28-8.研鑽
何時もの様にルネルに一頻り転がされて、思わず叫び声を上げる。
「何で勝てないのよ!!!
私この世界の神より強いのよ!!」
「力の量だけじゃろうが。
あの神の方がまだお主より技量は上じゃ。
その程度であの神に勝てるわけ無かろう」
「うぐっ……
それはわかるけど、限度があるでしょ?
だって、ハルちゃんもイロハも力を貸してくれてるのよ?
近い所まではいってるんじゃないの?」
「この愚か者が!
よりによってお主があの神を舐めてどうするのじゃ!
あの神はその領域で長い時を研鑽に費やしておるのじゃ!
そもそも、お主等はその力に慣れてすらおらんだろうが!
中で力を貸している者らも出てくるのじゃ!
性根を叩き直してやる!」
「アルカおばか」
「とばっちりじゃない」
「ごめん、二人とも」
「もう一人おるじゃろうが」
「ごめん、もう一人は出てこれないの。
さっき誕生したばかりで、まだわかってない事が多いから絶対とは言わないけど」
「うむ?
ふむ。なるほどのう。
お主の言う通りのようじゃが、手が無いでもないじゃろ。
シイナの分体に意識を移してみるのじゃ」
「え?
できるの?
というか、何でそんな事わかるの?」
「いいから試してみよ」
「シーちゃん、アリス、お願い」
「イエス!マスター!」
『やってみるよ!小春!』
シーちゃんがナノマシンで形成した分体に、アリスの意識が流れ込んでいく。
なるほど。
今のシーちゃんは私の魂を分け与えて産まれた存在だ。
隷属契約とは比べ物にならない程の強固な繋がりがある。
その繋がりを通じて、アリスがシーちゃんの分体に乗り移ったのだ。
とはいえ、入り込んだのはあくまでも意識だけだろう。
本体は私の体に残っているのを感じる。
多分私が自身の心の中の世界に入る時と似たような状態だ。
完全にアリスの意識が乗り移ると、シーちゃん(分体)の姿が変わっていき、アリスの姿へと変貌した。
これってもしかして、私もできるのかしら。
私の中身が空の間はハルちゃんにでも動かしてもらおう。
今度試してみたい。面白い事が出来そうだ。
「始めるぞ」
アリスの出現に驚きもせずに再び訓練を開始するルネル。
どうして見ただけであそこまでわかるのだろう。
私の中にアリスがいる事だってどうやって見抜いたの?
ルネルの事はまだまだわからない事だらけだ。
いつか私もそこまで成長できるのだろうか。
「呆けとるでない!
集中せんか!」
「はい!」
私、ハルちゃん、イロハ、シーちゃん、アリス、クルルの六人がかりで、ルネルに向かっていく。
当然のように転がされていく私達。
強さと力の大きさは全く関係ないと、いい加減私にも理解できる。
今までどこかしらには限界があるものだと思っていた。
けれどそうではないのだ。
この期に及んで未だ、思い違いをしているのだ。
どれだけ速く固く強くなっても、ルネルには勝てないのだ。
私がやるべき事は技を磨く事と、目を養う事だ。
経験を積み、判断力を鍛える事だ。
私達は日が暮れるまで続けていた。
ノアちゃんがご飯の支度を終えた頃になって、ルネルから終了を告げられる。
正直まだまだ物足りない。
けれど、焦る必要はない。
ルネルもニクスも長い時をかけて強くなったのだ。
私も同じだけ時間をかければいい。
私達には時間があるのだから。
「それで、その子は誰?
なんか私達に、と言うかアリアに似てない?
子供でも作ったの?」
「この子はアリス。
例の混沌ちゃんの置き土産よ」
顔の主要パーツは他の子に似てるのに、やっぱりセレネから見てもアリアに似てるらしい。
アリアの美少女要素の主張が強すぎるのだろう。
流石、我が家一の、いや、世界一の美少女ちゃんだ。
アリアはどこかしら?
なんだか抱き締めたくなってきた。
あと、アリスとも並べてみたい。
「名前まで似せたのね」
「なんだか双子みたいで良いでしょ?」
「片方の瞳はノアと全く同じなのに、結構印象は違うのね。
でもこれはこれで好きよ」
「何だか照れちゃうよ~」
セレネに至近距離で見つめられてくねくねするアリス。
アリス可愛い。
セレネもそう思ったのか、おもむろにアリスを抱き締めた。
「ノアちゃんの目も良いわよね。
綺麗で力強くて、何時までも見ていたいわ」
「そうね。今日はノアに相手をしてもらいましょう。
それはともかく、アリスの雰囲気は何だかアルカみたいだわ」
「小春と私は一心同体だからね!」
「なら私の事も好きよね?」
「うん!大好き!」
「いきなり何聞いてるのよ。
アリスもアリスで即答してるし」
「嫉妬?」
「しないわよ。
自分に嫉妬するようなものだもの。
この子は私の記憶から自我を形成したの。
その上、心も完全に結びついてる。
殆ど私の分身みたいな存在よ」
「小春!嬉しい!
そんな風に言ってくれるなんて!」
「アリスの方はベタ惚れしてるっぽいけど?」
「なんでかしらね~」
「アリス以外にも、シイナとハルも似た様なものなのよね?
なら、おかしな話でも無いんじゃない?」
「流石にその二人は元々別の存在だったわけだし……」
「かんけいない」
「ハルはアルカ」
「アルカはハル」
「別にそこを否定してるわけじゃないわ。
私の一部としてのハルちゃんだけでなく、私の大好きなハルちゃんも残っていたって良いじゃない。
ハルちゃんとお姉ちゃんの想い出は、私のものではなくハルちゃんだけのものでしょ?
同じ様に私がハルちゃんを好きな気持は私だけのものよ。
それだけはハルちゃんにだってあげないわ。
ハルちゃんも私を好きな気持を大事にしてね」
「うむむ」
「なっとくできる」
「けど」
「ぎろんのよちあり」
「良いわ。語り合いましょう」
「何を話しているのか全然わからないわ。
アウラはどう思う?」
『さっぱりよ。
というか、全然一心同体じゃないじゃない。
議論を必要としてるじゃない』
「「それはそれ!」」
「好きにしなさいな」
「アルカ、そこに私の事は加えてくれないの?」
「ようこそ!イロハ!
あなたも今から仲間入りよ!」
「主!我は!?」
「良いわ!カモン!クルル!」
「いいかげんにして!アルカ!」
「驚いた。
ハルの怒鳴り声なんて初めて聞いたわ」
『私も』




