27-13.長女
始めての世界間航行は何事もなく順調に続いていた。
「もう何日目なのです?
まだつかないのです?」
「おはようございます、サナ。
体感時間で残り一週間程の想定です」
「あれ?
サナ一人?
ラピスとクルルは置いてきてしまったの?」
「まだ寝てるのです。
最近のラピスはクルルの事ばっかりなのです」
どうやら、クルルを抱き締めて寝ているラピスでも見て嫉妬しているようだ。
サナ可愛い。
私はサナを抱き上げた。
「サナはお姉ちゃんなのでしょう?
ラピスに甘えてばかりで良いの?
いっそ、ラピスごとクルルの事も甘えさせてあげたら?」
「無茶言わないでほしいのです」
「私が練習台になってあげましょうか?
私が子供姿に変身して、サナは大人に変身するの。
それで思いっきり甘えてあげるわ。
自信がつくかもしれないわよ?」
「良いのです。
必要ないのです。
ボクはアルカに甘える方が好きなのです」
そのまま私に強く抱きついて顔を隠すサナ。
「ふふ。サナ可愛い」
「シーちゃん、引き続きお願いね」
「イエス!マスター!」
私はサナを抱いたまま、食堂に向かって歩き出す。
普段食堂を利用するのはほんの一握りだ。
元々フィリアスは飲食の必要がない。
私から供給されるエネルギーと空気中の魔力だけで生命活動を維持できる。
吸血鬼というより、精霊とか仙人みたいな存在だ。
更にこの船の中はフィリアスにとって快適な空間が常に維持されている。
サナ達すら毎日食事を取る事には興味がなかった。
たまに甘いものを食べる程度だ。
それにも大して執着しているわけではないけど。
今の所、毎日食事を取るフィリアスはハルちゃんだけだ。
ただ、そのハルちゃんも、ノアちゃんの料理にしか興味がないので、この船では食事を取らなくなってしまった。
まあ、そもそも肝心の食料が無尽蔵なわけじゃないので、悪いことばかりではないのだけど。
一応、家族全員が数年は生活できる程度に確保してあるけど、数千人のフィリアスが全員で興味を持ってしまったらあっという間に枯渇してしまう。
というか、収納空間に繋げられて良かった。
どういう理屈なのか、収納魔法には何の影響も無かった。
世界間航行は体感十日以上もかかるのに不思議だ。
一応説明を聞いてはみたけど、やっぱり理解出来なかった。
世界間は物理的な距離があるわけじゃないそうだ。
例え私達の体感で航行に何十日、何百日かかろうと、その期間は時間が経過しないらしい。
ミーシャの世界を出た直後に、ニクスの世界に到着する事になるそうだ。
うん。意味がわからない。
収納空間の物を出し入れしても、その物体の時間は進んでいないのが同じ理屈だそうだ。
なんかそれだけ聞けば納得できなくもない。
でもそれって逆じゃないの?
違うの?
そう……
やっぱりよくわからない。
ともかく、そんなわけで収納魔法が使える事に矛盾は無いらしい。
なら、私が収納魔法使って、ニクスの世界の近くに繋がる大きな空間の穴を開ければ良かったんじゃないの?
だから距離は関係ないって言ってるでしょって?
そうすか……
「アルカ、イロハはどうしているのですか?」
「まだ話せてないわ。
ずっと私の中で引き籠もっているのよ」
「引きずり出せばいいのです」
「まあ、良いじゃない。
気が済むまで一人にしてあげるわ。
必要ならハルちゃんが言うだろうし」
「甘すぎるのです。
嫌なことがあったのなら、一人で引き籠もってるより、皆で遊んでる方がマシなのです」
「まあ、サナの言い分もわかるけどさ」
「少しはクルルを見習うのです。
数十年も一人きりで王様ごっこしてても折れないメンタルを持つのです」
「え?
クルルってそんなに生きてたの!?」
「みたいです。
暇過ぎて城中の書物は読み尽くしたと言っていたのです」
「というか、サナそれ出来る自信ある?」
「……無理なのです」
「じゃあ、イロハにだって無茶を言ってはダメよ」
「はいなのです……」
「というか、メンタルはともかく結局一人じゃない。
普通の吸血鬼って皆で仲良くって感じではないのかしら」
「ないのです。
そもそも、普通はもっとプライドが高いのです。
ボク達はアルカっていう強大すぎる存在が身近にいるから特殊なのです。
今更自分が強いなんて思えないのです。
ともかく、普通は馴れ合いなんて好まないのです。
けれど、母様の寂しがりやの要素が強すぎて、結局少人数では固まって生きてきたのです。
とはいえ、多くの相手と関わる程積極的でも無いのです。
フィリアスに進化しても、この船の中でも、その部分はあまり変わらないのです。
数人毎に個室で集まって遊んでいるだけなのです。
この調子じゃ何れはこの船での生活にも飽きるのです」
「それは困ったわね……
まあ、そうでなくとも寿命が永遠にあるようなものなのだしね。
何か考えてみましょうか。
とりあえず、もっと皆で交流できるような場を用意してみましょう」
「協力するのです」
「ありがとう、サナ。
早速作戦会議でもしましょうか」
「皆を集めるのです!」




