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28-22.悪魔

 私達は一度場所を移すことにした。

クレアは席についても、らしくない態度のままだ。

別に普段は口数が多い方では無いけど、無口なわけでもない。

それに、こんな弱気な姿は初めてだ。

よっぽど実家との関係が悪いのだろうか。



「クレア、何も今すぐ連れて行こうってんじゃないわ。

 とりあえず事情を聞きたいと言っているだけよ。

 それすらも無理ならハッキリそう言いなさい。

 クレアがその調子で何も言わないのなら、無理やり連れて行くかどうかは、こっちで調査してからにするから」


「……やめろ」


「調べられたくないの?」


「……そうだ」


「クレア、私もノアちゃんも興味本位でほじくり出そうとしてるわけじゃないわ。

 だから、あなたが自分でケリを付けるなら何も言わない。

 ギルドに送るから、呼び出しは自分で拒否しなさい。

 良いわね?」


「……ああ」


「実家がある町はどこ?

 それくらいは教えなさい。

 そうでなければ担当のギルドまで送る事も出来ないし」


「……そのまま連れて行こうとしてないか?」


「なんでよ。

 普通にそのギルド支部まで付き添うだけよ。

 ちゃんと解決した事は確認しなきゃならないもの。

 私だってピレウスのギルド長に頼まれたのだから、最低限の確認くらいはするわ」


「……」


「黙ってたってこれ以上は譲らないわよ?

 あなたの実家とまでは関わらないってだけで十分な譲歩でしょ?

 それともやっぱりこっちで調べてしまいましょうか?

 そうなったら、よっぽどの事が無い限り、無理やり連れて行く事になるわよ。

 ギルドだって守秘義務があるもの。

 依頼として受けなければ情報を開示してくれないの。

 そうなれば私だって最後まで関わらざるを得ないの。

 もちろん、得た情報を元に相手の事を調べるわ。

 クレアがそうまでして嫌がるのだもの。

 何かしらの問題だってあるのでしょう。

 当然、それが許容できないものなら依頼を放棄してクレアの保護を優先するわ。

 少なくとも、そこまで正確に事情を把握した上で動く事になるのよ。

 どっちが良いの?

 私に全てを暴かれるのと、町の名前を自分で吐くのと」


「なんで脅迫してるんです?」


「少し面倒くさくなってきたんだもん」


「だもんじゃねえよ!

 わかったよ。話しゃいいんだろ。

 場所は……ムスペルだ」


 クレアの口にした町は私も知っている場所だった。

町というか大都市だ。

多分この世界で最大の国の王都だ。

この調子でクレアまでお姫様とか言い出さないわよね?


 クレアの実家がある国と、私達の住んでいたピレウスの町がある国は、大陸の両端くらいに離れている。

よっぽど実家が嫌だったのだろうか。


 というか、そこまで離れているなら、最寄りのギルドで報告するだけでも済まないかしら。

いやまあ、済まないんだろう。

ギルドがSランクをあっさり突き出すくらいには圧力かかってるっぽいし。

そうでなければ、ピレウスまで所在確認の連絡が来るはずもない。

クレアは一応、今は別の町を拠点にしている。

ピレウスを拠点にしていたのは既に五年くらい前の話だ。

それでもダメ元で確認してきたのだ。

少なくとも、その程度には必死なのだ。


 ギルドも依頼者にクレアを差し出すつもりでいるはずだ。

本来、一国の命令を聞く必要など無いはずのギルドが、貴重なSランクを差し出す程だ。

よっぽど力関係が危ういのだろう。


 そもそも、クレアは大して真面目に仕事をしていたわけじゃない。

Sランクだって殆ど強さゆえだし。

ギルドだってわざわざ太客と喧嘩してまで守ろうとはしないだろう。



「それ断るの無理じゃない?

 というか、下手に行くべきじゃないかも。

 わざわざ向こうのギルドまで行って断ったりしたら、帰してもらえなくなるわね。

 まあ、クレアを引き止められる戦力なんていないでしょうけど。

 とはいえ、事情もわからずにギルドと敵対なんて嫌よ。

 ねえ、やっぱりここで事情を話さない?

 私達に出来る事ならいくらでも力になるから」


「話が違うぞ」


「仕方ないでしょ。

 想像以上に面倒な状況だったのだもの」


「どういう事ですか?

