表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

612/1375

28-29.素質

 私達はクレアの実家である、公爵邸に移動した。

公爵邸は城のすぐ側にあり、案の定広大な敷地と大きな屋敷を備えていた。


 そのまま真っ直ぐに訓練場へ向かうマルセルさん。

どうやら、最後まで先導するつもりのようだ。

まるでこの家の事はよく知っているという感じだ。

案外、普段から稽古でも付けてもらっているのだろうか。

特別強いとは感じないけれど、多少の心得はあるようだし。

まあ、王子の側近である以上、最低限の護衛はできるのだろう。



「どうぞ、こちらです」


 案内された先には、城内の設備よりは小ぢんまりとしたものだが、十分な広さの訓練場が存在した。

まあ、数百人以上が鍛錬するような場所と比べてもだけど。



「それじゃあ、早速始めましょうか。

 私の相手は、ノアちゃ」


「アルカ、先ずはアルカとエリスさんで戦ってみるのはどうでしょうか。

 模擬戦ではなくとも、稽古で構いません。

 エリスさんの動きを見てからの方が、私達が見せるべきものも決めやすいのではないでしょうか」


「そうね。

 けれどその目的なら、私よりノアちゃんの方が適任じゃない?

 うちの教育担当はノアちゃんなんだし」


「いえ、私は外から観察する事にします。

 それに、エリスさんもアルカに興味があるようですし」


 まあ、うん。それはわかるけど。

というか、私のせいで霞んでいるだけで、ノアちゃんの力の量も相当よ?

きっとノアちゃんが戦う所を見れば、エリスちゃんも一発で強い興味を持つ事だろう。

何せ、私のノアちゃんは戦い方まで綺麗なのだ。

まあ、速すぎてエリスちゃんに追えるとも思えないけど。



「エリスちゃんどう?

 やってみる?」


「はい!」


 元気いっぱいの返事を放つエリスちゃん。

相変わらず、私に対しての恐怖は無いようだ。

普通はもっとビビると思うんだけど。


 ところで、クレアの姪にしては礼儀正し過ぎない?

昔のクレアも案外こんなだったのかしら。

少し見てみたいわね。

とりあえず見た目だけでも、子供バージョンに変身してくれないかしら。


 私はエリスちゃんと共に訓練場の中央で向かい合う。



『ハルちゃん、お願い』


『がってん』


「!?」


 私のダダ漏れだった力を良い感じに抑えてくれるハルちゃん。

エリスちゃんは当然気付いたようだ。

私は魔力も神力も使わず、無手のまま、エリスちゃんに開始を促す。



「先ずは好きなように打ち込んでみて」


「はい!」


 私はエリスちゃんの振る木剣を覚視だけで避け、受け流していく。

エリスちゃんが強くなるとしたら、この方向性しかないだろう。

何せ、エリスちゃんからは神力どころか魔力すら感じない。


 ハッキリ言って、これでは一般人以下だ。

覚視を極めれば一対一の対人戦で負けはないだろう。

けれどそれだけでは、竜の鱗を貫く力は得られない。

魔術師の軍隊から身を守る術はない。

就寝中の暗殺は防げない。

とてもではないが、大国の守護者は務まらない。


 さて、どうするべきかしら。

剣の鍛錬はよくしているようで、太刀筋は綺麗なものだ。

とても十歳程度とは思えない。

それだけ必死に努力を続けてきたのだろう。

本人も自分の問題はよくわかっているはずだ。

何せ、よりによって覚視の才能だけが備わってしまったのだから。

他の、特にマリアさんと自分を比較して、力の差に絶望した事だろう。

その上で、腐りもせずに努力を続けてきたのだ。


 この子は強い。

力は無くとも、心が。

苦しみなど一切表に出さず、明るく振る舞っている。

ほんの少し見ていただけでも、それがよくわかる。


 けれど、心の奥では違うはずだ。

それがエリスちゃんの振るう剣から伝わってくる。

とても熱くて強い想いを秘めている。


 マリアさんとクレアの戦いだって、苦い気持ちを噛み締めながら見ていたのかもしれない。

どうして自分にはあの力が無いのだろうかと。


 私に強い興味を抱いているのも、私なら現状をどうにか出来るかもしれないという気持ちの現われなのかもしれない。



『きにいった』


『そうね』


『ちからあげる?』


『難しいわね』


『そう』

『だね』


 私の側に置くのであれば、この子は最高の原石だ。

私が与えれば元から持つ力など関係ない。

多少人より扱いに慣れるのに、時間がかかるだろうという程度だ。

それも、この子なら苦も無くやり遂げるだろう。

その心の強さを持っている。


 覚視の才能も重要だ。

これがあるのと無いのとでは大きく違う。

フィリアスに代わりを務めてもらう事も出来るけれど、それだけではフィリアス以上にはなれない。


 ノアちゃんはいずれハルちゃんを大きく超えるだろう。

今はまだハルちゃんの六百年の経験が勝っているが、ノアちゃんの覚視の才能であれば、時間の問題だ。

ノアちゃんもハルちゃんも互いにとんでもない努力家なので、最後の優劣は才能の差になってしまうのだろう。


 きっと、エリスちゃんも同じだ。

誰よりも努力を続けられる心の強さと、覚視の才能。

私の契約者としてなら、最高の素質だ。

ノアちゃんやアリアと同じく、何れは私を越える強さを得るだろう。


 どうしよう。

本気で欲しくなってきた。

とはいえ、流石に勧誘するわけにもいくまい。

将来はこの国の大事な剣聖様だ。

少なくとも、本人はそう努力してきたはずだ。

例え、周囲の誰もが期待してくれていなくとも。


 マリアさんはどう思ってるのだろう。

結局、マリアさんの口からクレアに頼む事は無かった。

もしマリアさんもエリスちゃんを剣聖にするつもりでいるのなら、自分からクレアに頭を下げるのではないだろうか。

なんとなく、マリアさんはそんなタイプな気がする。


 けれど、マリアさんが口を挟む事すら無かった。

婚約自体には反対しているようだけど、剣聖にするつもりは無いのかもしれない。

これは詳しく聞いてみるべきだろう。

踏み込みすぎだとは思うけれど、きっと必要な事だ。

エリスちゃんの未来の為に。


 だめだこれ。

本当に入れ込みすぎだ。

真っ直ぐに打ち込み続けるエリスちゃんの事が気になって仕方がない。

別に惚れたとかそんなんじゃない。

ひたむきに頑張る少女は、無条件で応援したくなるものだ。

それも、エリスちゃんみたいな良い子は尚更だ。



『きょうりょくする』

『ハルも』

『きにいった』


『心強いわ、相棒ハルちゃん


『まかせろ』

『あいぼー』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