにしても、場所がわからなければやりようがないだろう。
仮に敵が回収に来るならば、それはそれで尻尾を掴めるかもしれない。
領主と兵士達を分けて別々の無人島に運んでいく。
そうして、この地に生きている者は私達だけになった。
先に仲間たちを自宅に送り、
私は一人、地下のドワーフの国で天井近くまで上がる。
眼下にドワーフの国を見下ろしながら、
今私の放てる最大威力の爆撃魔法を生み出していく。
「!?」
そろそろかと思った所で、
杖に干渉されて魔法が急激に大きく膨れ上がっていく。
(まずい!このままじゃ制御しきれない!)
杖の力で魔法の制御を失いそうになりながらも、
なんとか堪えるが、魔法に込められる魔力がどんどん増えていく。
(おかしい!私の魔力は使われてないのに!)
必死に制御を取り戻しながら、
ようやく理由がわかってくる。
この杖は私以外の周辺に漂う魔力を吸収して
私の魔法を勝手に大きくしていくようだ。
先ほどこの国の中枢に溜め込まれた魔力が開放されているので、
今この空間には莫大な魔力が存在している。
なんとか制御を取り戻した魔法を即座に放ち、
ドワーフ爺さんから託された魔道具を放り投げて、
着弾を見届けること無く、私も自宅に転移する。
「はあ、はあ、はあ」
「「アルカ!」」
慌てて転移門に飛び込んできた私に
ノアちゃんとセレネが抱きついてくる。
「はあ~。大丈夫よ。二人共。
もう落ち着いたわ」
杖をみると、先端の魔石が砕け散っていた。
爺さんも全力を出すと粉々になるとは言っていたけど、
魔王と戦う前に壊してしまうとは・・・
「ちょっと結果を確認してくるから
もう少し待ってて」
「私も一緒に行く!」
「そうね。セレネの力ならなにかあった時心強いわ。
一緒に行きましょう」
「うん!」
私はセレネを抱き上げて、
今度はドワーフの国のあった洞窟の上空に転移する。
「「!?」」
そこにあったはずの洞窟は山ごと無くなっており、
巨大なクレーターが出来上がっていた。
クレーターに降り立って、
二人で辺りを探索していく。
ドワーフの国に関わる全てが消え去っている事を確認し、
私達は帰還した。