4-11.覚悟
私達は魔道具とその周囲に集まる男達から
少し離れたところに隠れて様子を伺う。
幸いまだ敵は私達に気付いていない。
今の内に方針を定めよう。
まず、ルキウス司教は捕縛したい。
魔王の眷属の一味だ。
本人も指名手配犯だし、
敵の情報を吐かせる必要がある。
ルスケア領の兵士達はできれば追い返したい。
領主は敵だが、流石に兵士の一人一人が
悪意を持って行動しているわけではないだろう。
とはいえ、指名手配犯と行動を共にしている
事については擁護できない。
写真が無いとはいえ、
似顔絵くらいは出回っているし、
仮にも領地を守護する兵士が、
国中で追われている犯罪者を匿って
知らなかったでは済まされない。
ただ、少なくとも彼らは命令に従ってここにいるはずだ。
今のところはまとめて始末してしまうわけにはいかない。
それにあの人達からすれば、私達の方が侵入者だ。
あちらは自領の遺跡を調査しに来ただけなのだから。
また、追い返す際にはこの地の技術を
何一つ持ち出されないようにする必要がある。
領主に渡ってしまえば悪用する事は間違いない。
私は自分の考えを皆に伝えて意見を求める事にした。
「グリアどう思う?」
「どの道、戦うしか無いのではないかな?
司教と共にいる以上、
司教を襲えば兵どもは庇うしかなかろう。
穏便に済ますなんて都合の良い手段は存在せんよ。
せいぜい覚悟を決めるしかあるまい。
一兵士の善悪など戦場には関係ないのだから」
そうね、そのとおり。
確かに、少々余計な事を考えすぎていたのかもしれない。
私だって必要とあらば個人の善悪関係なく始末してきた。
私はこの地をこれ以上穢したくはないのかもしれない。
不要な争いで血を撒くのが嫌なのだろう。
当然それはあくまで可能ならばだ。
「そうね。ごめんなさい。余計な事を言ったわ。」
「気にするな。私の仕事は考える事だ。
私は私の役割を果たしたに過ぎないよ」
グリアは微笑みながらそう言ってくれる。
「私は彼らを全員倒す事にしたわ。
可能な範囲で生け捕りにするけれど、
最悪全員始末する事も覚悟する。
それでも皆一緒に戦ってくれる?」
全員が賛同してくれた。
私達は配置を決めて近づいていく。
前衛にクレアとノアちゃん。
真ん中に私。
後衛にグリアとそれを庇うようにセレネ。
今は飛行魔法は使っていない。
この空間は天井の全てが
常に穏やかな光を放っているため、
上空にいると目立ちすぎる。
こちらから仕掛ける前に気付かれるだろう。
「行きます!」
ノアちゃんの合図でクレアとノアちゃんが走り出す。
敵は二人に気が付き、慌てて武器を構える。
二人が次々に兵士達を気絶させていく間、
私はその場を逃げ出そうとしていた
司教達の前に転移で回り込んで捕縛する。
「魔女め!なぜこんな所に!?」
「それはこっちのセリフよ。
まさか領主に取り入るなんて
魔王の眷属も案外たいしたことないのね」
「ふん!我々は奴を利用しているだけだ!」
やはり、領主とグルなのは間違いないらしい。
「今日はお得意の転移で逃げないのね?
やっぱり貴方はまだ力をもらえてないのね。可哀想」
「貴様!」
この男は腹芸が出来ないようだ。
私でも簡単に口を割らせられそうだ。
否定しないという事は
やはり敵は転移が使えるのだろう。
司教からは一切魔王の力を感じない。
おそらく、枢機卿からも戦力としては
当てにされていないのだろう。
教会騎士ですら力を持っていたのに。
まあ、この男には何の力も無いようだし、
転移で逃げられないのであれば
尋問は専門家に任せよう。
私は転移門をギルド長の部屋に繋いで、
いきなりのことに驚いているギルド長に向かって
拘束した司教を放り投げる。
「悪いけど、尋問は頼んだわよ」