28-6.パンドーラー
光が収まると少女が立っていた。
段ボール箱はどこかに消えてしまったようだ。
ニクスが消したのかしら。
それとも仕様?
いや、そんな事よりもだ。
何この子、めっちゃかわいい。
私の理想そのものみたいな容姿だ。
少しアリアに似てる気がしなくもない。
いや、それだけじゃない。
よくよく観察してみると、アリアをベースに家族の好きな要素が混ざったみたいな、それでいてバランスの取れた完璧な姿というか、なんにせよ、明らかに造形に作為を感じる容姿だった。
そこまで思い至って、正直発想が悪趣味としか思えなかった。
混沌ちゃんとは仲良くなれないかもしれない。
瞳は片方ずつノアちゃんとセレネのオッドアイ。
唇はレーネ、髪はニクスかしら。
リヴィ、ルカ、カノンの要素はちょっとわからない。
体の方に現れているのか、元々リヴィはノアちゃんとセレネにそっくりだし、ルカとカノンもアリアによく似ているから、わかりずらいだけなのか。
それにハルちゃんとお姉ちゃんもだ。
なんか、二人の要素は最初から含まれていない気がする。直感だけど。
なんでそう思ったのかしら。
というか、多分ハルちゃん以降に家族に加わった子の要素は含まれて無いのだ。
多分カノンもこっちの理由だろう。
パット見でわかるのはそれくらいだけど、多分体の方も同じような感じなのだろう。
一応服は着ているので流石に見た目にはわからないけど。
混沌ちゃんが手ずから創り上げたの?
それとも私の好みを勝手に読み取ったの?
よくわからない。
ハルちゃん以降の子の要素が無いのなら、受け取った時に私の好みを反映したのではなく、混沌ちゃんが創ったタイミングの問題なのかもしれない。
という事は、混沌ちゃんはこの子をかなり前から用意していたのだろうか。
私と会う事はその時点から計画されていたのだろうか。
あれは私にこの子を授けるための茶番だったのだろうか。
わからない。
本当にわからない事ばかりだ。
ともかく、考え込むのは一旦やめよう。
少女は何も言わずにニコニコと私に笑みを向けている。
私は近づいて、少女に視線を合わせる。
「私はアルカ。
あなたのお名前を教えてくれる?」
少女は何も答えず、笑みを返すだけだった。
私は少し戸惑いながら質問を続ける。
「今の状況はわかる?
言葉は伝わってる?」
「……?」
「アルカ、多分この子は知識も記憶も無い、まっさらな状態だよ」
「それは……こまったわね」
「いんすとーる」
「する?」
「ハルちゃん式詰め込み教育ってフィリアス以外にも出来るの?」
「たぶん」
「このこ」
「アルカとまざってる」
「だから」
「できるはず」
「むしろ」
「ほうっておいても」
「すぐかも?」
「どういう事?」
「そのまま」
「この子はハル以上に、こはると一体化してるという事よ。
多分すぐに言葉や常識は身につけるわ」
「ききずてならない」
「アルカとハル」
「ひとつのそんざい」
「アルカとハル」
「いじょうなんて」
「みとめない」
「落ち着いてよ、ハル。
この子がアルカに根付いているのは間違いない。
アルカが冗談で言ったように寄生に近い状態だよ。
多分この子はこの世界から、というかアルカの中から出る事はできないよ。
少なくとも私の世界にはいけないはずだ」
「それは……」
「もしかしたら、アルカの中に産まれたこの世界の使徒として使えって事なのかもしれない」
「もしかして、あの神殿にいるニクスの神官と同じような存在なの?」
「……そうだね。
立場だけなら近いかも。
在りようは全然違うけど。
それに、お母様がどういう意図で産み出したのかは定かではないのだし、全然違う目的もあるかもしれない。
けれど、わざわざ枷にしかならない様な仕掛けを施して産み出したのだから、そこにも何か意味はあるかもしれない」
「わからない事ばかりね。
せめてこの子が何もかも知っていて教えてくれるのなら話は早かったのに」
「申し訳ございません」
「え?
何でレーネの声が?」
「アルカ、その子だよ。
もう言葉を学んだみたい。
私達の会話の意味を理解したんだよ」
「早いわね!?
ごめんね、あなたのせいじゃないの。
謝る必要は無いわ。
ところで名前は……ってあるわけ無いわよね。
何か考えなきゃね」
「はい!」
すかさずタブレットを出現させてくれるシーちゃん。
以前、フィリアス達に名付けを行った時のやつだ。
流石、私の秘書は気が利くなぁ~
私はタブレットを眺めながら暫く考え込んだ。
「あなたの名前はアリスよ!」
「はい!えっと、ますたぁ?」
「それ以外でお願い。
とはいえ、主とか呼んでくれる子も既にいるのよね。
声がレーネとそっくりだからアルカ様もちょっと困るわ。
というかできれば敬わない感じに呼んで欲しいのだけど。
どうしようかしら……」
「ならば、小春とお呼びします!」
「敬語も抜きでお願い」
「はい!小春!」
「よろしくね。アリス。
アリスは何か役目とかあるの?」
「役目ですか?」
「何か本能的に湧き上がってくるものとかない?」
「?」
「どうやら、本当に混沌ちゃんは何も仕掛けてないようね。
変な事を聞いてごめんね。
とりあえず、アリスもこれから私の娘よ。
やりたい事があれば何でも言ってみて。
出来る事ならしてあげるわ」
「ならぎゅってしてください!」
うちの子達、皆真っ先にそれを望むのはどうしてなの?
私のせいなの?
私と繋がって私の記憶から言葉や常識を学んで、まず最初にそれを望むのは、私が一番好きな事だからなの?
次はキスをせがまれるのかしら。
この子もすぐに私を好きになるのかしら。
けど、この子の人格とかは私の記憶から形成されたんじゃないの?
これじゃあ、自分の事が好きみたいにならない?
少しだけモヤモヤと考えながらも、とりあえず、両手を広げるアリスに近づいて抱き締めた。




