28-20.依頼
私達は一通りの買い物を済ませた後、ギルドにやってきた。
依頼の状況次第で今日明日の残りの予定を決める事にした。
「ノアちゃん、いつの間にAランクにまでなってたの?」
「最近ですよ。
空き時間で頑張りました」
そんな短期バイトみたいに?
というか、いつ空き時間なんてあったのかしら。
ルチアが産まれてからまだ二ヶ月程度だ。
その間もノアちゃんは家事に鍛錬にと忙しく働いていた。
自主鍛錬の時間にでも来ていたのかしら。
実戦で刀を使う訓練でもしていたのかな。
なんにせよ、ノアちゃんはやっぱり凄い。
流石私のノアちゃんだ。
「Sランクも時間の問題だ。
ノアの実力ならAランクでも不足している」
「ギルド長、以前から伝えているように、Sランクになるつもりはありません。
アルカの様に動きづらくなっては困りますから」
「勿論それはわかっているんだがな……
どうしても嫌ならば活動頻度を下げるしかあるまい。
適正ランクを受け入れる事も冒険者の義務だ。
ギルドは所属する冒険者の戦力を正確に把握せねばならんのだ。
済まんが理解してくれ」
「仰っている事はわかりますが……」
「ノアちゃん、あまり無茶を言ってはダメよ。
ギルド長が言っている事は正しいのだから。
それにしても困ったわね。
私が……あれ?
そういえば、ノアちゃんはどんな依頼をこなしていたの?
この辺りは禄に魔物も寄り付かなくなっていたのではないの?」
「いや、もういくらか戻ってきているぞ。
アルカが月一程度にしか来なくなってからだがな。
相変わらず魔物はどこからでも湧いてくる。
とはいえ、ノアに見合う依頼も少ない。
殆どダンジョン攻略と討伐した魔物の納品による功績だ」
「もしかして、未開拓地の魔物狩って持ってきたの?」
「ええ。
資金源になるかと思いましたので」
「安心しろ。
ノアは俺に相談してから納品してくれている。
どこかの誰かの様に、いきなり放り込んで誤魔化しようがなくなるなんて事も無い」
「一体誰のことかしらね~」
「あっちこっち、世界中でやらかしてそうですね。
そのどっかの誰か」
「本部に目を付けられるのも当然だと思うだろ?」
「はい。迂闊すぎます」
「はいはい、どっかの誰かの話はもうお終い。
それより、問題はその未開拓地の魔物を持ち込んでいる事なのよね。
それで貢献度やら能力やらが見込まれてランクが上がっていると。
別にノアちゃんが自分で狩って、自分で持ってきたのだから、何一つ問題は無いのだけど、だからこそ、それを続けていれば、ノアちゃんがSランクに上げられてしまうのも時間の問題だと。
なら、私が納品すれば良いんじゃないの?」
「お前は目立たない方が良いんじゃないか?
このまま大人しくしていれば、本部の連中の興味が少しは薄れるかもしれんぞ?」
「まあ、そうなんだけどさ。
なら、セレネにでも頼む?」
「そう何人も高ランク冒険者を増やされても困る。
お前たちはあと何年も続ける気はないんだろう?
とっくに成人しているアルカはともかく、ノアやセレネは幼い容姿のままだ。
ランクが上がれば本部の興味も向くことになる。
お前の様に世界中で監視される事になるぞ」
「え?あれ?変身魔法の事知ってるわよね?
私とお姉ちゃんが見せたじゃない」
『アルカ、その辺りの事は後で話し合いましょう。
今後パンドラルカの方に専念するのか、私達は変身魔法を使って冒険者活動を続けるのか、ギルド長に話すのは方針を固めてからにするべきです。
諸々の柵を考えれば、何れはギルドの所属から抜けるべきではありますが、何年後の事かもまだ未定ですよね?』
『うん、わかったわ、ノアちゃん』
「ごめん、なんでもないわ。
それより、相変わらず私向きの依頼は無いのね」
「こればかりはな。
お前が張り切った直後は、暫く周辺の魔物達も姿を消していた。
以前の様な大きな縄張りを持つようになるまでは、まだ暫く掛かるだろう。
この地でSランクがやる事何ぞ、妙な事件でも無ければ巣の殲滅くらいしかあるまい。
ルスケア領主が何もしてこなくなった以上、以前のような大きな事件だってそうそう起きるものじゃない。
とはいえ、今なら少しくらいは構わんぞ。
Cランク向け程度にはなるがな」
「どうする、ノアちゃん?」
「緊急のものが無いのであれば、とりあえずテッサの方に行きましょうか。
それかダンジョンに行っても良いですし」
「テッサに顔を出すのはともかく、そこまでして冒険者活動する必要あるの?
