29-2.忠告
食事が終わると、マリアさんはエリスに退席を促した。
どうやら、王様は私達に話があるようだ。
イリスは私が何も言わずとも、エリスに付いて行った。
そういえば、イリスの事はまだ王子とマルセルさんにも紹介して無かったけど、特にツッコまないでくれたわね。
王様の登場でそれどころでは無くなってしまったのだけど。
「アルカ嬢、そなたは何者だ?」
いきなり直球で来たわね。
普通そういうのってもう少し回りくどく聞いてこない?
「質問の意図が図りかねます。
冒険者でSランク。
それ以外の素性について話すことはできません。
ご容赦下さい」
「うむ。いや、構わんよ。
貴殿はこの国の民ではない。
ましてやSランクの中でも飛び抜けた実績の持ち主だ。
数年前この国も貴殿の活躍には救われている。
恩人の秘密を暴き立てたいわけではないのだよ」
ごめんなさい、記憶にございません。
いやまあ、何時もの事なんだけど。
とはいえ、この感じは少し久しぶりね。
アリアの国に初めて行った時以来かしら。
それもなんだかんだ三年以上も前なのよね。懐かしいわ。
『しゅうちゅう』
がってん。
「だが、それでも問わねばならん。
貴殿の内包する力は異常だ。
やろうと思えばこの国を丸ごと吹き飛ばせるのではないかね?」
どういう事?
王様も覚視が使えるの?
それとも魔道具?
今は流れ出す力を抑えているとはいえ、この国に来た時は隠蔽していなかった。
挙げ句、城の中にまで入り込んでいる。
私の存在に気付いていてもおかしくはなかった。
「私にそのような意図はございません」
「うむ。
その言葉を信じるとしよう」
「宜しいのですか?
そんな簡単に信じられますか?」
「その質問には意味がなかろう。
信じようが信じまいが、我々に抗する手段など存在せぬ。
ならば、せめてもの親交を結ぶ他あるまい」
「はっきり仰るのですね」
「あまりにも強大過ぎるのだ。
剣聖と同質かつ、桁違いの力を持つ貴殿ならば、暗殺の類も通じんだろう。
毒の類ならばもしやと試す気にもならん。
それでしくじれば最悪この国は塵も残らんのだ」
「投げやりが過ぎるのでは?」
「貴殿がそれを言うのかね?
今は抑えているようだが、この国を訪れた時点では垂れ流しておったろう。
あれで我が国のとある部署は狂乱状態に陥った。
事態の収拾には随分と苦労したのだぞ」
「それは……申し訳ございません。
配慮が至りませんでした」
覚視か魔道具を使って国を見張る部署があるのね。
王子達が何も言わなかったのは知るのが遅れたのか、私達にその部署の存在を伝えるわけにはいかなかったからか。
なんか、王様は普通に愚痴ってきたけど。
「力を得てからそう時が経っていないのであろう。
心せよ。貴殿らの力はただ在るだけで毒となる。
要らぬ混乱を振りまけば、望まぬ被害を産むだろう。
アルカ嬢だけでなく、ノア嬢、イリス嬢の力も隠す事を勧める」
「ご忠告感謝致します。
対策を講じます」
「うむ」
もしかして、本当にただ忠告してくれただけなの?
極秘部署の存在まで明かして?
というか、私のデタラメな力がこの国の一部にバレたの?
これ想像以上にやばいやらかしじゃない?
『ごめん』
『ううん。ハルちゃんのせいじゃないわ。
とりあえず皆にも共有しておいて』
『がってん』
ハルちゃんが隠蔽方法をフィリアス達に共有すると、ルチアとイリスもすぐに反映してくれた。
問題なくノアちゃんとイリスの力が抑えられたようだ。
王様は特に反応を示さなかった。
やはり、この人が覚視とかで視えるわけではないのだろう。
今頃また、城の方でとある部署とやらが慌てているかもしれないけど。
もしくは安堵に胸を撫で下ろしているのだろうか。
正直、私は甘く見ていた。
覚視を私達だけの技術だと勘違いした。
魔道具の存在を失念した。
今更、人間の国に私達を脅かす存在などあるわけがないと思っていた。
私達の力に気付かれる可能性など考えてもいなかった。
王様からの忠告は心底ありがたいものだった。
まだきっと大丈夫なはずだ。
広範囲の力を調べられる魔道具などそうそうあるわけがない。
少なくとも、各国に一つとかそんな多いはずはない。
この大国だからこそだろう。
グリアのお母様の魔法大学やあの国にも気付かれている可能性はあるが、私と結び付けられるのは精々、お母様くらいだろう。
とはいえ、近い内に念の為様子を見ておくべきかもしれない。
「陛下、この御恩はいつか必ず」
「うむ。それは重畳。
これに限らず、よき関係を築ける事を期待する」
「それこそ宜しいのですか?
関わらない事こそ望ましいのでは?」
「余の好みではない」
「ふふ。剛気なのですね」
「ふむ。
アルカ嬢、これから我が城へ」
「陛下!」
「何じゃ愚息よ。
今は忙しい。用ならば後にせよ」
「それ以上続けるのであれば、御母上に、いえ、エリスに告げます。
陛下がエリスの想い人を横から掠めようとしたと」
「やめんか!!」




