28-36.悪徳商法
エリスちゃんが食事を終えて落ち着いた後、マリアさんは約束通り、エリスちゃんに先程の話を切り出した。
行儀良く、最後まで話しを聞いていたエリスちゃんだったが、案の定マリアさんの側を離れる事については、頑として受け入れられなかった。
「お母さん!
絶対に嫌だよ!
お母さんを置いていけるわけ無いでしょ!」
「だがな、エリス。
お前はこの国で暮らすべきではないのだ。
剣聖など、拘る価値はない」
「それはもうわかってるってば!
そんな話じゃないの!私はお母さんと一緒にいたいの!
その為に必要だって思っただけなの!
胸を張ってお母さんの娘だって言いたかっただけなの!
私にとって剣聖なんて最初からそれだけのものなの!
拘ってるのはお母さんの方でしょ!
誰がなんて言ったって関係ないよ!
そんな事で私の未来を決めつけないでよ!」
「エリス……」
あれ?
マリアさん?
言葉に詰まるの早くない?
エリスちゃんがそう言うのはわかってたでしょ?
もしかしてノープランだった?
勢いで乗り切ろうとしてた?
マリアさんはもう少し冷静だと思っていたけど、やっぱり根っこはクレアと同じなのかしら。
『どうする?
ノアちゃん』
『どうとは?
余計な事はせずに、アルカは見守っていて下さい。
マリアさんとも、そう約束したはずです』
『でも分が悪いみたいよ?』
『だからどうしたというのです?
マリアさんが説得できないのであれば話はそこまでです。
マリアさん自身も決断はエリスに任せると言ったのです。
先程の話は無かったことになるだけです。
まあ、どうせそんな事にはならないでしょうけど』
『何か根拠があるの?』
『根拠?
そんなのアルカに決まってるじゃないですか。
アルカが目を付けたのですから、転がり込んでくる事はもう決まっています。
その結末だけは変わりません』
いや、なんの根拠にもなってないじゃない……
やっぱり、ノアちゃんは私を盲信しているの?
私をというか、私の運命的なやつ?
流石に今回ばかりはもう無理じゃない?
一回仕切り直して、また数年後に迎えに来るとかにする?
私の家族、というかこの世界の子達は、別に十歳程度で親元を離れる子も珍しくはないけど、まだまだ親の側に居たいと思っていてもおかしな年齢でもない。
エリスちゃんとマリアさんみたいな仲良し親子なら尚の事だろう。
「エリス、私もお前と共に生きていたい。
手放したいなどと思うはずがない。
だがな、それでもだ。
だからこそ、お前の幸せを望むのだ。
なれば、これは私の我儘だ。
私がお前を幸せにしたいだけなのだ。
その為に最も相応しいと思う道を示すのだ。
だから頼む。どうか今は聞き入れてくれ、エリス。
そして、いつかまた帰ってきてほしい。
幸せになった姿を見せにきてほしい。
どうか、私の夢を叶えてくれ、エリス」
「お母さん……」
「エリスちゃん、最初はお試しでも良いわよ。
毎日この家から通っても構わない。
そのための力を授けて上げる。
当然、私の下を離れるのなら授けた力は返してもらうけど、その間に得た経験は十分に役に立つはずよ。
剣聖として恥ずかしくない程度の力は得られるでしょう。
最終的にどちらに転んでも、エリスちゃんの為になる事は保証するわ。
どう?興味ない?」
「アルカ様!
それは本当ですか!?」
「ええ。全て真実よ。
私よりずっと強くて頼りになるお師匠様もいるの。
エリスちゃんが元から持っている才能も必ず伸ばしてくれるわ」
『アルカ、ルール違反です。
余計なことはするなと言ったばかりですよ。
というか、マリアさんが心から言葉を尽くしているのに、もう少し黙って見ていられなかったのですか?
後でお説教です。
それにそもそも、剥奪なんてできるのですか?
契約の解除はハルに、不老魔術はニクスに頼むとして、転移の件はフィリアスを渡すつもりですよね?
いつか引き離される時になって、エリスとその子が納得するとでも思っているのですか?』
『まあ、無理でしょうね。
フィリアスは宿主に好意を持ってしまうものだし。
宿主側もフィリアスには心を許してしまうみたいだし。
身も心も共有するのだから当然なのだけど。
その証拠に、ノアちゃんとセレネすらあっさり陥落したものね』
『アルカ、まさかとは思いますが、一度契約すれば逃げられないから関係ないと思っています?
それはいくらなんでも、たちが悪過ぎます』
『あくとくしょうほう』
『失礼ね、二人とも。
全員が幸せになれる良い提案じゃない』
『本当に契約を結ぶ前に、全ての真実を明かして下さい。
当然、マリアさんにもです。
不意打ちは許しません』
『流石にここでは話せないわ。
王子やマルセルさんに聞かれるわけにはいかないもの』
『当然です。
場所を移しましょう。
いっそ、アルカの世界にでも招待しますか?
それとも、私達の家に転移でもします?』
『それも避けたいわね。
素直に、この屋敷のどこかに部屋を借りましょう』




