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27-6.主

 私は契約と進化の完了した全フィリアスと同化して、ダンジョンコアのある地へと降り立った。

隣にはシーちゃんが浮いている。

ノルンはシーちゃんの船でお留守番だ。

戦うつもりは無いようだし。

今回のボス戦では私を守る必要があるとも思っていないようだ。


 私は最初は全フィリアスと同化は拒絶したのだけど、ハルちゃんが問題ないからやれと言うので仕方なく受け入れた。

ハルちゃんの言う通り、想像以上に影響は出なかった。


 数千人単位で話しかけてくるとかもなく、私の心は静かなままだ。

なんだったら何時も以上に静かだ。

ハルちゃんズとルチア、アウラは私の中のフィリアス達の制御にかかりきりのようだ。

お陰で私には何の影響も出ていない。


 とはいえ、流石に七人で数千人を管理するのは無理があるだろう。

幹部候補の教育を急がねば。

幸い、契約の影響なのか私に敵対的な子は存在しなかった。

いや、それはそれでどうなのよ……

隷属契約だから当然なのかもだけど……

私は別に術で洗脳したいわけじゃないんだけど。



『そんなこうかない』

『なんぜんにんでも』

『もとはハル』

『アルカのこと』

『すきになってとうぜん』


『ハルちゃん!』


 愛が重いわ!

と言うか、もう良いの?

忙しいんじゃなかったの?



『もんだいない』

『あさめしまえ』


『ママの処理能力おかしいわ!

 一人で半分以上受け持ってるのに!』


『ラピスもいがいと』

『よゆうある?』


『もう無理よ!』


 そう言ってラピスはまた静かになってしまった。

どうやら、自分の作業に戻ったらしい。

他の子達は話しかけてこないのを見る限り、ラピス以上に余裕がないようだ。

一体何してるの?

本当に新しいフィリアス達を大人しくさせてるだけなの?

というか、私の力が増すのは良いけど、それじゃ戦闘の補助は出来なくない?


『しんぱいない』

『ハルとシイナ』

『じゅうぶん』


『しんじんは』

『きょういくちゅう』

『きそちしき』

『いんすとーる』


 何時もの詰め込み教育(物理)?



『アルカのなか』

『やりやすい』

『いいきかい』


 さようで。

まさか、自ら業務を増やしているとは思わなかったわ。

しかも、ラピスの様子からするなら、ハルちゃんズの教育も兼ねてそうね。

その上、自分が一番負担してるっぽいし。

なんか色々、凄いわねハルちゃん。



『ふへ』


 それはそうと、もうルチアとアウラももうハルちゃんズで良いわよね。

サナ達と同様に私のお嫁さんにもなったわけだし。



『クルルも』

『くわえる』

『みどころある』


『そうなの?

 そんなに賢そうでは無かったけど』


『しんぱいない』

『きょういく』

『すればいい』


『それより』

『こころつよい』


『そこは』

『こじんさ』


 なるほど……


 というか、ハルちゃんズって能力制じゃないわよ?

私の専属かどうかだった筈よ?

ルチア、アウラ、スミレを含まなかったのはそういう意味だったのだし。



『だから』

『そういってる』


『クルル』

『よめにくわえる』


 言ってないわよ?

素質の事しか言及してないわよ?



『けってい』

『いろんみとめない』


『強引ね……

 ハルちゃん、そんなにクルルの事気に入ったの?

 むしろ、ハルちゃんが欲しいのよね?』


『ハルのもの』

『アルカのもの』


『アルカのもの』

『ハルのもの』


『まあそうなんだけど。

 わかったわ。口説いてあげる』


『うむ』


 満足そうね……

ならもう、クルルの事はハルちゃんズとして扱いましょう。

ハルちゃんズは私のお嫁さん?恋人以上?

まあ、そっちは別に厳密に決めなくてもいいか。

ルチアとアウラは戻ればノアちゃん達と暮らすのだろうし。


 ハルちゃんとの脳内会議に耽っている間に、ダンジョンコアの存在する間に到達した。

道中、誰とも遭遇する事は無かった。

何故なのかしら。

少し前に確認した時はそれなりの数がいた筈なのだけど。



『ボス』

『じぶんいがい』

『コアにとりこんだ』

『ちからにかえた』


 コアの前には一人の少女が立っていた。

なるほど。この子も私の真似をしたのか。

手段は全く違うけれど、コアの主としてダンジョン内、すなわちこの場所に残った吸血鬼達を力に還元したのだ。

そうして、コアから力を引き出した。

私達に立ち向かうために。



『きぶんよくない』

『じぶんでうみだしたのに』

『じぶんでころした』


『けど』

『こっちも』

『はでにやりすぎた』


『しかたない』


 そう……

この子はどうするの?



『……たおす』


『そうね……

 なんか話を出来そうな雰囲気でもないし』


 コアを守る少女は強烈な敵意を放っていた。

まあ、当然よね。

この子からしたら私は異世界からの侵略者だもの。

自分の創り上げた理想の世界を侵食して奪い取るのだもの。

最後に残されたコアを奪い取りに来たのは明白だもの。


 この子は優しい子なのかもしれない。

私がこの場に近づくまで、仲間達をダンジョンに取り込ませたりはしなかった。

少し前まではこの子以外の気配も感じていた。

きっとギリギリまで決断出来なかったのだろう。

それでも、コアが無くなればこの子達は生きられない。

コアさえ残っているのならまた生み出せる。

ならば、何としても守り抜くしかない。

例え、新しく産み出す子達に自分との想い出が無くたって。



 この子は私がしている事を知らなかったのかもしれない。

私が奪ったこの世界の吸血鬼たちがまだ生きていると知らないのかもしれない。

ただ、大きな力を持った何者かが世界中の吸血鬼達を消して回ったとしか思っていないのかもしれない。


 伝えるべきだろうか。

この子は仲間をその手にかけた。

直接的では無くとも、コアに取り込むとはそういう事だ。


 消えた仲間達がまだ生きていて、この子や、側にいた子達も私の傘下に加われば全員が生きていられたのだと知ったら、この子はどう思うのだろうか。

不必要に命を奪ったのだと後悔するのではないだろうか。

しかもそれが自らの側に置いていた子達だ。


 何も教えずに倒してあげるべきかもしれない。


 近づく前に、決断する前に教えてあげるべきだった。

私達は命まで奪うつもりは無いのだと知らせてあげるべきだった。


 そんな風に今更ながらに悩んでしまい踏み込めない私に、眼の前の少女は眉をひそめる。



「どういうつもり?

 なんで敵意すらないの?

 散々私の仲間たちを奪っておいて一体何なの?

 遊んでいるつもりなの?」


「いいえ。私の目的はこのダンジョンの消滅よ。

 あなたと戦うのが目的ではないだけなの」


「同じことよ。

 ダンジョンが消えれば私も消えるわ」


「そうではないわ。

 ……少しだけ話を」

『アルカ』

『ダメ』

『それはひどすぎる』


 そうね……


 言葉を止めた私に、もう話す事は無いと少女が力を放った。

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