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27-9.命令

「という事で、あの子達はハルちゃんと私の娘でもあるの。

 だから悪いようにはしないわ」


「何が娘よ!

 一方的に全て奪い取って何が悪いようにしないよ!

 自分の世界に帰りたいだけだからなんだってのよ!

 あんたらの事情なんか知らないわよ!」


 私の話を黙って聞いていたイロハだったが、遂に我慢しきれずに声を荒げた。

まあ、当然過ぎる反応なんだけど。

むしろよくここまで我慢して聞いていてくれたわね。

何の反応も無いし、聞き流してやり過ごすつもりなのかとも思ったけど、そんな事は無かった。

普通に全部聞いててくれた。

この状況でそんな対応出来るなんて、この子やっぱり良い子なのね。



「そうね。イロハの言う通りよ。

 あなた達には何の関係もない事よ。

 全ては私達の都合なの。

 私は一方的に略奪した侵略者よ。

 けれどそれでも、私はイロハ達と仲良くなりたいの」


「イロハ、イロハってなんなのよ!

 勝手に名付けてんじゃないわよ!」


「悪いけれど、あなたに限っては、例え元から名前があっても関係ないわ。

 あなたには全てを捨ててもらう。

 今のあなたはイロハよ。

 過去は全てこの世界に置いて行ってもらうわ」


「復讐のつもり?」


「いいえ。ケジメよ。

 私個人としては、イロハに何の恨みも無いし、別にイロハが悪いと思っているわけでもないわ。

 むしろ私の心情的にはイロハ寄りね。

 見たことの無い同族よりも、ハルちゃんの因子を持つあなたの方が大切だもの。

 けれどこれでも一応、私は人間だからね。

 私の家族とも人で在り続けるって約束してるから。

 だから、私があなたを手に入れるには必要なのよ。

 この程度で何がどうなるとも思ってないけれど、私の心情と家族への言い訳の為にね」


「……意味がわからないわ」



「まあ、一言で言うのなら自己満足なのよ。

 イロハにはそれに付き合ってもらうの。

 この決定にあなたの意思は関係ないわ。

 敗者は素直に従いなさい。

 私はあなた達に我儘を押し付けるわ。

 あなたの望みも、あなたのした事も聞くつもりは無い。

 魔物と人間の生存競争なんて大昔の話には興味が無いの。

 この世界の覇権争いで何があったかなんて知る気は無い。

 私と戦う為にあなたが何を失ったのかすら関係ない」


「だからイロハ、私はあなたに命令するわ。

 私を愛しなさい。

 私の側にいなさい。

 私への恨みと憎しみを飲み干しなさい。

 これからは私の為だけに存在しなさい。

 あなたはもう私の所有物なの。

 これなら魔物のあなたにもわかりやすい考えでしょう?

 観念しなさい」


 そして全てを忘れなさい。

契約の強制力に心を委ねなさい。

あなたの悲しみが少しでも癒えるのならきっと意味がある。

あなたは被害者で可哀想な子なの。

全てを失ったのは私のせいよ。

けれど、憎しみを抱かせてなんてあげないの。

私は酷い人間だから。

悲しみごと、憎しみを消し去ってしまうの。

わかりやすい悪役になんてなってあげないの。

自覚もさせてあげないわ。

今すぐには無理でもきっとそうなるわ。

これからは楽しい想い出だけを増やしてあげる。

悲しみも憎しみも魔法で消してから埋めて治してあげる。

そして全てを捨てて生まれ変わりなさい。



「……」


 そのままイロハは黙り込んでしまった。

私はイロハが口を開くの待ち続ける。

気を使って一人になんかさせてあげない。

私は何時だって自分勝手なんだもの。



「……従うわ」


 長い時間をかけて、イロハはようやくその一言を呟いた。



「そう。よかったわ。

 ハルちゃん、お願い」


「がってん」


 私が要件を言わずともハルちゃんは察してくれる。

ハルちゃんは黒い霧に変化すると、イロハを巻き込んで私に同化した。

やはり今なら可能だった。

命令が効いているのか、心が折れたのかはわからないけれど、イロハの抵抗力は弱まっている。

暫くはハルちゃんに任せるとしよう。

先程ある程度の事は言葉で説明したけれど、ハルちゃんからも一通りの情報共有をしてもらった方が確実だろうし。

何より、イロハには洗脳紛いの教育が必要だ。

いくら命令に強制力が働くからって、私への憎しみがすぐに消え去るわけではない。

とはいえ、未だハルちゃん以上に力を持っているイロハに、ハルちゃんの洗脳教育が通用するかどうかはわからないけど。


 イロハが協力的になってくれれば、ダンジョン掌握も早く進むかもしれない。

ダンジョンが消えれば、この世界の神も接触してくるかもしれない。

とにかく、一先ずは待つだけだ。



「マスター、皆さんの所へ案内します」


「お願い、シーちゃん」


「イエス!マスター!」


 私はシーちゃんについて船の中を歩き出す。

ラピス達なら場所の特定も出来るので、転移で向かっても良いのだけど、折角なら少しこの船の中も見て回るとしよう。

普通に興味もあるし。

何より、まだ暫くはここで暮らす事になりそうだし。

先日まではひたすら名付けと契約を行っていたため、船内を見て回る暇すら無かった。



「シーちゃん、これは何?」


「通信設備です。

 マスターは念話が使えるので必要ありませんね」


「へ~

 そういえば、この船ってどうやって作ったの?

 設計図とかもノルンが消してしまって無かったのよね?」


「はい。

 新たに設計、建造しました。

 とはいえ、技術自体は殆ど元の船と変わりありません。

 一部を除いて単純に広くしただけです」


「エンジンとか大丈夫なの?」


「はい。そちらは完全に新造品です。

 マスターの力をより効率よく利用できるようになっています」


「そっか~

 凄いわね~

 流石私のシーちゃんよ~」


 私は思考停止した。



「嬉しいです!マスター!」


 言葉通り、心底嬉しそうに答えるシーちゃん。

私は思わずシーちゃんを抱き上げる。

シーちゃんは私に抱きついて頬ずりしてくれた。

シーちゃん無邪気可愛い。


 そのままシーちゃんを抱えて歩き続けると、クルルが正面から駆けてきた。



「主!やっと来た!待ってたよ!」


 そのままの勢いで突撃して来たクルルを片手で受け止めて、シーちゃんと反対側の手で抱き上げる。



「おはよう、クルル。

 大人しく待っててくれたのね。

 ありがとう」


「そうだよ!だから一緒に遊ぼうよ!」


「クルルは何していたの?」


「えっとね!」


 クルルはラピスと仲良くなったようだ。

というより、ラピスが世話を焼いていたようだ。

サナとラピスと三人で遊んでいたらしい。


 他の子はどうしたのかしら。

ナノハとチグサ、ルチアとアウラが一緒にいるのはわかる。

ノルンはシーちゃんの分体と一緒にブリッジっぽい。

クルルには悪いけれど、遊ぶのは後回しだ。

全員回収して回るとしよう。


 先ずは打ち合わせがしたい。

この数日、色々と忙しくしていたから一度状況を整理しなければ。

ダンジョンの消滅の他にも出来ることが無いか、皆の意見も聞いておきたい。

それだけで神が出てくるとも限らないのだし、まだ少し時間もかかる。

ハルちゃんが頑張ってる間にも出来ることはしておきたい。


 私は残りのハルちゃんズを回収して、ノルンのいるブリッジに向かう事にした。

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