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28-50.可能性

 結局もう一晩、公爵邸に滞在する事になった。

明日の朝、エリスを連れて自宅に帰る予定だ。

エリス失踪の件も婚約の件も、後は王子達に任せる事になる。

本当にそれでいいのだろうか。

私達は何の為に来たのだろうか。


 いや、まあ、最初からマリアさんの目的はクレアにエリスを任せる事だった。

あくまでも、その為にクレアを呼び出しただけなのだ。


 それに反して、王子の目論見はクレアを娶ることだった。

今のところその可能性は低そうだけど、無いとも言えない。

クレアが私達の下を去る事は複雑だけど、二人の恋路を邪魔する気もない。

仮に王子がクレアを振り向かせられたのなら、素直に祝福してあげよう。

逆に私が先にクレアを自分のものにしたのなら、王子には潔く諦めてもらうとしよう。


 王子はエリスをどうするつもりだったのだろうか。

自身の思惑を優先して、あとはどうでもいいというわけでもあるまい。

王子もエリスを可愛がっているのは間違いない。

結局、終始クレアを口説いていただけなので、実は王子の考えが一番よくわかっていない。

マリアさんもエリスも王子を信じているようなので、味方なのは間違いないのだろうけど。


 なにせ、あのクレアが渋々ながら、いやもうそうでもないかも?意外と満更でも無さそうじゃない?

とにかく、心を許している様子だ。

ならば善人なのは間違いないだろう。

王子はともかく、クレアの感性は信じている。


 マルセルさんの目的はどうなのだろう。

本人の希望としては、王様の目論見通りに王子とエリスを婚約させたかったようだが、王子とマリアさんの意見を優先して、自身の意見を強弁する事は無かった。

あくまでも、二人の考えを尊重するつもりのようだ。

本当にそれだけで良いのだろうか。

なにか秘めた目論見はないのだろうか。


 クレアを呼び出したのはこの三人だけど、この三人共に別の思惑を持っていた。

とはいえ、互いにその意見を尊重し合ってもいるようだ。

どの案が通っても全員で協力するつもりらしい。

この三人の中で、マリアさんも大きく年齢が離れているわけでもないので、クレア以上に幼馴染としての仲が深いのかもしれない。


 今日も王子とマルセルさんはクレアと行動を共にした。

一日中こっちにいたようだけど、そんなに暇なのだろうか。

いい年した第一王子なんて忙しそうだけど。

第一とはいえ、皇太子では無いのかもしれない。

その辺りの事は聞いてないけど、十年以上もクレアに拘り、結婚もしていない状態で周囲から見逃されているのだから、他に跡継ぎがいるのだろうとは思う。


 まあ、私達は明日には帰るけど、これで完全に縁が切れるわけでもないのだし、今度また様子を見に来る事にしよう。

王子の婚約者問題にこれ以上協力する事は出来ないけど、結果は気になるし。

エリス、イリス、クレアの三人はこれから毎日通うのだ。

たまに同行するくらいは許してくれるだろう。

折角仲良くなれたのだから、マリアさんともまた会いたい。

マリアさんは少し年上のお友達というか、お姉ちゃんというか、とにかく話していて楽しい。

今度、深雪お姉ちゃんも誘ってみようかしら。

なんか生真面目な所が似ているし、相性良いかもしれない。



「そろそろ晩ご飯の時間ですよ」


「「「は~い」」」「……」


 私達がエリスの部屋でのんびりと寛いでいると、ノアちゃんが呼びに現れた。



「ベタベタし過ぎでは?

 先程の話、本当に理解しているのですよね?」


「ただの膝枕じゃない」


「ノア姉ちゃんもする?」


「じゃあワタシはルチア姉ちゃんにお願いするデス」


「……」


「わかったわ、メアちゃん。

 メアちゃんは私がしてあげる」


「後にして下さい。

 それと、メアとイリスは同化しておいて下さい。

 まだお二人には紹介してないのですから」


「メアちゃんはともかく、イリスは紹介しておいた方がいいんじゃない?

 王子とマルセルさんと鉢合わせる事もあるかもよ?」


「そんなわけないでしょ、アルカじゃあるまいし」


「エリスは隠し事得意?」


「うん!任せて!」


「……いえ、やはり紹介しておきましょう」


「ノア姉ちゃん!?信じてくれないの!?」


「そうではありません。

 なにか問題が起きた時にイリスの力は役に立ちます。

 信頼出来る人に手札を明かしておくのも必要な事です。

 最低限、事前に顔合わせくらいはしておくべきでしょう。

 当然、普段の生活で無闇に姿を晒すべきではありませんが」


「そう?なの?」


 ノアちゃん、少し焦ったわね?

勢いで押し切ったせいで、エリスが戸惑っているわ。

イリスの事が後でバレて問題になるよりも、先に話しておくべきではあるだろう。

なにせ、イリス一人でもこの国を滅ぼせるくらいの力はあるのだし。

そんな事を王子達が気付く事はないだろうけど、なにか妙な勘違いが起きても困る。


 それに、念の為釘を差しておくべきだろう。

例えこの国が滅びそうになったとしても、イリスの力を利用する事を認めてはいけない。

ハルちゃんの教育でイリス本人は理解しているだろうけど、エリスを通じて間接的に利用しようという輩が現れないとも限らない。

それが国の危機ならば、利用しようとするのは王子やマルセルさん達かもしれないのだ。

知らせる事もリスクだが、バレる可能性があるのなら、先にこちらから伝えて一言付け足しておくのも有効だろう。

少なくとも、ノアちゃんはそう判断したようだ。


 それにしても、フィリアスが従順だから問題になってないけど、私達ってこの世界にとって爆弾みたいな存在になってきてるわよね。

ニクスに心労を与えないように気をつけないと。

今更すぎるよ!って言ってそう。



『せいかい』


 ですよね~



「とにかく行きましょうか。

 メアちゃん、カモン!」


「……」


 こくりと小さく頷いたメアちゃんが、私を抱きしめる腕に力を込めてぎゅっとしてから、霧化して溶け込んでいった。

かわいい。



『あざとい』


 嫉妬?



『アルカ』

『みためにだまされる』

『ダメ』

『メアだって』

『ふつうにはなせる』


『ちしきまで』

『おさない』

『わけじゃない』


『……』


『ハルちゃんに言われたくないって』


『いいどきょう』

『ほしゅうじゅぎょう』

『ひつよう』


『虐めちゃダメよ』


『しかたない』

『ほどほど』

『してあげる』


『頑張れ!メアちゃん!』


『……!』


『嫌だって、ハルちゃん』


『うるさい』

『はやくいけ』

『またせるダメ』


『ハルちゃん機嫌悪いわね。

 命令されるなんて初めてよ。

 ちょっといいかも』


『……(なんでよろこんでる?)』


『ハルちゃんだからよ』


『……?』


「アルカ、何時まで転がってるつもりですか?」


「ごめん、今行くわ」


 私は起き上がって、エリスに手を差し出す。

ベットに腰掛けていたエリスが私の手を握って、動き出そうとした所で、バランスを崩しかける。



「足痺れちゃった?」


「そうみたい」


 まあ、ずっと私の頭を乗せていたし、肩にはイリスももたれ掛かっていたし無理もない。


 私はエリスをお姫様抱っこで抱え上げる。



「きゃ!

 えへへ~」


 大喜びで私の首にしがみつくエリス。



「まったく。

 皆の所に着くまでですよ」


 呆れながらも見逃してくれるノアちゃん。

ノアちゃんはそのまま歩き出した。


 私とエリスもノアちゃんに続き、最後にイリスが続いた。

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