28-2.方針
ニクスは丸一日以上帰ってこなかった。
正直もう少し早く帰って来てくれると思っていたのだけど、ミーシャの事以外にもなにかする事があったのだろう。
そんなニクスの事を気にしながらも、家族との平和な時間を楽しんで眠りについた翌日、目覚めるとニクスが抱きついて眠っていた。
私がニクスを見つめていると、目を覚ましたニクスもこちらに視線を向ける。
そのまま無言でキスを交わす。
ニクスの照れ笑いを見て、思わずキツく抱きしめる。
「苦しいよ。アルカ」
「我慢して。私の好きにさせて。
ニクスはもう私のものなのでしょう?」
「もうとっくにそうだったでしょ。
お母様がなにかしなくたって関係ないよ」
「そうね。
けれど、ニクスに自由に命令出来るなんて、少しだけゾクゾクしてしまうわ」
「何をさせる気なのさ。
ワクワクくらいにしておいてよ」
「とりあえず、私が満足するまでキスしなさい」
私の指示通り、顔を寄せるニクス。
「いきなりだね」
「まだ足りないわ」
「もう、仕方ないなぁ」
そのままキスを繰り返すニクス。
本当に私が止めるまで続けてくれそうだ。
これは命令のせいなのだろか。
それとも、ニクスの意思なのだろうか。
気になった私は命令を上書きする。
「命令よ、ニクス。
ニクスが満足するまで私にキスをしなさい」
「もう十分したよ?」
そう言いながらもキスしてくれるニクス。
何度も何度も繰り返してくれる。
暫くして、何時までも起きてこない私達にしびれを切らしたノアちゃんが呼びに来るまで続けていた。
「さあ、今日こそは動き出しましょうか。
やるべき事は山積みよ」
「ようやく完全に元の調子を取り戻したみたいね。
なら、イロハとクルルを出しなさい。
ついでにルチア、アウラ、スミレも出てきてくれる?
アルカの中にいる他の子達も全員出てきて」
セレネの呼びかけで私の体からハルちゃんズが同化を解いて出現する。
同じように、ノアちゃんとセレネの体からも、昨日の内に戻っていたルチアとアウラも出現した。
カノンの中からもスミレが飛び出した。
「どうしたのセレネ?
皆を呼び出したりして」
「ちょっとね」
セレネは全員を見比べる。
「イロハとクルルの事はよくわからないわね。
ハルだけ力の供給量が多すぎない?
それにスミレだけ極端に少ないわ。
これがパスの強化による影響なのよね。
ならやっぱり、これはアルカが向ける愛の差でもあるのかしら」
ピシッと空気が凍りつく音が聞こえた気がする。
セレネは構わずに続ける。
「ハル、私達にも同じことって出来るの?」
「……」
「できなくもない」
「けど」
「こうりつわるい」
「たいしたせいか」
「えられない」
「にんげん」
「もともと」
「おおく」
「ながせない」
「人間同士の隷属契約ではなく、神と人間の契約ならどう?
アルカがニクスの使徒になったように、私達がアルカの使徒みたいな存在になるような、全く異なる形式の契約を結び直せば、改善できるんじゃないかしら」
「いいあいでぃあ」
「ためしてみる」
「セレネ、何がしたいの?
力がほしいの?」
「違うわ、ニクス。
アルカが私に一番強い気持ちを向けているのだと証明したいのよ」
「疑ってはいないんだね……」
「当然じゃない」
「セレネ、止めてください。
そんな事をされては私も我慢できなくなります」
「それで良いじゃない。
明確な差を付けて互いに競い合いましょう。
ノアもそういうの好きでしょ?」
「……良いでしょう。
その挑戦、乗ってあげます」
「お姉ちゃん達だけずるいわ!
アリアだって負けないんだから!」
「でも分が悪いのはたしか。
ルカ達は子供扱いもされてる。
策をねる」
「リヴィがいちばんになる!」
「私は何番目くらいなのでしょうか。
怖いような楽しみなような」
「何で皆乗り気なのよ……
私は普通に嫌よ。
というか、アリア達は強化以前に契約すら結んで無いじゃない」
「カノンちゃんに同意するわ。
私も嫌よ。
セレネちゃんとノアちゃんは確実に一番に近いからそんな事が言えるのよ」
「元の力の量が多い子はどうするの?
供給量そのものを知覚しているんじゃなくて、以前のハルと比較して増えている力の量を視ているだけでしょ?
正確な比較なんて出来ないと思うけど」
「ハル、計測くらいできるでしょ?」
「おやすいごよう」
「流石にそれは許可できないわ」
「私を一番に想ってくれてるって自信がないの?」
「そうじゃないわ。
セレネが一番だって間違いなく思ってる。
けれど、それはそれよ。
人間で在り続けるって目標はどうするの?
そんな事で余計な力なんか手に入れてもいいの?
過ぎた力は他にも色んな問題を引き寄せるわ。
私はできる限り静かに暮らしていたいの。
余計な火種を蒔く必要なんて無いわ」
「時間の問題じゃない?
必要に駆られれば力を求めるのでしょう?
それに、アルカがどこかに飛ばされてしまっても、力があれば私達の側から探しにいけるかもしれないわ。
人として大切なのは力の有無ではなく、心の在り方よ。
正しく扱えば何の問題もないわ」
「さっき力が欲しいわけじゃないって、ニクスに答えたじゃない」
「ええ。私の目的はあくまでもアルカの一番の証明よ。
力を得るのはそのおまけでしかないわ」
「それは屁理屈のつもりなの?」
「ニクス、これ以上余計な事を聞かないで。
これがあなたの為でもあるのはわかるでしょ?」
「……そうだね。ごめん。
アルカ、セレネの願いを叶えてあげよう」
「ニクスまで何を言いだすのよ……」
「アルカ、これは必要なことです。
アルカの立つ場所は私達と離れすぎてしまいました。
何れは側にいることも難しくなります。
そうならない為には、少しずつでも近づいて行くしかないのです」
「ノアちゃん……
わかったわ。ハルちゃん、お願いね」
「がってん」
「相変わらず、ノアの言う事は素直に聞くんだから。
これで私が一番じゃなかったら覚悟は出来てるんでしょうね?」
「信じて、セレネ。
何の心配も要らないわ。
少なくとも私は心配なんてしていないもの」
「ならいいわ。
ちゃんと一番だって証明できたらご褒美をあげるわ」
「それどうせ、どっちでもやること同じだよね?
部屋に閉じ込めて虐めるつもりだよね?」
「羨ましいのニクス?
仕方ないわね。今晩はニクスと過ごしてあげるわ」
「遠慮するよ。アウラと過ごしてあげたら?」
「……今日も皆で過ごしましょう」
「「なんでよ!?」」
「セレネに良く似て容赦ないですしね」
「朝から変な話しを続けてないで、そろそろ動き出そうよ。
早速アルカとハル達は私と一緒に、お母様の置き土産を解析しよう。
もちろん、力の供給を増やす件も協力するよ」
「ありがとう、ニクス。よろしくね」




