28-14.発見
「なにあれ」
船内モニターに移された最深部の景色には、この真っ暗な空間には不釣り合いな物が映り込んだ。
部屋の撮影用セットみたいに、二面だけ壁があるやつだ。
部屋の中は色んな意味で生活感があった。
「……さあ?」
「主いっぱい!?」
「何で私の心の最奥にこんな物があるの?」
「知らないけど、少なくともお母様の仕業じゃないよ。
というか、どう考えてもハルが持ち込んだんでしょ」
「いつの間に……
シーちゃん、何か知ってる?」
「いえ、存じません。
少なくともあれらはナノマシンによる物でもありません」
「そっか。
なんで黙っていたのかしら。
ハルちゃんが既に試していたのなら、今回の調査は必要なかったわよね」
「そもそもバレないと思っていたんじゃない?
心の深層は殆ど無限に近い広大な空間だ。
偶然、この場所に来る事は無いと思ってたんじゃない?」
「なら見なかった事にしてあげるべきかしら」
「まあ、その方が良さそうだね。
物が物だけに」
「意味ないでしょ。
アルカの記憶は全てハルが見てるんだから」
「それはそれよ。
知っていても言及さえしなければショックは少ないわ」
「一心同体は何処に行ったのよ……」
「それもそれよ。
あまり意地悪言わないで、イロハ」
「ごめんなさい。少し動揺しすぎたの」
「まあ、気持ちはわかるわ。
たった数日で……もないのね。
この空間でどれだけ過ごしても、外では時間経過なんて無いのだし。
それにしてもこれ全部自分で作ったのかしら。
でもどうやってバレずに材料を持ち込んだの?
というか、よく見たらベットは私のじゃない。
前に使ってて今は収納空間に入れてたやつだわ。
ああ、なるほど。ここでももう収納魔法が使えるのね。
あのアップデートってこんな所にまで作用するなんて凄いわね」
「あまり余計な物を増やし過ぎちゃだめだよ?
忘れているかもだけど、ここはアルカの心の中でもある。
お母様の影響を大きく受けて保護されている表層はともかく、深部の方に下手に手を加えると、心にどんな影響が出るのかわからないよ?」
「そうね。
とはいえ、ハルちゃんが趣味部屋に使うくらいなら見逃しても大丈夫でしょ」
「趣味部屋ね……
ハル、アルカの事好きすぎでしょ。
何で何時でも本人と一緒にいられるのに、ここまでする必要があるのかしら」
「正直わからなくもないような、やっぱりわからないような感じね」
「何もわかってないじゃない」
「まあ、私としてはこれをアルカ本人に隠そうと思う羞恥心があっただけでも驚きなんだけど」
「言ってくれればいくらでも協力したのに。
って話では無いのよね。
そろそろ移動するとしましょうか。
この件は忘れる事にしましょう」
「主!我もあれ欲しい!」
「困ったわね。
ハルちゃんに頼んでも良いのかしら」
「クルルが直接頼む分には良いんじゃない?
どうせ、アルカに知られた事はわかるのだし」
「という事で、ハルちゃんに頼んでね、クルル。
私は知らなかった事にするわ」
「うん!」
「私も頼んでみようかしら」
「イロハも結局欲しくなったのね」
「少しだけ気持ちがわかってきたかも」
「感染してる……」
私達は船を動かして、大量の私グッズが置かれた部屋から離れた場所に移動した。
やっぱり私もハルちゃんの抱き枕作ってもらおうかしら。
タペストリーも捨てがたい。
いっそ家族全員分のフィギュアセット作ってくれないかな。
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私達はここで暫く時間を潰す事になっている。
念の為、外との時間経過の差を確認するためだ。
船内に戻った私達は、休憩用の部屋で談笑していた。
「別にただの時間潰しなんて必要ないんじゃない?
ハルが散々ここで過ごしたんでしょうし」
「知らなかった事にするって言ったじゃない」
「それはそれよ。
どうせバレるとも言ったでしょ」
「イロハは私とお喋りするの嫌なの?」
「そんなわけないでしょ!」
「アルカ、イロハはアルカに気を使ってるんだよ。
怖いのに無理していないかって不安なんだよ。
普段視えてる心が何も視えないから、何時も以上に気になってるんだよ」
「……ニクス、喋りすぎ」
「イロハ!ごめんね!
心配してくれてありがとう!」
私はイロハを抱きしめる。
「けれど私は大丈夫よ。
今は明るい船の中だし、皆がいてくれるもの。
だからイロハの不安も無くなるように沢山キスするわ!」
私はイロハを押し倒す。
「ニクス達もいるのよ」
「もう皆の前でもしたじゃない」
「部屋が明るすぎるわ」
「ごめんね。暗くはしたくないの」
「いじわる」
顔を真っ赤にして漏れ出すな声音で呟いたあと、目を閉じたイロハ。
私は堪らずイロハに襲いかかった。
結局、数日以上船内で過ごすことになった。
当然、クルルもニクスもシーちゃんも混ざって、思う存分に楽しんだのだった。