 ムスペルという町はどんな場所なのですか?」


 私はノアちゃんにも状況を説明する。



「つまり、そんな遠方からSランク冒険者を一方的に呼び出せるだけの力を持った方が依頼者なのですね。

 そうなると、ムスペルの王族や上位貴族に限られると。

 つまり、クレアさんもお姫様なのですか?」


「ぷっふふ。

 お姫様、ふふ。

 似合わないとか以前に、もう二十」

「止めろバカ!」


「アルカ、クレアさんをからかわないで下さい」


「は~い」


「大体お前だって同い年だろうが……」


「私不老魔法を使ってるもの」


「ずりいぞ!」


「望むならクレアにだって使ってあげるわよ。

 まあ、その時は私のお嫁さんになって貰うけど」


「なんでそうなんだよ!」


「不老魔法なんて使ったら放り出せ無いわ。

 ずっと側にいて貰わないと困るの」


「なんです?その口説き文句は。

 言葉が足りてないです。

 ニクスの管理するこの世界を乱さない為に、目を離すわけにはいかないって話ですよね?」


「まあ、結局は同じ話じゃない。

 私の側に居続ける覚悟がない人に不老魔法を使う気は無いんだし。

 つまり、私を愛してくれるのなら不老を授けてあげるわ」


「どう考えても、それは悪魔の誘い文句だろうが」


「もう二十人も毒牙にかかっています。

 クレアさんも気をつけて下さい」


「ノアちゃん、今は二十一人よ。アリスが加わったから」


「アリスの件はまだ家族に紹介が済んでいません。

 皆に認められてからにして下さい」


「は~い」


「ノアもすっかりおかしくなっちまいやがって……」


「それより、どうするのクレア?

 あんた、断る自信があるの?

 それとも一人で呼び出しを受ける?

 無視するのだけは認めないわ。

 想像以上に事が大きいの。

 少なくとも、私にはそうとしか思えない。

 クレアが何も話してくれないから何も知らないの。

 だから、最悪を考えて動かざるを得ないわ。

 何れはクレアと親交の深い私やノアちゃんもギルドとの関係が悪化しかねない。

 飛躍していても、そこまで考えないといけなくなるの。

 私は私達の為にクレアに踏み込むしかなくなるの。

 これはあなたが決めなさい」


「……少し考えさせてくれ」


「ダメよ。今決めなさい。

 というか、困っているのなら私達に助けを求めなさい。

 私達はクレアを家族だと思っているわ。

 だから見捨てるつもりなんて無いの。

 勝手に踏み込むのが嫌だから決断を求めているの。

 いい加減、観念しなさい。

 どうしても踏ん切りがつかないのなら、ノアちゃんの為に決断しなさい。

 クレアが答えられないのなら、私はノアちゃんに調査を頼むわ。

 ノアちゃんを一人でムスペルに放り込んで全てを暴いてもらう。

 そうね、やっぱり二択にしてしまいましょう。

 その方が決めやすいでしょうし。

 今この場で自分の口から話すか、ノアちゃんに全てを暴かせるか、どちらか選びなさい」


「やっぱり悪魔じゃねえか!

 なんで選択肢減ってんだよ!」


「あなたが何時までもウジウジしてるからじゃない。

 らしくない事してないでスパッと決断しなさいよ。

 この期に及んでまだ決められないってなら、選択肢は一つよ」


「……」


「ノアちゃん、悪いけど」

「話す!話すから待て!!」


「アルカってクレアさんには強気ですよね」


「まあ、親友くらいには思ってるからね。

 お嫁さんとは少し距離感が違うのよ」


「随分進展しましたね。

 初めて会った時は腐れ縁とか言っていたのに」


「親友にする仕打ちじゃねえだろ。

 踏み込みたくないとか言った直後に、脅迫しやがって」


「正直、今のあんたと話してるとイライラしてくるのよ。

 あんた、実家に大しての感情は拒絶だけじゃないでしょ。

 未練もあるわよね。

 まあ、全部話してくれると言ったのだし、黙って聞くとしましょう」


「そこまでは言ってねえよ!

 話すのは今回の事情に関わる所だけだ!」


「別にいいけど、納得いかなかったら他も吐かせるわよ」


「お前!もういっぺん自分の言った事思い出してみやがれ!

 容赦なく踏み込んでんじゃねえよ!」


「口が悪いわ、クレア。

 もう少しお上品に話しなさいな。

 あなたそれなりの家の出なのでしょう?」


「アルカ、いい加減にしてください。

 からかうつもりなら怒りますよ」


「は~い」


「ったくよ……」

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