28-15.我儘
「もっと居ようよ!主!」
「ごめん、クルル。
そろそろダメそう。
何時でも戻れるなら大丈夫だろうと思っていたのだけど、皆に会いたいのが我慢出来ないわ。
この調子じゃ長い時間を鍛錬に使ったりは無理そうね」
「まあ、ゆっくり慣れていけばいいのよ。
今すぐは無理でも時間なら沢山あるのだし。
それくらい私がいくらでも付き合ってあげるわ」
「それってイロハがアルカと二人になりたいだけでしょ?」
「そうよ。悪い?」
「ううん。別に」
「イロハ様、ニクスと仲悪い?」
「そうでもないわ」
何故かクルルを抱き上げるイロハ。
クルルも嬉しそうにしがみつく。
この数日で前よりもっと仲良くなったらしい。
今までも仲が悪いとかではないけれど。
私は全員が揃っているのを改めて確認してから、小型船ごと私の世界まで浮上した。
「久しぶり!ハルちゃん!」
私は真っ先に出迎えてくれたハルちゃんを抱きしめる。
「なんにち」
「いた?」
「三日くらいじゃないかしら」
「マスター、五日間程滞在しました」
「あれ?そんなに?
意外と耐えられたのね。
相変わらず、あっちは陽も夜も何も無いから時間がわからないわ」
「それだけじゃない」
「おさかんだった」
「じかんわすれる」
「ほど」
「ハルちゃん、今私の記憶見てる?
止めたほうが良いんじゃないかな~なんて……」
「!?」
「手遅れだったようね」
真っ赤になって慌てるハルちゃん。
ハルちゃん可愛い。
私はハルちゃんを強く抱き締めて、ハルちゃんの顔を私の胸に押し付ける。
それにしても、どうしてここまで反応するのかしら。
常日頃から私と一心同体だと言っているのに、隠す必要があったのかしら。
別に好きにしたら良いのに。
いっそ、私を連れ込んでくれたって良いのに。
ハルちゃんの抱き枕でも何にでもなるのに。
コスプレだってなんだってしてあげるのに。
あれ?
なんか段々面白く無くなってきた。
私、嫉妬しているのかしら。
抱き枕に?
フィギュアに?
見なかった事にするつもりだったのに、ハルちゃんの過剰にも思える反応に何かが湧き上がってくる。
気が付いたら私はそのままハルちゃんの趣味部屋でハルちゃんを押し倒していた。
折角表層側に戻ったのに、勢いでまたここに来てしまった。
突然の事に流石のハルちゃんも驚いて目を白黒させている。
この部屋、どうやって発光しているのかしら。
周囲は真っ暗闇なのに不思議とちゃんと見えている。
この部屋の周囲だけ明るい空間になっている。
この暗闇の世界に存在する物はどんなものであれ微量の光を放っているのかもしれない。
一瞬余計な思考が混ざるも、すぐに私は眼の前のハルちゃんに意識を集中して襲いかかった。
「アルカ」
「ごういん」
数時間に渡って散々に弄ばれた後、ハルちゃんが呟いた。
既にハルちゃんは何時もの調子を取り戻している。
「ハルちゃんが悪いのよ。
もう私以外を抱いて眠るなんて許さないわ」
「それはそれ」
「まあ、わからないでも無いんだけど。
けどダメ。ハルちゃんは私のものよ。
浮気は許さないわ」
「おかしい」
「アルカがいうの」
「それに」
「ハルも」
「セレネたちと」
「することある」
「それはいいのに」
「これ」
「ただのまくら」
「……ごめん、暴走し過ぎたわ。
一人になりたい時だってあるわよね。
隠したい事だってあるわよね。
見ないふりしようと思ってたのに。
無理やり踏み込んでごめんね。
もうしないわ。
その代わり、こことは別の場所にも私達だけの部屋を作りましょう。
たまには二人きりでも過ごしましょう」
「うん」
「うれし」
「ハルちゃん、本当にごめんなさい。
今更だけど、ちゃんと見なかった事にするから」
「うん」
「ありがと」
「けど」
「うれし」
「かった」
「アルカ」
「ハルすきすぎ」
「ふへ」
「当然じゃない。
そうだ、忘れる前に一つだけお願いよ」
「ハルの」
「だきまくら?」
「うん。それ。
作ってくれる?」
「……」
「いや」
「うわき」
「だめ」
「ハルちゃんには許したじゃない」
「それはそれ」
「ならシーちゃんに作ってもらおうかしら」
「ダメ」
「ゆるさない」
「アルカ」
「だきまくら」
「ハルがなる」
「まくらいらない」
「横暴だわ」
「アルカ」
「ハルのもの」
「いうこと」
「きく」
「ぷっふふ。
何よそれ。ふふ」
「ふへ」
「なら、意地悪ハルちゃんにはもっとお仕置きしちゃうわ」
「しかたない」
「期待してるくせに」
「いっぱい」
「して」
「おしおき」
私は再びハルちゃんに襲いかかった。
それからまた数日間に渡ってハルちゃんをイジメ続けた。
この世界って相変わらず飲食の必要は無いのよね。
物が持ち込める様になったのにそこは変わっていないなんてなんだか不思議だわ。




