28-12.決着?
私はセレネとグリアと共にグリアのお母様の下を訪れた。
昨日の今日だけど、シーちゃんの件で私が閉じこもっている間はご無沙汰だったし、すぐに行動する事になった。
突然の訪問については、そもそもこの世界には電話など無いので、事前の約束が出来ていない事もそう珍しいわけではない。
まあ、私達なら相手が忙しそうならすぐに帰れるし、事前連絡だってそんなに手間でもないけど。
「グリアさんのお母様、お初にお目にかかります。
私はセレネと申します。
グリアさんには娘の様に可愛がっていただいております。
お母様とも仲良くさせてくださると嬉しいです」
「まあ!礼儀正しくて可愛らしいお嬢さんね!
グリアちゃんの娘なら私の孫でもあるのね!
気軽におばあちゃんって呼んでね!」
「嬉しいです!おばあちゃん!」
「まあまあ!
嬉しいわ!セレネちゃん!
セレネちゃんの事はよく聞いているわ。
アルカちゃんからだけでなく、この王都でも話題になっているのよ。
教会の聖女様なのよね」
「驚きました。
ご存知だったのですね。
ちなみにどの様な話題なのか聞いても宜しいですか?」
「ふふ。とっても綺麗な聖女様だって。
本当に噂通りの美人さんね。
あと、とってもやり手の聖女様だともね。
こっちも噂通りなのかしら?」
「そちらはグリアさんのお陰ですね。
私は表に出ていただけで、教会の運営については殆どグリアさんが尽力して下さったのです。
グリアさんに比べたら私なんてまだまだです」
「まあ!セレネちゃんはとっても謙虚なのね!
グリアちゃんがお役に立てたのなら嬉しいわ」
ぷっふふ。
セレネが謙虚、ふふ。
セレネの余所行モードに思わず笑いを堪えていると、セレネに足を踏まれてしまった。
ダメだ。笑ってる場合じゃない。
セレネはそのまま暫くグリアのお母様と談笑を続けた。
今回は全て任せておけなんて言っていたけれど、どうするつもりなのかしら。
というか、今更だけど別にこうして定期的に顔を見せるくらいでも十分じゃなかろうか。
急いで何らかの決着を着ける必要なんてあるのだろうか。
普通の親子ってそういうものじゃないの?
この世界の普通の貴族の、それも出奔済みの娘を気に掛ける親御さんの気持ちは流石に想像しきれない。
とりあえず、グリアを可愛がっているのは間違いない。
幸せを願っているのもだ。
週一くらいで幸せな姿を見せるのでは足りないのだろうか。
まあ、私は無理ね。週一で足りるわけがないわ。
実際セレネが私の下を去ったあと、耐えられずに転移門で殆ど毎日覗いていたくらいだし。
というか、セレネが私以外の誰かと結婚したいなんて言い出したら絶対に認められない。
私とセレネで比較するのはなんか違うかもしれない。
セレネは娘だけでなくお嫁さんでもあるのだし。
私がそんな事を考えている内に話はどんどん進んでいた。
「グリアさん、そろそろ観念してよ。
アルカの事が好きなの、アルカ以外皆わかってるのよ」
あれ?
何の話?
なんか重要な部分聞き流してた?
『だいじょうぶ』
『タイミング』
『ばっちり』
そうすか。
ありがとう、ハルちゃん。
私の代わりに聞いててくれたのね。
『いいから』
『しゅうちゅう』
『だいじなはなし』
『は~い』
私がハルちゃんと内心で話している間、グリアは真っ赤になって口をパクパクとさせていた。
私は口を挟むべきなのかしら。
『だまって』
『きいてる』
『は~い』
「確かに今はアルカの気持ちがグリアさんに向いていないのは事実よ。
あくまでも大切な家族としか思っていないわ。
けれど、アルカの惚れやすさはわかっているでしょ?
グリアさんから迫ればすぐに陥落するわ。
それに私もグリアさん好きよ。
アルカの伴侶に加わったって文句なんかないわ。
まあ、お母さんだとも思ってるから少し複雑な気持ちも無くはないけど」
「……この様な場でする議論ではなかろう」
「ここでなければ逃げるでしょ?
言っておくけど転移は妨害するわ。
いい加減ケリを付けましょう。
私焦れったいの嫌いなの。
グリアさんもよく知っているでしょ?」
「君も私が根回し不足を嫌うことも知っているだろう?
不足どころか、こんな場面での不意打ちなど論外だ。
議論する価値もない」
「私がしているのは議論ではなく、お願いよ。
私達と本当の家族になってとお願いしているの。
そう決断してと願っているの。
ある意味、私からグリアさんへのプロポーズよ。
私と同じくアルカのお嫁さんになりましょう。
そうして、ずうっと一緒に仲良く暮らしましょう。
私は今更グリアさんを手放したくなんてないの。
どう?受けてくださるかしら」
「……その必要はなかろう。
私も君達を家族だと思っている。
そこにアルカ君との婚姻関係など不要だ。
何より、私は君達の言うずっとは生きられない。
どれだけ君達を愛おしく思っていても、それだけは受け入れられない。
理解してくれ」
「……そう。
わかったわ。
それを言われてしまっては納得せざるを得ないわね。
あ~あ。振られちゃったわ。
結構、というか想像以上にショックね」
「おばあちゃん、突然眼の前でこの様な話を始めてしまいすみません。
ですが、私達は互いを大切に思っています。
家族だと思っています。
どうかそれだけは信じて下さい。
そしてできれば安心して下さい。
グリアさんの事は、私が娘として幸せにしてみせます」
「セレネちゃん!」
感極まったお母様がセレネの手を握りしめる。
グリアの事を想ってくれてありがとう、娘をお願いと、続けるお母様。
それからもう少しセレネが中心になって話を続け、今日のお茶会はお開きになった。
それから私達は我が家に帰還した。
「転移妨害なんていつの間に習得したの?」
「ハッタリよ」
「……まったく、君は」
「まあ、グリアさんが魔法陣を何処に隠しているのかは知っているし、ピンポイントに結界で覆ってしまえば防げるわ。
あながち不可能なことでも無いでしょ」
「全部計画通りなの?
私達が家族として想い合っている姿を見せたかったの?」
まあ、普通の家族の愛情とは言い難い部分も多いけど。
「ううん。グリアさんが私の想いに応えてくれるのを心の底から願っていたわ。
けれど、グリアさんも言った通り、伴侶になってしまえばアルカは我慢できないものね。
必ずグリアさんにも不老魔術を使うでしょう。
受け入れられない気持ちも想像出来ないわけではないの。
だから、これ以上の無理強いはしないわ。
まあ、いつかアルカの方から惚れて、あっさり口説き落とされた場合の事までは知らないけど」
「そんなことは……」
「無いとは言えないでしょ?」
「……」
「ところで、グリアが私のこと」
「黙れ」
「好きだって」
「うるさい」
「もう~
しょうがないな~
これからはもっと仲良くしましょうね~」
「アルカ、グリアさんをからかうのなら許さないわ。
けれど、本気で口説くのなら応援して上げる。
よく考えてから発言しなさい」
「は~い」
「まったく君達は……」




