29-3.気持ち
「ところでエリスとの関係だが。
アルカ嬢はどのように考えているのかね?
差し支えなければ答えて頂きたい。
不躾な質問である事は承知している。
だが、大切な孫娘の一大事だ。
余の心情も察してくれるだろうか」
「ご懸念は尤もです。
察するに私の事もある程度の調べは付いているご様子。
私の嗜好については、おそらく噂通りです。
私は女性を愛し、何人もの少女を連れ歩いております。
こちらのノアも伴侶の内の一人です。
エリスも何れは私の伴侶に迎えたいと考えております」
「いや、そうではない。
事実ではなく、貴殿の気持ちを聞きたいのだ。
エリスに対してどんな感情を抱いている?
あの子の想いをどう受け止めている?
それを問うておる」
「あの子は優しく、真っ直ぐな努力家だと思います。
母の為、剣聖を目指して一心に研鑽を積んできた筈です。
その在り様を尊く思っているのは間違いありません。
ですが、同時に年相応、あるいはさらに幼い部分すらも持ち合わせています。
時にはそれが危うくも映ります。
あの子には経験が必要です。
広い世界を見て回る必要があります。
私があの子の想いに応えるのはその後です。
今はまだ、我が娘のように接したいと考えております」
「ふむ。まあ、よかろう。
短期間によく見ているようだ。
貴殿ならば悪いようにもすまい。
だがなぁ~エリスがなぁ~。
マリア、どうにもならんか?」
「ご容赦を」
どうせこの王様、私が転移を使える事だって知ってるんじゃない?
転移自体、地下の町の一件でギルドにはバレているのだし。
この国だってギルド本部にスパイくらいいるだろう。
まあ、だからって余計な事は言えないけれど。
でも、毎日帰していたら近い内にバレるんだろうなぁ。
ならいっそ、こっちからバラすべき?
『ハルちゃん、どうする?』
『ひつようない』
『いんぺいてってい』
『それに』
『バレたらバレた』
『さっしてくれる』
『そうおもっとく』
『なるほど。
そんな風にもとれるのね』
それから暫くエリスの事を語った後、王様は王子とマルセルさんを引き連れて城に帰っていった。
あの王様一人で来たみたいなんだけど、護衛とかは?
いやまあ、なんか普通に強そうだったけど。
とはいえ、そんな問題でもあるまい。
もしかして、こっそり出てきていたのかしら。
「長々と悪かったな」
「ううん。
気にしないで、マリアさん。
それに王様自らエリスの今後について承諾してくれたのだもの。
話が早くて助かるわ」
「良い事ばかりでは無いがな」
「なにか問題があるの?」
「ああ……まあ、気にするな。
今すぐという事もあるまい」
「なにがよ。
そんな言葉を濁すくらいなら、言ってしまってはどう?」
「いや、陛下に借りを作るのは失敗だった。
そう思っただけだ」
「無理難題でも押し付けられるの?」
「まあ、そんな所だ」
「いいわ。
その時はその時に考えましょう」
「ああ。それが良い。
どうせこの場で考えてもわからんのだ」
「さて、話はこれくらいにして、マリアさんはエリスと過ごしてあげたらどう?
明日も夜には帰すつもりだけど、気持ち的には必要でしょう?
エリスはまだ部屋で起きているみたいよ」
「そうだな。
ならば、先に休ませてもらおう。
必要な事があれば好きに家の者を使うが良い」
「ええ。ありがとう。
おやすみ、マリアさん」
そうして、マリアさんはエリスの部屋に向かった。
今日は母娘水入らずで仲良く眠るのだろう。
いや、イリスがいたわね。
まあ、気を使ってくれるだろうし大丈夫だろう。たぶん。
「クレア、あなたはどうするの?
明日は私達と一緒に帰る?
それともここに残る?」
「はあ?
何言ってやがる。
残るわけねえだろ。
少なくとも、お師様に一撃入れるまで離れるつもりはねえ」
「それじゃあ不老魔法使っとく?
絶対寿命足りないわよ。
まあ、ルネルだって流石にそこまでは付き合ってくれないでしょうけど」
「ばか言え。
あの人の嫌がる事なんざするわけねえだろ」
「でも正直興味あるわよね?」
「……まあな」
「私達が皆若い姿を維持する中で、クレア一人だけがおばあちゃんになっていくのね」
「アルカ、止めなさい」
「はい」
『すきなこ』
『いじめたくなる』
「別にそんなんじゃないわ。
ハルちゃんは私の気持ちを正確に理解してる筈じゃない」
『ほうこうせい』
『ちがうだけ』
『つよさ』
『たいさない』
『すなおになる』
「私が自分の気持ちを偽る為に意地悪してるって言うの?
そんな筈無いわ。
私はクレア大好きよ。
それは自覚しているし、はっきりと言葉にできるもの。
けれど、間違いなく恋では無いわ」
『それはそう』
『けど』
『ようきゅう』
『すなおにいえない』
『アルカが』
『クレアに』
『ふろうまほう』
『つかいたい』
『けど』
『すなおじゃない』
『みずからのぞむよう』
『ちょうはつする』
『おねがい』
『できない』
『かぞくでいて』
『ねがうのも』
『ひっしさたりない』
『じぶんのきもち』
『はぐらかしてるから』
「……」
「……」
「ハル、焦れったくなるのもわかりますが、そこまで暴露するのはやりすぎです。
クレアさんが真っ赤になってしまいました。
こんなクレアさんは初めて見ますね」
「……そう?お酒飲んでる時と変わらなくない?」
「……そういう所だろ。
お前が指摘されてるのは」
「ごめんなさい、ハル。
やっぱりハルが正しいみたいです。
私は席を外しますから、二人をお願いします」
『がってん』
「待って!ノアちゃん!」
「待て!ノア!」
「おやすみなさい」




