28-4.ギフト
「これは……」
「ニクス?
どうしたの?」
「えっとね……」
ニクスが解析して教えてくれた、混沌ちゃんが私に与えようとしていたギフトの一つ目は、私の中の世界の更新パッチとでも言うものだった。
今までは完全に何も無い世界だったのだけど、ギフトを適応する事で、正しい意味での一つの世界に近づく事になる。
具体的には、土地が出現する。
そして、物理的な存在を持ち込める様になる。
つまり、シーちゃんの船ごと、フィリアス達の居場所を用意出来るという事になる。
何そのピンポイント過ぎる贈り物。
普通に嬉しい。
なんだか神様体験セットって感じだ。
自分だけの世界を運営できるようだ。
最初は土地しか無いけど。
そしてもう一つが問題だった。
ニクスが言葉を濁したのはこちらが原因だった。
もう一つの贈り物は少女だ。
今はまだ起動前の状態で停止している。
何で私の中に?
普通に渡してくれれば受け取れたんじゃないの?
って、そっちではなく、この子どうしようかしら。
まだ今なら見なかった事にも出来る。
ニクスの加護のお陰で、考える余地がある。
「混沌ちゃんは根付かなかったと言っていたけど、どういう意味なのかしら。
この子は私に寄生でもするの?」
「ごめん、流石にそこまではわからない。
少女の形をしてるだけで、実態は別物なのかもしれない。
この子の事は私でも詳しく読み取れない」
「混沌ちゃん様の贈り物だもの。
表面上からわかることだけで判断するべきではないわ。
更新パッチの方も同じ話よ。
そのものに見抜けない巧妙な仕掛けがあるのかもしれないし、仮の世界を与えて運営させる事自体が目的で、こはるを神として育てたいのかもしれない。
まだどちらも使わないって選択肢も残っているわ。
よく考えて選んでね、こはる」
『ハルはんたい』
「その心は?」
『キャラかぶり』
「元々は私の居場所だったのに!」
『くうしつだった』
「そもそも、ハルちゃんというか、フィリアスの皆とニクスでは同化の方法も異なるでしょ?
ハルちゃん達は体で、ニクスは心に住んでいたのよね?」
「アルカに対する立ち位置の話だよ!
それにこれからは、更新パッチ当てて心の中にも住まわせるんでしょ!」
『アルカのなかすむ』
『アルカのたすけ』
『ハルのやくめ』
「結局どうすればいいのよ。
更新パッチの方だけ当てて、謎の少女はそのまま封印しておく?
それとも、どちらも見なかった事にする?」
「こはるが決めて。
この贈り物にも意味があるのなら、いつか必要になるのかもしれないわ。
その時の為に使いこなせるようにしておくのか、それともリスクを避ける為に見て見ぬふりをするのか。
もしかしたら、見なかったことにしてしまえば、混沌ちゃん様の興味も薄れるかもしれないわ」
「それはそれで大丈夫なの?
失望されるって事よね?」
「ダメかも……」
「単純な好意の可能性だって十分にありますよ?
おばあちゃんは気まぐれですから。
どっちにしたって、次に会った時は虐められるかもしれませんよ?」
「それもそうね。
あまり気にしすぎても仕方ないのかも。
そもそも真意は考えたってわかるはずもないのだし。
こはる、自分の気持ちで判断していいわ。
欲しいか欲しくないか。
それだけで判断なさい」
「ニクスはどう思う?」
「……任せるよ。
必要な可能性もあるし、そうではない可能性もある。
危険な可能性もあるし、便利なだけの可能性もある。
少なくとも、役に立たないという事はありえない。
お母様が贈るものが完全に無駄な物であるはずがない。
どんな形にせよ、糧になるのは間違いないよ」
「ハルちゃんは、ニクス達の意見を聞いてどう思う?」
『……』
『アルカに』
『いちばんちかいの』
『ハルだよ?』
「そうね。それはこれから何があっても変わらないわ」
『ならいい』
『すきにして』
「わかった。
ならニクス、どっちも開封して」
「本当に良いんだね?」
「うん。受け入れるわ。
ニクスはもう無いって言ってくれたけど、万が一私が一人の時に別の世界に飛ばされてしまえば、今度は帰ってこれないかもしれないわ。
シーちゃんごとフィリアス達を私の中に住まわせるのは、対策として有効よ。
それに、流石のハルちゃん達でも世界を渡るのはまだ難しいわ。
その子が何か、私の欲しい力を持っているかもしれない。
使えるものは何でも使うのでしょう?
元々、そういう方針だったのだもの。
こんな所で怖気付いている場合ではないわ」
「……そうだね。
わかった。始めるよ」




