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28-24.ジンクス

 私達は王都ムスペルへ入る為の検問の列に並んでいた。

列は長く続いており、この様子では町に入るだけでも日が暮れそうだ。

転移で町中に直接侵入したいとこだけど、クレアもいるし仕方あるまい。

相手はこの国のおえらいさんだし、変な所で落ち度を作るのは避けるべきだ。

国境とか通ってないから今更な気もするけど。



「なんなのこの行列。

 祭りでもあるの?」


「どうだったかな。

 無かったと思うんだが、もう随分と昔のことだからな」


「そうは言っても、十年も経ってないでしょ?」


「いや、もっとだ」


「じゃあ、あなた未成年の頃に抜け出したのね」


「そりゃそうだろ。

 成人してからじゃ逃げられやしねえよ。

 どこぞの家に嫁にやられちまう」


「貴族ってそんなものなのね。

 なら、お姉さんも成人してすぐに結婚したの?

 お姉さんが結婚するかどうかってタイミングまでは一緒に暮らしていたのよね?」


「ああ。そんなとこだ。

 とはいえ、うちは極端な方だ。

 余所より輪をかけて家の存続が第一だったからな」


「でも、クレアは次女だったんでしょ?

 さっきの話なら、そこまでクレアの結婚は重視されていなかったんじゃないの?」


「そうでもねえ。

 最悪の場合を考えて予備を残しておくのは変わらねえよ。

 そうでなくともねえちゃ、姉貴と二人きりの家族だったからな。

 それに、力を望むやつなんざ、いくらでもいる」


「そっか……」


「どうやら本当にお祭りがあるそうですよ。

 というより、式典がメインでそれに合わせてという形ですね」


 早速列に並ぶ人達から情報を集めてきたノアちゃん。

相変わらず頼りになるわね。



「何の式典があるの?」


「婚約発表の式典だそうです。

 この国の王族と剣聖の娘が婚約するとかで」


「剣聖だと!?」


「クレアさんはどなたかご存知なのですか?」


「姉の事だ」


「つまり、王族と結婚するのはクレアの姪なの?

 それって、クレアの家はどうなるの?」


「つまり、そういう事なんですね。

 姪御さんがお嫁に行くから、クレアさんのご実家は継ぐ人がいなくなる。

 それで、クレアさんに跡継ぎを産ませたいと」


「いや、けど、そんな筈はねえ。

 剣聖は国にとって大切な存在だ。

 言わば、この国の守護者だ。

 家を途絶えさせるとわかっていて、王家に嫁がせたりなんてしねえよ。

 ねえちゃ、姉貴だってそんなの許すはずがねえ」


「無理せず姉ちゃんで良いわよ」


「うるせえ!今は真面目な話ししてんだろうが!」


「クレアさん、声を荒げないでください。

 あまり周りの人に聞かれていい話では無いはずです」


「おっおう……わりぃ。

 とにかくありえねえんだ。

 私達の家は元は外から流れてきた者の末裔だ。

 公爵とは言え、あくまでも臣民公爵だ。

 王家の側に仕えはしても、王家に血を混ぜるなんて事はしてこなかったはずなんだ」


「当人同士が惚れ込んだとか?」


「アホか。王族がそんな理由で慣習を破ったりするもんか」


「なら国ごと考えが変わったのではないですか?」


「それはねえな。

 六百年馬鹿みたいに続けてきたんだ。

 今更変えられるもんか」


「何にせよ、最悪クレアを求めているのが王族って可能性もあるわね。

 その姪っ子ちゃんを取り上げる代わりに、クレアを呼び戻すなんて条件でも付けたのかもしれないわ」


「それだっておかしな話だぜ?

 力で劣る次女を呼び戻したって……」


「クレアがSランクなんてものになってしまったのだもの。

 力の証明は十分よ。

 なんだったら、お姉さんと競い合わせて勝ったほうに家を継がせるつもりだっておかしくないでしょ?」


「王家とはいえ、そこまで勝手な口出し出来るんですか?」


「もし仮に、お姉さんが姪っ子ちゃんに代わる次の子供を残せないのなら、それを口実にされるかもしれないわ。

 もしくは、逆かもしれない。

 姪っ子ちゃんが王子様と結婚する為に、お姉さんはクレアを頼ろうとしているのかもしれない。

 娘の恋を応援しているのかもよ?」


「それだと順番がおかしいです。

 婚約発表の式典が近々行われるのに、向こうからしたら未だクレアさんは見つかっていません」


「そうね。

 まあ、全て推論の当てずっぽうだもの。

 依頼者から話を聞いて、改めて考えましょう。

 いざとなったら、転移で逃げてしまえば良いわよ」


「ギルドと敵対するのは嫌なんじゃなかったのか?」


「もし依頼者がクレアを道具のように利用するつもりなら、それも仕方ないわね。

 それに、ちゃんと依頼者の下まで送り届けたのだから、その後の交渉が決裂したって、ギルドには関係ないわ」


「その実行犯がお前じゃなくたっていいだろ。

 私は一人で逃げられる」


「ダメよ。

 今のグダグダなクレアを一人で行かせるつもりは無いわ。

 だから逃げる時も一緒よ」


「……好きにしろ」


「クレアさんは何時まで保つんでしょうか」


「この国を出る頃までには落とせそうじゃない?」


「本気ですか?」


「いえ、別に。

 今のところ私にそんなつもりは無いわ」


「なら言動に気を付けてください。

 その気も無いのに落としたら怒りますよ」


「大丈夫よ。落ちたらその気になるから」


「ふざけたことを言わないでください」


「ごめんなさい。冗談です」


「尚悪いです」


「心配しなくてもそんな関係にはならねえよ。

 こいつの性格の悪さは良く知ってんだぞ」


「クレアにだけ特別よ」


「本当に特別だからたちが悪いです」


「ノア、何でこんなやつが好きなんだ?」


「私もよく疑問に思っています。

 ですが、好きなものは好きなので仕方がないんです」


「ノアちゃんと私は赤い運命の糸で結ばれているのよ」


「なんですそれ?」


「あれ?これは伝わらないの?」

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