28-45.子供らしさ
「アルカ様、ノア姉ちゃんってとっても強いのね」
「そうよ~
エリスもいっぱい頑張れば、いつかきっと追いつけるわ。
何せ、そのノアちゃんが先生になってくれるんだもの」
「嬉しい!頑張るよ!」
「おい、アルカ。
何でお前の膝にエリスが座ってやがる。
いきなり懐きすぎだろ」
「クレア、君は僕の膝に来てはどうかな?」
「空気を読んで下さい、殿下」
「クレアには今からハルちゃんを貸してあげるんだから、そんなに妬かないでよ」
「妬くか!!」
「お待たせしました。
随分賑やかですね。
ちゃんと見ていてくれましたか?」
「ええ、もちろん。
あの居合もすごかったけど、炎の方も驚いたわ。
まさかあんな使い方をするなんて。
けれど、あれは少し派手すぎるんじゃない?
ノアちゃんがダメだって言ったのよ?」
「そうですね。
少し調子に乗りすぎました。
今日はもう使いません」
「今度人目の無い所で全力を見せてね。
あれって空中戦もできるのでしょ?」
「はい。他のも大体再現出来ていると思いますよ」
「分身なんて使ってたっけ?」
「あれは先代の方を参考にしました」
「もしかして、もっとたくさん生み出せるの?」
「ええ。元は軍勢ですから」
「というか、それってアニメの記憶だけじゃ……
ノアちゃん、後で少し話があるわ。
頑張るノアちゃんは大好きだけど、本当に人間らしい生活を送れているの?」
「それは……」
「今はこれ以上言わないわ。
けれど、本当に沢山頑張ったのね。
流石私のノアちゃんだわ」
私はエリスを隣に座らせて、ノアちゃんを抱き寄せる。
完璧で万能なノアちゃんでも弱点はある。
この子はまだ子供だ。
ついつい頼ってしまうから忘れていたけど、ちゃんと見守ってあげなきゃいけなかった。
もっと側にいてあげよう。
無理をし過ぎないように気を付けよう。
やりたいことがあるのなら、やらせてあげよう。
その為に私に出来ることをするべきだった。
家事をやりたがるからと、任せきりにしてはいけなかった。
取り上げてでも、趣味のための時間を作って上げるべきだった。
全部押し付けて、その上気付いてすらいなかったのに、こんな風に叱るみたいに言うのは間違ってる。
けれどそれでも、少しずつ直していこう。
人間を超える肉体を持っているのだから、睡眠時間は少なくたって問題ないのかもしれない。
ルチアが何か手を貸しているのかもしれない。
もしかしたら、ノアちゃんも自身の心の深層に籠もって修行していたのかもしれない。
というか、たぶんしてる。
いくら何でも二ヶ月程度で出来る事じゃない。
どれだけノアちゃんが努力家だからって限度がある。
ノアちゃんの心は私と同じように異界化している。
ニクスがアムルの心を癒やすために仕組んだからだ。
ルチアがいるのだから、ノアちゃん自身が入り込む事だって出来る。
入れるのは意識だけとはいえ、修練を積むには十分だ。
いったいどれだけの時間を過ごしたのだろう。
あんな何も無い真っ暗な空間で、ノアちゃんは一人きりで過ごしていたはずだ。
ルチアも干渉は出来ても、姿を現せるわけではないはずだ。
もしかしたらセレネは付き合ってくれたのかもしれない。
二人の世界は繋がっている。
とにかく、この件は後だ。
私がいくら考えたって意味はない。
ノアちゃんからちゃんと話を聞くべきだ。
必要なら叱ってあげるべきだ。
ノアちゃんなら話せばわかってくれる。
何より、私が反省しよう。
ノアちゃんから目を離しすぎた。
盲信して放置した。
頼って押し付けた。
「ごめんなさい……」
「ふふ。今は褒めているのよ」
「うん……」
「ノアちゃんが自分の好きな事の為に内緒で無茶しちゃうのも、それはそれで嬉しいのよ。
良し悪しは別としてね。
それも人間らしさや子供らしさだと思うの」
「うん……」
「さあ、元気を出して。
今は素直に楽しみましょう。
ノアちゃんの頑張りをもっと私に見せてね。
ノアちゃんとの試合も楽しみにしているわ」
「うん」
「ハルちゃん、こっちはもう良いわ。
クレアが呼んでるから行ってきて」
「がってん」
大人モードで私の中から出てきたハルちゃん。
「「!?」」
そういえば王子とマルセルさんには見せてなかったわね。
まあ、いっか。
「アルカ様!その方は!?」
あれ?エリスも驚いてるの?
昨日、ってそうか。
昨日は元の姿の幼女モードだったものね。
「ハルちゃんよ。
魔法で大人の姿になったの」
「え~~~!?」
「さあ、そんな事より次はクレアとハルちゃんの試合よ。
しっかり見ていましょうね。
ハルちゃんもとっても強いんだから」
ノアちゃんが私の隣に座ると、エリスが再び膝に座った。
ノアちゃんはちらっとエリスを見てから、私の腕を抱いてハルちゃん達に視線を戻した。




