28-1.家族
暫くして私が落ち着いた後で、改めてイロハとクルルを紹介し、シーちゃんとノルンの事も説明する。
体感で一ヶ月程経過していたためにすっかり忘れていたが、家族にはシーちゃんとノルンの事すらも殆ど知らせていなかった。
シーちゃんはあの船から離れられなかったし、ノルンは来てからの時間が短い上に、立場上警戒せざるを得なかった。
二人の事もようやく、憂いなく紹介できるようになったのだ。
「それでまた増やしてきたと。
しかも、この子達以外にもまだ数千人のフィリアスがいるのね。
そっちはどうするつもりなの?」
「え?どうって?
さっきも言ったように、あの船で生活してもらうから、そのための環境を作ってあげたいとは思ってるけど」
「そうではないわ。
まだ嫁が増えるのかって聞いてるのよ」
「ふふ。まさか。
そんなわけ……ごめん」
「どういう事よ!?」
私はミヤコとコマチの事を説明する。
二人に力を与えるために、愛そうとしていた事。
すぐにはどうにもならず、一旦保留していた事。
「何でそうなるのよ!
ハル!どういうつもり!
時間さえあるならパスの増強くらい出来るんでしょ!」
『かのう』
『たんに』
『てっとりばやい』
『だけ』
「今すぐ他の方針に切り替えなさい!」
『がってん』
「アルカも簡単に流されてるんじゃないわよ!
自分の意思で方針を決めなさい!
ハルはアルカの所有物なのでしょう!?
道具に振り回されてるんじゃないわよ!」
「ごめんなさい……」
「ハル、悪かったわ。
道具だなんて思ってないから。
少し熱くなりすぎたわね」
「いい」
「どうぐ」
「うれし」
「悪いけど、その感覚は理解できないわ。
ちょっと席を外すわね。
少し頭を冷やしてくる。
きっとアルカの事を心配しすぎたせいね。
その上、また三人も増やしてしまうんだもの。
このままじゃ、また声を荒げてしまいそうだわ」
セレネは私にキスをしてから、その場を立ち去った。
それを見て、イロハとクルルは他のハルちゃんズと同じように、再び私に同化した。
ノルンは少しだけ離れた所で見守ってくれている。
「後でいっぱい慰めてあげてくださいね」
「うん」
相変わらず私の腕の中にはノアちゃんが収まっている。
私がノアちゃんを後ろから抱きしめて、こたつに入っている。
どうしてもノアちゃんを手放せない。
皆の事ももっと沢山抱きしめたいのだけど。
立ち上がろうとしても体が上手く動いてくれない。
抱きしめる腕を緩めようと思っても、ピクリとも動かない。
私の体は恐怖で強張っているのだろうか。
トラウマになっているのだろうか。
何だか自分の事なのに曖昧だ。
皆と再会出来た喜びがキッカケになって、反動が出たのかもしれない。
この調子では何時まで経っても、ノアちゃんを離してあげられないかもしれない。
そんな私の内心を察したのか、ノアちゃんが私の腕を握りしめる手に力を込める。
少しだけ私の腕の拘束を緩めて、器用に体を反転させて正面から抱きついてくれる。
そのまま耳元で囁きかけてくれた。
「大丈夫です。何時まででも側に居ます。
アルカの震えが止まるまでこうしています。
次にアルカが連れ去られる時は必ず一緒に行きます。
だから安心してください。
けれど、急ぐ必要はありません。
ゆっくりで構いません。
皆もアルカが立ち直るまでいくらでも待ってくれます。
大丈夫です。アルカ」
「……うん」
結局、そのまま夜遅くまで一歩も動けなかった。
折角帰ってこれたのに夕飯もすっぽかしてしまった。
皆も私に付き合ってずっと側に居てくれた。
途中でお姉ちゃんがベットに転移させてくれた。
そのまま、全員で集まって、抱き合って眠りについた。
翌朝目を覚ましても、ノアちゃんは私を抱き締めてくれていた。
いつもなら先に起きて忙しく動き回っているのに、私の事を優先してくれたようだ。
「おはようございます。アルカ。
調子はどうですか?」
「おはよう。ノアちゃん。
今朝はバッチリよ。
うん。もう大丈夫!」
私はノアちゃんを抱きしめる腕の力を緩めて、ノアちゃんの頬に手を添える。
そのままノアちゃんとキスを交わす。
「ふふ。安心しました。
なら、私は朝食の支度をしてきます。
アルカは皆の相手をしてあげてください」
ノアちゃんが起き上がると、代わりにアリアが飛びついてきた。
私はアリアを受け止めて、抱き締めて、キスをする。
次はルカ、リヴィ、レーネ、お姉ちゃん、カノンと続き、最後にセレネと抱き締め合う。
そのままヒートアップし始めた所で、朝食の準備を済ませたノアちゃんが呼びに来てくれた。
渋るセレネを宥めながら私達も朝食の席に向かう。
昨晩は私に付き合わせてしまったので全員お腹ペコペコだ。
ノアちゃんの美味しいご飯にありついて、また少し涙が溢れてきた。
けれど、今度は何故か笑みも止まらない。
少し恥ずかしいけれど、泣き笑いしながら朝食を食べる私に、皆も楽しそうに話しかけてくれる。
結局その日も一日中、皆と抱き合って過ごしていた。




