28-23.血筋
「結論から言うぞ。
依頼者の目的は私に子を産ませる事だ。
正確には私の血が欲しいんだ」
「勇者の血筋だから?
クレアは元々勇者の存在を知っていたの?」
「いや、そういうわけじゃない。
私の先祖は勇者を名乗らなかった。
ただその武勇で取り立てられただけだ」
「ニクスも呼ぶべきかしら」
「必要ない。もういるよ」
「流石ね、ニクス。
聖女アムルの世代の勇者について教えてくれる?
クレアの先祖ってその勇者なの?」
以前は魔王と同じく勇者の素性についても一切教えてくれなかったニクスだが、今回はあっさりと答えてくれた。
「うん。名前はミレア。
元々はアリアみたいな明るい子だったんだ。
けれどあの戦いの後、全てを捨ててアムルの元を去った。
ごめん、それ以上は話せないし話したくない」
「わかった。
けれど、勇者も女性だったのね。
少し驚いたわ」
「そうだよ。
アムルとは親友だった」
「そっか……」
「話を戻すぞ。
今更になって探し始めた理由の方も想像がつく。
大方、私しか残ってないんだろ」
「直系の子孫がという事ですか?」
「ああ、そうだ。
元々両親は早くに亡くしていたからな」
「それにしたって、重要な血筋なら、親戚だってもっと大勢いるんじゃないの?」
「神力の継承は最初に産まれた子程多いんだ。
二人目以降は急激に減るから直系だけが重視されていたんだよ。
けれど、今の時代には神力を知覚できる者なんて殆どいない。
だから、実際の力の差はわからずとも、過去の名残で血筋だけを重視していてもおかしくはないんだよ」
「なら尚更何で今更なのよ?
普通はもっと早い段階で探しにくるでしょ?」
「私は次女だ。姉がいた。
今はどうしてるか知らねえけど、亡くなったのか、子を産めなかったのか、そんな所だろうよ」
「つまり、クレアはお姉さんの事が気になっているのね?」
「……それは関係ねえだろ」
『ニクス』
『少し待って。
確認する』
『ありがとう』
「お姉さんは家を継いだのね」
「ああ。婿をとったはずだ」
「クレアはお姉さんの安否が気にかかっているのね」
「……」
「安心して。
クレアの姉は生きてるよ。
それに、娘も一人いるみたいだ」
「!?」
「ありがとう、ニクス」
「まあ、居場所も素性もわかっていたからね。
けれど、今回だけだよ」
「うん。わかった」
ニクスは話は済んだと、私の世界に戻って行った。
ハルちゃんといい、なんでそんなすぐ戻りたがるのかしら。
よっぽど楽しい事でもしてるのかな。
少し気になる。
「どうするクレア。
あなたの予想は外れたみたいだけど」
「いえ、そうでもないかもしれません。
ニクスはあえて口にしなかったのかもしれませんが、クレアさんのお姉さんの娘さんが力を持たなかったのか、少なかったのではないでしょうか。
それに対して、クレアさんはSランク冒険者として名を馳せています。
クレアさんの子供を欲しがったとしてもおかしな話ではありません」
「なら、クレアが黙りを決め込んだら、そのお姉さんや姪を人質にする輩も出てくるでしょうね」
「お前……
何ですぐにそんな発想が出てくるんだよ……」
「クレアさん、急いだ方が良いかもしれません。
少なくとも、向こうはギルドに圧力をかける程度には動き出しています。
後手に回ればそれだけ不利になりますから」
「ノアまで……」
「あなた、高位貴族の出なのでしょう?
少なくとも、それなりに教育は受けているのでしょ?
なのに、何故そんな事も想像出来ないの?
彼らは必要ならその程度の手段は平気で使うのよ。
ましてや、今回は血筋や家の為という意味合いが強いの。
その上でSランク冒険者に手を出そうって考えなのだから、それ相応の覚悟で挑んでくるはずよ。
手遅れになる前にもっと真剣に考えなさい」
「……どうすりゃ良いんだよ」
「とりあえずギルドに行きましょう。
ギルドに行けば依頼者と引き合わせてくれるはずよ。
先ずは正面から乗り込んで、詳しい事情を聞く必要があるわ。
全ては取り越し苦労かもしれないのだもの。
もしかしたら、お姉さんがクレアに会いたくなっただけとかね。
ノアちゃんも付いてきてね。
万が一、後で忍び込む事になったら、内部の状況を把握できていると都合が良いでしょうし」
「もちろんです。お供します」
「ありがとう、ノアちゃん。
さあ、行くわよクレア!
いい加減シャッキリしなさい!」
「わぁったよ!行くよ!行きゃあ良いんだろ!」
私はクレアとノアちゃんを連れて、クレアの実家がある、ムスペルの近くに転移した。




