27-5.世界征服
私は再びシーちゃんの船に戻ってきた。
いつの間にか再構築してくれたのだ。
というか、既に中にはこの都市中の吸血鬼達が収監されている。
それはそうと、なんかこの船前のより大きくない?
差分の質量はどこから来たの?
この世界の物質使っちゃったの?
大丈夫?この世界の神に怒られない?
「今後の乗客規模を想定し、相応しい姿に更新しました。
お気に召しませんか?」
「いえ、そんな事無いわ。少し驚いただけよ。
ありがとう、シーちゃん。
この船もカッコいいわ」
「嬉しいです!マスター!」
この世界に来てからも殆ど落ち着いていたシーちゃんが、私の言葉に今朝までの様に楽しげな返事を返してくれた。
私はシーちゃんの笑顔を見て心底安堵する。
シーちゃんは生まれ変わったばかりだ。
だというのに、直後にこんな事態に巻き込まれてしまい、碌なケアも出来なかった。
もしかしたら精神に大きな影響でも与えてしまっているのかもと思い始めた矢先に、まるで私の不安を汲み取ったかの様なタイミングの良さで、シーちゃんは笑いかけてくれた。
まあ、本当に私の気持ちは伝わっているのかもしれない。
私とシーちゃんのパスの感情の部分だけは、ハルちゃんに止められているはずだけど、アルカネットとやらには私の思考が筒抜けらしいし。
シーちゃんもアルカネットを利用しているのかもしれない。
別に構わないけれど、それはそれで影響が大きそうだ。
あまり妙な情報を見せないようにして欲しい。
子供を守る視聴設定とか必要かしら。
いずれはリヴィも利用するなら考えておきましょう。
『今更すぎるのです。
毎晩寝室も一緒にしておいて気にする事じゃないのです』
おかしいわね。
サナの言葉だけ聞けば普通に一緒に寝てるだけなのに。
『すっとぼけるなです!
でもボクも参加するのです!』
サナにもセーフティーが必要かしら。
『止めるのです!必要ないのです!』
「マスター!こちらへ!」
「は~い」
私はシーちゃんに案内されて船内の大部屋に移動する。
そこでは大量の幼女が思い思いに遊んでいた。
幼稚園なの?
いや、流石にそこまで幼いわけじゃないけど。
けれど、雰囲気がそっちだ。
精神年齢は低そうだ。
ほぼ全員がシーちゃんの用意した遊具に夢中だ。
いきなり拉致された現状を正しく認識して、隅っこで震えている子もいなくはないけれど。
というか、あの短時間で街中の吸血鬼っ娘達を全員集めてしまったようだ。
町の方からはもう気配を感じない。
とはいえ、後で念の為探知魔法も使っておくとしよう。
『もうかくにんした』
『ここにいるのでぜんぶ』
『はやくけいやく』
『すませる』
『つぎのまち』
『いそぐ』
「そうね。
世界中を回る必要がありそうだものね。
急ぎましょう」
私は別室に移動し、シーちゃんが連れ出して来た警戒心の低い子から、次々に名付けと契約を行っていく。
契約が済んだ子はやはり、進化の影響で苦しみだした。
シーちゃんはそんな子達を更にどこかへと連れていく。
どうやら医務室があるそうだ。
医療ポットに入れておけば心配ないと言う。
ド◯ゴン◯ール的なやつなの?
まあ、後の事はシーちゃんに任せるとしよう。
というか、あれ?
シーちゃん二人いない?
複製体?なにそれ大丈夫なの?
頭脳は一つだから大丈夫?
そういう問題?
人化して、より人間離れしたなんて何だかあべこべだ。
新生フィリアスのメンバーに何れは乗組員の役目も果たしてもらおう。
何人かは見どころのある子もいたし。
細かい事は契約と進化に適応して落ち着いてから改めて考えよう。
結局、あの町の全員と問答無用で契約を済ませた。
私が名付けに四苦八苦している間に、次の街に到着して次の被害者達を拉致してきたシーちゃん。
そんな調子で、この世界の時間で数日かけて、世界中を巡って吸血鬼っ娘達を集めていった。
いや、ここまでする必要ある?
世界中とは思ったけど、ここまで根絶やしにするつもりだとは思わなかったわ。
もう真っ直ぐ、コアの方に向かわない?
既に場所はわかってるんでしょ?
『ダンジョンボス』
『やばい』
『まだまだ』
『ねんいりに』
「そんなに?
ノルンと契約した私と比べてもなの?」
『ひってきする』
『かも』
「かも?」
『アルカ』
『つよくなりすぎた』
『じょうげん』
『わかんない』
「ハルちゃんでもなの?
ハルちゃんは私に一番近い存在でしょ?」
『アルカ』
『じぶんでも』
『わかってない』
「まあ、そうなんだけど」
『おなじこと』
『ハルも』
『わかんない』
「ならとっくに上回ってるんじゃないの?
何なら最初からかもよ?
それに、たかだか数千人の吸血鬼と契約したくらいで、ノルンとの契約に匹敵するとも思えないのだけど」
『ちりもつもれば』
『けど』
『それだけじゃない』
『われにひさくあり』
さいでっか。
「マスター、集中して下さい。
まだまだ残っています」
「流石にもう、名前なんて出てこないわ……」
「マスターの記憶から候補を選出しました。
こちらは既に名付け済みのものです。
ご確認を」
私の眼の前に突如空中に浮かぶタブレットの様な物が二枚出現し、名前の一覧が表示される。
片方はまだ使っていない名前で、もう片方は既に使用した名前だ。
未使用の方はタップすると名前の由来や意味が表示される。
使用済みの方はそれに加えて、対象のプロフィールが顔写真と全身写真付きで表示された。
何時撮ったのかしら?
というか、凄いわね。
これシーちゃんがまとめたの?
優秀な秘書さんだわ。
『むむ』
『ライバルしゅつげん』
『しょうじんする』
対抗意識を燃やすハルちゃん。
ハルちゃんは秘書っていうより、悪友とかの方が近くない?
別に私は悪巧みしてるつもりは無いけど結果的に。
『あるじ!ラピスは!』
普通に娘じゃダメ?
『なにか役職が欲しいわ!
秘密組織みたいで楽しそうじゃない!』
宇宙戦艦と数千人の乗組員を要する組織は、果たして秘密と呼べるのだろうか。
『じゃあ、皆で考えましょう。
あなた達は今日からこの一団の幹部よ』
『嬉しいわ!』
そう?
私は名付けと契約の儀を再開した。
更に数日かけて、遂にこの世界の吸血姫達を集めきった。




