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27-25.一人

 私は一人、自室のベットに腰掛けていた。

今は完全に一人きりだ。私の中にも誰もいない。

皆は各々やる事があるらしく、私の側を離れている。


 とりあえず、ミヤコとコマチの件は一旦保留になった。

いくら何でも、いきなりハルちゃん達に向けるのと同等に愛する事は難しい。

かと言って、イロハに頼るのも無しだ。


 イロハの全てを奪っておいて、まるで代わりのように無理やり押し付けるなんて論外だった。

こんなの考えが足りないでは済まなかった。

イロハが何も言わないからって、どうしてこんな考えを押し通そうとしていまったのだろう。

もっとイロハの事を考えなければ。


 そもそもこの船に乗っているフィリアス達は、どういうわけかイロハとは別れて暮らしていたのだし、元々家族のように付き合っていたわけでもないのだ。

少なくとも、クルルとコマチは面識すら無かった。

ダンジョンコアが自動で生み出したのだろうか。

それとも、イロハが遠方に召喚して支配域を広げでもしていたのだろうか。

本気で知りたいのなら、教えてくれるかもしれないけど、私はイロハに過去を捨てるよう強要した。

だと言うのに、今になって押し付けようとしていたなんてあんまりだ。


 とはいえ、私がこの船の子達まで、付きっきりで見ているわけにもいかない。

ミヤコとコマチを中心に管理するしかない。

この集団の代表者をイロハから私にすげ替えるだけだ。

契約もあるのだし、問題にはならないだろう。


 シーちゃんはあっという間に設備を整えてくれた。

各シアタールームでは、区切りがついた所で、今後の図書館と映画館の使い方を紹介し、今回のお祭りはようやく終わりを迎えた。


 幸い、参加した皆も素直に各自の部屋に戻ってくれたので、懸念していた様な大きな騒動も無かった。


 グッズ類は後日通販形式で販売する事になった。

具体的な仕組みはまだ未定だけど、折角シーちゃんが準備してくれたのを無駄にするのは忍びない。

通貨を導入するのなら、仕事もなにか考えるべきだろう。

別にお小遣い制にしても良いのだけど、引きこもりばかりになられても困ってしまう。


 元々種族の性質的に一人で閉じこもっている方が向いているのかもしれないけど、そんな穀潰しを数千人も抱え込んでおくつもりもない。

食料は不要でも、あの子達の生存には私の力を消費する。

文字通り生命線なのだし多少は口うるさくしてもバチは当たるまい。

何より、今までの生活が退屈で堪らなかったと本人達が言っているのだ。

ならば、保護者として娯楽や生きがいを提供するのも必要な事だろう。


 一生解放するわけにもいかないのだから尚更だ。

でも、どこかに空いた世界でもあれば別なのだけど。

どこかに都合の良い世界とか無いかしら。

ミーシャの世界ならまだ人は復活してないだろうし、どこかの国を間借りできないだろうか。

人数だけを考えれば、一つの町で済むのだし。


 ただ、その場合でもまたエネルギー問題が出てきそうだ。

ダンジョンコアの力で再び支配するにしても、また広がってしまっては困る。

人間の世界を再占領しては元の木阿弥だ。


 そもそも、制御できる者が限られている。

私かハルちゃんかイロハにしか出来まい。

単身赴任なんてするつもりも、させるつもりもない。

かと言って、ニクスの世界に持ち込みたくもない。


 仮にニクスの世界に、ダンジョンひとつ分だけ間借りしても、脱走してしまう子も出てしまうかもしれない。

一人でも出てしまえばマズイことになる。

どう考えても、あの世界の人間に太刀打ち出来る存在じゃない。


 やはり、当面は船の中で暮らしてもらうしか無いだろう。

ならば、船の環境整備を進めるべきだ。

娯楽はその第一歩だ。

いっそ自給自足も出来るようにするべきかもしれない。

フィリアスには必要ないけど、私や家族がここで暮らす事もあるかもしれない。


 それに、またどこかに呼び出されてしまう事もあるかもしれない。

収納魔法が使えない事だってあるかもしれない。

次までにどれだけの時間があるかはわからないけど、出来る事はしておかなくちゃ。


 そもそも、次も船を持ち込めるのだろうか。

今回はノルンが干渉してくれたお陰のはずだ。

次回もそんな風に上手くいくのだろうか。


 それとも、今度はハルちゃんとすらも引き離されて一人きりで転移させられてしまうのだろうか。

そんな状態で私は帰ってこれるのだろうか。