ノアちゃんはランクを上げたくないのでしょう?
お金の事ならどうにでもなるから気にしなくていいのよ?
それもと、他に目的があるの?」
「それは……」
もしかして、単にやりたいだけなの?
もういい加減、新鮮味も無いだろうに。
何でそこまで働きたがるのかしら。
ブラック勤務は人間らしさなんて言わないわよ?
「まあ、その辺りは少し二人で話し合ってみろ。
必要ならこの部屋を貸してやる」
「ありがとう、けど大丈夫よ。
とりあえず移動するわ」
「ところでエイミーはどうだ?
復帰できそうか?」
「あ……」
「そう言えば確認してませんでしたね。
気持ちの方はもう問題は無いでしょうけれど」
「最近、お姉ちゃんって何をしている事が多いのかしら。
私の世界で研究班に混ざっている事もあるけど、ノアちゃんの方に混ざっている事もあるわよね?」
「ええ。よく子供達の訓練を見てくれていますよ。
最近は個別に相手をする事も多いので助かっています。
魔法も近接格闘も練度が高いので私も教わっていますよ」
「それはエイミーの話だよな?
あいつ、ノアより強いのか?」
「どうでしょう。相性の問題がありますから。
模擬戦ならば私が勝ちますが、私では勝てないクレアさんに、お姉さんが勝っています」
じゃんけん?
ノアちゃん>お姉ちゃん>クレア>ノアちゃん、ってこと?
「クレアだと?
まさか、あいつはお前たちといるのか?」
「ええ。一緒に住んでるわよ。
クレアがどうかしたの?」
「そうか……どうりで。
実はな、クレアの実家から呼び出しがかかっているんだが、本人が見つからないからと少し騒ぎになりかけていた所なんだ。
まあ、元々そう頻繁にギルドに顔を出す方ではないから何時もの事だろうとも思われているんだがな。
とはいえ、その実家というのがやっかいでな……
担当支部にはかなりの圧力がかかっているらしいんだ」
「それは伝えておけばいいの?
それとも引きずって連れて行けば良いの?」
「後者で頼む。
なんなら、ギルドからの特別依頼という事にしてもいい。
俺が上にかけあおう」
「別に報酬は要らないわよ。
というか、Sランクを一方的に大人しくさせられるなんて、わざわざ吹聴しないで。
どう考えても面倒な事にしかならないわ」
「油断しないで下さいアルカ。
一方的とは限りませんよ。
クレアさんもルネルさんの元で鍛錬を積んでいるのです。
最後に見た時からは別人です。
アルカから力を貰った私だって勝てないんですから」
「皆、ポンポン様変わりし過ぎじゃない?」
というか、そのクレアが勝てないお姉ちゃんってどうなってるの?
「誰もアルカにだけは言われたくないと思います」
「まあ、とにかく頼む。
クレアを実家に連れて行ってやってくれ。
とはいえ、依頼という形が嫌なら詳しくは説明できん。
悪いが、場所はクレア本人から聞いてくれ」
「難易度高そうね。やっぱり報酬貰おうかしら」
「聞き出せなかったらまた考えるとしましょう」
「ノアも随分と逞しくなったな」
「元からじゃない?
私にとっては最初から頼りになる相棒よ」
「とにかく頼んだぞ、二人とも」
「はい」
「は~い」
あ~あ。
この流れじゃ折角のノアちゃんとの二人きりが早くも終わっちゃったのね。
やっぱり、後で深層に連れ込むしかない。




