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28-28.模擬戦

 私達は城内の訓練場に場所を移した。

どうやらこんな目立つ場所でやるらしい。

正直もう少し人目の少ない場所にしてもらいたいのだけど。

剣聖の公爵家とか絶対自宅に訓練場持ってるでしょ。


 まあ、今後の為にクレアの力を晒したいのだろう。

けれど、そんな事をしてしまえば、クレアと王子の結婚は難しくなるんじゃなかろうか。


 むしろそれが狙いなの?

マルセルさん、王子の恋路を邪魔しようとしてる?

クレアとくっつかれたら余計胃に穴が空いてしまうものね。

とはいえ、現状のまま誰も娶らない等と言わせておくのも問題だろう。

エリスちゃんの件を回避しても、他の誰かが充てがわれるだけだ。


 まあ、王子は普通にカッコいい方だとは思うので、正体を知らなければ喜んで嫁になる子だっているのだろう。

王妃になるような覚悟のある子に、王子の容姿が関係あるかは知らないけど。

まあ、良いに越したことは無いだろう。


 それに、若干年が気になるとは言え、まだ二十代だ。

エリスちゃんとは離れすぎているけれど、もう少し年上の子が相手ならそこまで問題でも無いだろう。



「誰からいきます?

 クレアとマリアさんとかで良いですか?」


「お待ちを!

 万が一ここで」


「マルセル、問題ない。

 私がいこう」


「ですが!」


「くどい!」


「……ご武運を」


「クレア、マリアさん。

 今回はそこの木剣を使用して下さい。

 木剣が破壊されるか手放すか、又は降参でのみ決着としましょう。

 異論はありませんか?」


「ああ、それで構わない。アルカ殿」


「おう」


 私は訓練用の道具が置かれた一角に転移し、その中から無造作に木剣を二振り掴み取って二人に投げ渡す。

やはり、エリスちゃんが一番に私の転移に気付いたようだ。

王子とマルセルさんどころか、マリアさんよりも速いかも。

まあ、覚視も使えないのに驚く気配すらなく木剣を受け取ったマリアさんも大概だけど。



「それでは……始め!」


 私の合図で早速踏み込むクレア。

全く容赦がない、普段通りの速さだ。

剣聖の立場とか一切慮る気がない。


 いや、そんな余裕がないのだろう。

マリアさんはあっさりとクレアの剣を受け流して、クレアを蹴り飛ばした。

剣聖がいきなり足技とは……

もしかして、マリアさんも張り切ってる?

態度が全然変わらないからわからない。


 マリアさんは追い打ちをかけずに、そのままの位置で剣を構える。

体勢を整えたクレアは再び真っ直ぐに斬りかかる。

マリアさんは再びクレアの剣を受け流して、今度はそのまま切り返す。

受け止めるには体勢が悪く、咄嗟に距離をとって避けたクレアに、マリアさんは追い打ちをかける事無く、再び剣を構えた。


 そうして、何度も何度も同じような事を繰り返す二人。

まるで、稽古でもしているかのようだ。

クレアが何度切りかかっても、マリアさんを最初の位置から動かすことすら出来ていない。

クレアも神力を最大出力で使っているわけではないけど、それでも身体能力はマリアさんより遥かに高いはずだ。

そんなクレアでもマリアさんに有効打を入れられない。


 何だか体の芯がむず痒くなってくる。

無性に体を動かしたくて堪らない気分だ。

段々と速くなっていくクレア達の動きに合わせるかのように、私の中の衝動も大きくなっていく。


 すっごい楽しそう。

マリアさんもクレアも楽しくて仕方ないって、そんな風に思っているんじゃないかしら。

私にもそれが伝染しているんじゃないかしら。


 羨ましい。

きっとノアちゃんも同じ気分になっているはずだ。

次は私とノアちゃんで模擬戦してみようかしら。

けれど今の気分のままでは、上手く加減が出来ないだろう。

流石にこの場で何でもかんでも見せるわけにはいかない。

周囲には訓練場を利用していた兵士たちも残っている。

いくら何でも目撃者が多すぎる。

私の力は強大だ。

色んな意味で毒になるだろう。


 ノアちゃんと戦うとしたらどんなルールが良いかしら。

適度に気持ちを発散出来て、必要以上に力を見せないで済む方法がいい。

魔力、神力禁止縛りとか?

それだとノアちゃん相手には何も出来ないだろう。

素の反応速度が違いすぎる。


 けれど、この調子だと私の望みは叶いそうにない。

訓練場の周囲には次々と人が集まっている。

どうやら、二人の様子を見に来たようだ。

剣聖が模擬戦をしているとでも、話が伝わっているのかもしれない。


 それに、マリアさんの受け方が上手過ぎて、木剣で打ち合っているとは思えないほど静かだが、クレアの振るった刃の余波によって、壁やガラスが震えている。

これによって、何事かと様子を見に来る人もいるのだろう。


 このままでは、木剣の前に城が壊れるかもしれない。

そろそろ止めるべきかしら。

けれど、なんだか止めづらい。楽しそうだし。



「そこまで!

 お二人とも!そこまでにして下さい!」


 マルセルさんも同じように思ったのか、制止の声を上げた。

素直に木剣を収めたクレアとマリアさん。

結局マルセルさんが止めるまで、マリアさんは最初に立っていた場所から離れる事は無かった。


 本当にこの世界どうなってるのかしら。

ルネル程ではなくとも、これだけ強い人間がいるなんて。

正直、剣の勝負では私は相手にもならないだろう。



「付き合わせて悪かったな。

 クレアが本気ならこうはいくまい」


「本気に決まってんだろ。

 別に殺し合いしてんじゃねえんだ」


「うむ。そうだな」


「お二人ともお見事でした。

 ですが、これ以上はご容赦を。

 あのまま続けていれば城に被害が出ます」


「とはいえ、これではエリスちゃんの参考にはならないわ。

 マルセルさん、どこか場所を移せませんか?

 ここでは少々観客が多すぎますので」


「ではアルカ殿、是非我が屋敷へ来るといい。

 ここ程ではないが、訓練場も備えている」


「喜んでお邪魔させて頂きます。

 正直、お二人の試合を見て気持ちが高ぶっておりまして」


「うむ。

 是非そのお力を拝見させて頂きたい」


「ありがとうございます」


「アルカ様!」


「どうしたの?

 エリスちゃん?」


「アルカ様は神様なのですか!?」


え?

突然どうしたの?

いやまあ、半神だし間違ってはないけど。

とはいえ、ここはこう答えるだけだ。



「私は人間よ。少しだけ他の人より力が多いけど」


「白々しい言い方すんなよ。

 今のお前、あの神より多いじゃねえか」


「え!?

 叔母様は神様に会ったことがあるのですか!?」


「バカクレア」


「わりぃ……」


「話は後に致しましょう。

 先ずは移動を」


 そう言って先導するマルセルさん。

やっぱりマルセルさんも付いてくるのかしら。

というか王子も?

必要なくない?


 いや、王子なんかどうでもいいのよ。

問題はエリスちゃんよ。

なんかめっちゃキラキラした視線を向けてくるんだけど。

そのせいか、ノアちゃんからはジトジトした視線が向けられている。

これどうしたらいいのかしら。

ニクスの事を話すわけにはいかない。

なんか力を抑える方法でも調べておくべきだったわね。

ニクスは普段やってるっぽいし、後で聞いておきましょう。


『かわりにきた』


『さっすがハルちゃん。

 力の隠蔽はできそう?』


『うん』

『まかせて』


『ありがとう!

 あ!けど、ちょっと待っててね!

 今消すと、それはそれでややこしそうだし。

 万が一、エリスちゃんが騒いじゃっても面倒だから、落ち着けるところに移動してからにしましょう』


『がってん』


 流石、私のハルちゃん。頼りになるわ。

まあ、ニクスは同化できないから仕方が無い。

私の心の中の世界がアップデートされた影響か、それとも肉体があるせいか、現状心の中から念話を飛ばすのは出来ないらしい。

話をする時、フィリアスのように同化状態になれない子は、こちら側に出てくるしかない。

今ニクスに出てこられては困ってしまう。

それで代わりにハルちゃんが来てくれたのだろう。

もしかしたら、ニクスが力の制御方法を教えてくれたのかもしれない。


『そう』

『きづくの』

『おくれてごめん』

『だって』


『伝言ありがとう、ハルちゃん』


 謝る必要なんてないわ、ニクス。

ありがとう、助かったわ。

愛してるわ、ニクス。

もちろん、ハルちゃんもね。


『ふへ』


 それにしても、エリスちゃんはよく怖がらないわね。

クレアやマリアさんがちっぽけに見えるくらい、私の力の量は莫大だ。

多分エリスちゃんは、最初私の力が強大すぎて上手く知覚できなかったのだろう。

私に覚視の素質を言及された事や、転移を披露した事で、より私に興味を持って調べた事で、力の大きさに気付いたらしい。

その結果、神様なのかという質問に繋がったのだろう。


 さて、この状況はどうしたものかしら。

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