 ハルちゃんズには常に私の中にいてもらうべきかもしれない。

シーちゃんにもノルンにも片時も側を離れないでいてもらうしかないかもしれない。

段々と怖くなってきた。

今更すぎる。

考えが足りなすぎる。

緊急事態を脱して気が緩んでいた。

ここでまた攫われたら洒落ならない。


 今、私の中に誰もいないのが不安になってくる。

ハルちゃんに、イロハに側にいて欲しい。

サナにラピスにナノハに離れて欲しくない。

チグサにルチアにアウラに手を握っていて欲しい。

クルルでもいい。

頼りないけど、気持ちを明るくしてくれるはずだ。

ミーシャでも……いや、ミーシャはいらないか。

なんか別のトラブル招きそうだし。


 私は我慢できずにイロハを抱き寄せた。

始めての経験に驚いているイロハだったが、抱き寄せ魔法の事は私の記憶で既に知っていたのか、嬉しそうに笑って抱きついてきた。


 この子の感情は歪だ。

私はこの子の怒りと憎しみまで奪い取った。

そう命令した。

けれど、認識や記憶まで奪ったわけではない。

あくまでも感情だけだ。


 私が全てを奪ったのだと正しく認識していながら、この子は私に惹かれている。

それが残酷な事でしか無くても、私はそうすると決めたのに、未だにこうして考えてしまう。

こんな考えも全部伝わってしまっているとわかってるのに。

それでも……



「いつまででもそうやって悩んでいると良いわ。

 それでアルカが落ち込んでも、私にとっては幸せな事よ。

 だって、その分だけ私の事を考えてくれるのだもの。

 だからこれからも悩み続けなさい。

 私の事を考え続けなさい。

 ずっと側にいてあげるから。

 愛してあげるから。

 命令通りにね」


「命令が無ければ愛してくれないの?」


「どっちだと思う?」


「どっちでも良いわ。

 そう思って命令したはずなのだもの」


「自分に言い聞かせてるの?」


「……改めて命令するわ。

 私を愛し続けなさい。

 何があっても私を捨ててはダメよ」


「ひどい人ね」


「よく言われるわ」


「愛してるわ。アルカ」


「始めて言ってくれたわね。嬉しいわ」


「ただの一人遊びかもしれないわよ?」


「どっちでもいいわ。

 あなたはもう私のものだもの」


「なら、もっと深くまで掌握してね。

 心の奥底から屈服させてみせて」


「熱烈なお誘いね」


『アルカすてい』

『イロハかえして』

『しごとちゅう』


「そう言えば、イロハは何をしていたの?」


「ダンジョンコアの研究よ。

 先輩としてハルにレクチャーしていたの」


『さすが』

『としのこう』


「ハル、後は自分でやりなさい」


「しかたない」

「さんにんで」

「きゅうけい」


「嫌よ。二人きりにして」


「ハルいれば」

「アルカねっと」

「きんきゅうめんて」


「これいじょう」

「じゃまものふえない」


「脅す気?」


「どっちでもいい」


「仕方ないわね。

 けれど、何れは乗っ取ってやるわ」


「やれるものなら」

「どうぞ」


「ハルちゃんとイロハも仲良くなったのね」


「まぶだち」


「冗談でしょ?」


「ほんき」


「私の感情がいじられているのはアルカに対してだけよ。

 ハルの事まで許したわけじゃないわ」


「くちだけ」

「もうじゅうぶん」

「ハルのこともすき」


「それに」

「めいれい」

「なくても」

「アルカだいすき」


「……そんなはず」


「ないの?

 やっぱり嫌々だったの?」


「……」


「かんねん」

「しょせんは」

「ハルのコピー」

「アルカすき」

「とうぜん」


「誰がコピーよ!」


「とにかく」

「はじめる」


「ほかのこ」

「のりこんでくる」

「じかんのもんだい」


「……そうね。アルカの発情は気付かれてるだろうし。

 わざとらしくアルカネットが閉じられているんだし」


 私はハルちゃんとイロハに押し倒された。

後から残りのハルちゃんズとシーちゃんも加わった。

ドサクサで紛れ込んできたミーシャはハルちゃんが摘み出した。

ミヤコ、コマチ、ノルンは最後まで来なかった。


 後で個別に対応するとしよう。

ミヤコとコマチとも親交を深める必要がある。

ノルンは性格的にいきなり乱痴気騒ぎは嫌だろうし。

始めては二人きりで過ごすとしよう。

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