28-5.開封
ニクスは二つのギフトの内、最初に世界の更新パッチの方を開封した。
変化は一瞬だった。
しかも、私自身には特に影響も無い。
私の心に存在する世界なのに、精神への影響が無いのもかえって不自然な気もしなくはない。
とはいえ、ニクスが問題ないと考えているのだし、気にする必要も無いのだろう。
そして、私の中の世界にまずハルちゃんとニクスが侵入する。
一通りの安全確認を済ませて、ノルン、ミーシャ、ハルちゃんズ、シーちゃん+船を私の世界に入れて、私自身も精神体で乗り込んだ。
万全の体制を整えて、もう一つのギフトである謎の少女が封印されたものをシーちゃんの船に持ち込んだ。
「何で段ボールなの?」
「しかくか」
「しただけ」
「かってになった」
「混沌ちゃんの趣向なの?」
「そういう事だね。
少なくとも、私の加護が原因ではないよ。
我が母ながら趣味が悪いよ。
まるで物扱いだ」
「もしかして本当に物なのではないですか?
ゴーレムやホムンクルスの類では?」
「どっちにしてもよ。
まあ、わたしならアルテミシアを段ボールに詰めても罪悪感なんてわかないけど」
「いっそ、拾ってくださいと書いて、アルカさんの前に捨ててね、ノルンちゃん」
「何で拾ってもらえると思うの?」
「雨に打たれて弱っていく姿を見ればワンチャン」
「無いでしょ。
あなたはそうなるまでじっと我慢なんて出来ないわ。
招かれてもいないのに、勝手に家を特定して、上がり込んで、追い出されるだけよ」
「ノルンちゃんならそれでも何だかんだご飯くれそう」
「何でわたしが拾う事になってるのよ……」
「ノルンちゃん大好き!」
「わたしはミーシャ嫌いよ」
「久しぶりにミーシャって呼んでくれたぁ!
少しは効いたみたいだね!」
「ミーシャが面倒臭い性格してるのって、ノルンのせいだったりしない?
そうやってなんだかんだ甘やかして来たんじゃないの?」
「そんな……」
否定できなかったのか、本気で落ち込むノルン。
「ノルン、私の立場からしたらノルンもミーシャと大差無いことしてるって自覚はある?
一方的に母と呼んで、あなたは優しいから許してくれるよねって付きまとってくるのが、どれだけ鬱陶しいのか、自分の事に当てはめて考えればわかるよね?」
「お母様……」
更にガチ凹みするノルン。
「ニクス、ようやくニクスの気持ちは想像できたけど、それはそれとして、ノルンを虐めるのは許さないわよ。
ノルンは私のものなの。
ニクスも今まで以上に優しくしてあげて」
「だからこそだよ。
仲良くするために今まで言わずにいた事をわざわざ口にしたんだよ。
お互いに憂いなく付き合っていける様に、正直な気持ちを伝える事にしたの。
これは私からの歩み寄りだよ」
「お母様!!」
「そう。
ごめん、ニクス。
余計な事を言ったわね。
そんな風に考えてくれて、私も嬉しいわ」
「アルカも言った通り、これから何千年でも一緒に暮らす事になったんだもの。
お母様が何も言わなかったのなら、ノルンがアルカのものである事もきっと認められたって事だよ。
だから、ノルンは本当の意味で私の家族になった。
家族に歩み寄るのは当然だよ」
「その理屈でいけば私も家族として受け入れてくれるという事ですか?」
「物扱いを脱したら考えるわ」
「せめてペットくらいになりませんか?」
「嫌よ。可愛くないもの」
「そんな事無いです!
私見た目だけは可愛いですよ!」
「だけって自分でもわかってるじゃない」
「否定しないという事は、見た目は可愛いと思ってくれているのですね!嬉しいです!」
「あなたのポジティブな所も好きじゃなくなってきたわ」
「そんなぁ!?」
「何時までも馬鹿話してないで、早く開封しましょう。
この中に例の少女がいるのでしょう?
この船の中なら何があっても対処できるはずよ。
ニクス、お願いね」
「うん。任せて」
ニクスが段ボールの前に出る。
ノルンとミーシャは少しだけ距離を取る。
「ハルちゃん、イロハ、シーちゃんも警戒よろしく!
念の為、他の子達は少し離れておいて!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
ハルちゃん、イロハ、シーちゃんが私の側に寄って、ニクスと段ボールを囲い込む様に少しだけ広がる。
サナ、ラピス、ナノハ、チグサは更にその後ろに下がった。
これで準備は万端だ。
流石に突然暴れ出す事は無いだろうけど、警戒しておくに越したことは無い。
ハルちゃんの力は今やイロハに迫る勢いだ。
まだ万全に使いこなせているわけでは無いけど、ハルちゃんなら問題あるまい。
私のハルちゃんは凄いのだ。
もちろん、他の皆もだけど。
ともかく、眼の前の事に集中しよう。
ニクスが段ボールを開封すると、眩い光が溢れ出した。
それ、普通に開けるの?
わかりやすく視覚化してるだけ?
そうなんだ……




