28-41.順序
「どういうつもりですか?」
「ごめんなさい」
「どういうつもりかと聞いたのです。
謝罪を要求したように聞こえましたか?」
「……ごめんなさい」
「それしか言えないのですか?」
「その……ごめんなさい」
「はぁ~~~~~~」
「ノアちゃ……」
「どうせ状況に流されたのでしょう。
説明出来ないほど情けない理由なのでしょう。
ええ、その程度の予想はできます。
アルカの事ですからよくわかっています。
ここですぐに言い訳しないだけ、成長したのだと喜ぶべきかもしれません。
ですが、それはそれです。
どんな理由があろうとも関係ありません。
今の状況でエリスに手を出すなんて論外です。
何れはそうなったとしても、今はまだその為に必要な行動を何一つ済ませていません。
順序が違います。
段階を踏む必要があります。
踏み外したのならば、正さねばなりません。
許しを得ねばなりません。
先ずはマリアさんです。
全ての経緯を詳らかにして、娘さんを下さいと願い出る必要があります。
必ず許可を得る必要があります。
当然、エリス本人にもです。
明確に言葉にして、アルカの気持ちを伝える必要があります。
この期に及んで気持ちは向いていない、出来心だったなどという言葉は許しません。
そんな事を口にするなら、アルカの舌を切り落とします。
二人の許しを得たのなら、次は家族です。
私に、セレネに、皆に、そしてクレアさんに許しを請わねばなりません。
必ず全てやり遂げて下さい。
どれか一つでも成し遂げられないなど認めません。
わかりましたか?」
「……はい、約束します」
「ならば今すぐ行動してください。
何時まで寝間着でいるつもりですか」
「はい」
私とエリスちゃんが夢中になっているところにやってきたノアちゃんは、エリスちゃんを部屋から出して、私に先程の話を始めた。
ノアちゃんは声を荒げる事なく、淡々と語り聞かせてきた。
そして、私が着替え始めると、一人で部屋を立ち去った。
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「あれ?」
「どうしたの?
アルカ様?
してくれないの?」
「エリス?」
「まだ寝ぼけていたの!?
ひどい!!」
「ああ、いえ、違うのよ!
今のはエリスにしたの!
ノアちゃんだと思ってしたわけじゃないわ!
ってそうじゃなくて!
ダメよ、エリス。
これ以上はまた今度ね。
先ずはお母さんの許可を貰わなきゃ。
まだ私の下に来ることを許してもらえてないでしょ?」
「むうー!!
行けって言ったり、やっぱり嫌って言ったり我儘よ!」
「それはエリスの事が大切だからだってわかるでしょ?」
「そうだけど~」
「さあ、こんな所を誰かに見られたら怒られてしまうわ。
私も着替えたいからベットから出ましょう」
「本当にだめ?」
「全てが済んだら必ずしてあげる。
もっと凄い事だってね」
「もっと!?」
「もっともっと」
「きゃー!」
「朝から何を騒いでいるのです?」
「おはよう、ノアちゃん。
エリスが私を起こしに来てくれたのよ」
「あれ?
呼び方変えたのですか?」
「ふっふ~」
満面の笑みを浮かべるエリス。
そのまま上機嫌に部屋を出ていった。
「アルカ?」
「ちょっと仲良くなっただけよ。
喜んでもらえたようで何よりだわ」
「そうですか。
わかっているとは思いますが、順番は守ってくださいね」
「うん。
先ずはマリアさんね」
「はい。
頑張ってください」
「ありがとう。
ノアちゃんもお願いね」
「任せて下さい」
「とりあえず、着替えて食卓に向かいましょう」
私はベットを出て着替え始めた。
今度はノアちゃんは離れずに私が着替えるのを眺めていた。
ノルン、あなたよね?
ありがとう。助かったわ。
けれど大丈夫?無茶してない?
力は失ってしまったのよね?
『だいじょうぶって』
ハルちゃんに伝言出来るの?
『アルカネット』
『フィリアスなら』
『かいわもか』
『誰かが電話機代わりになってくれているのね』
『チグサ』
チグサもありがとう。
『どういたしまして』
『だって』
『ところで、何でハルちゃんは助けてくれなかったの?
ノアちゃんが近づく前に止める事だって出来たよね?』
『べつのみらい』
『ハルのせいちがう』
『理由くらいはわかってるでしょ?』
『しらない』
『ハルみえない』
『みたのアルカだけ』
『ハルちゃん?とぼけてるの?』
『じじつ』
『今度は助けてね?』
『まかせろ』
本当かしら?
『うたがう?』
『いいえ。
ハルちゃんのせいじゃないわ。
きっと私がエリスに夢中になりすぎたから、気を使って意識を逸らしていてくれたのでしょうし』
『たぶんちがう』
『え?』
『ハルも』
『むちゅうになった』
『かも?』
『私に引きずられたの?』
『たぶん?』
『へいこうせかい』
『アルカのきおく』
『だんぺんてき』
『かんせつてき』
『かいせきむずかし』
中々難しいのね。
『むねん』
『しょうじんする』
大丈夫よ。私のハルちゃんは凄いんだもの。
私のハルちゃんに出来ないことなんて無いわ。
『まかせろ』
内心でハルちゃんと話しながら準備を済ませた私は、ノアちゃんと二人で朝食の席に向かった。




