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27-3.陥落

 私はシーちゃんに言われて、ノルンを抱き締めて飛行魔法を使用する。


 シーちゃんは自身に翼を生やしてから、船をナノマシンに分解して体内に取り込んだ。

質量どうなってるの?


『それは』



 ごめん、説明しなくて良いわ、ハルちゃん。

聞いてもわからないし。


『うむむ』



 ノルンを抱えた私とシーちゃんは、そのまま都市の中央にある城のバルコニーに降り立った。

今のところ近づいてくる者はいない。

どうやら、殆どの子が怯えているようだ。

悲しい……


 改めて覚視と探知魔法で周囲を探ってみるが、吸血鬼たちの気配しかみつけられない。

本当にこの都市には人間が存在しないらしい。


 食事はどうしているのだろうか。

私との繋がりがあるわけでもないし、種族的には吸血鬼のままのはずだ。

ダンジョンから出た以上は、生きるために何らかの補給手段は必要なはずだろう。


 ハルちゃんを元にしたからって、フィリアスの完全再現ができるわけじゃない。

少なくとも、ルチア、アウラ、スミレはそうだった。


 あくまでも神力に抵抗を持つ吸血鬼を生み出せるだけだ。

技能や身体能力等は近づけられるけれど、そこまでだ。

完全なフィリアスに進化するには、私と契約して神獣化する必要がある。


 この町にフィリアスの気配は感じない。

一番強い存在も、あくまでもフィリアスに近いだけだ。

これは正確には吸血鬼の気配だ。


 私達は一番強い気配に向かって歩き出す。

道中も近づいてくる者は誰もいなかった。

兵士とかいないのかしら。

そもそも、そこまで纏まっている気配は感じないのよね。


 精々、居ても二、三人だ。

殆どが少数で行動しているっぽい。

城にいる子が多いみたいだけど、町中にも広がっている。

とはいえ、本来の町の人数には程遠いけど。

精々いても数百人だろう。

いやまあ、数百人のダンジョンボスって聞いたら多すぎるけど。


 占拠したとはいえ、人間の文化を模倣しているわけではないらしい。

あくまでも住処として利用しているだけのようだ。


 この城の主は玉座の間で待ち構えていた。

どうやら逃げ出さなかったらしい。

まるでどっかの魔王みたいな衣装を身にまとっている。

容姿も大人の姿だ。



「無礼な客人じゃのう。

 我の前にこうも無遠慮に乗り込んでくるとは」


「突然押しかけてごめんなさい。

 ちょっと話を聞きたいのだけどいいかしら」


「よかろう。

 何でも聞くが良い。

 そして満足したなら疾く失せよ」


「ごめんね、用事が済んだら御暇するわ。

 何時までも怖がらせるつもりなんてないの」


「怖がっているだと?

 余が臆病者だと申すのか?」


 我なのか余なのかどっちかにしない?

早くもキャラ設定がブレ始めてるわよ?



「気に触ったのなら謝るわ。

 ただ、私の力は皆を怯えさせてしまうと思っただけなの。

 あなた程の力があれば私の事もある程度わかるでしょ?

 だから少し感心しているのよ。

 こうして会話できるだけでも凄い勇気だわ」


「なんじゃと?」


 魔王様(仮)の口調からは怒りが滲み出している。

まだ許してくれていないのかしら。

折角この子なら冷静に話ができるかとも思ったのだけど。



「ごめんなさい。

 敵対する気は無いわ。

 少なくとも、今のあなたは私の敵じゃない。

 いえ、もしかしたらいつかはあなたも敵になるのかもしれないけれど、まだそんな必要無いの」


 何せこの世界の神の目的はまだちゃんと聞いていない。

一応、ノルンが言うにはこの世界の内部の問題に対抗する為に私は呼ばれたらしいけれど、それがダンジョンの事だとは明言していない。

そこから発展したなにかである可能性もまだ残されている。

ノルンの口ぶりはそんなヒントにも聞こえた。


 ならば無闇矢鱈に始末して回るわけにもいかない。

一度来た以上は転移でまた何時でも戻ってこれるのだし、この世界の神の目的を確認してからでも遅くはない。


 とはいえ、ダンジョンから出た魔物達を退治しろって話になる可能性はそれなりに高いだろう。

今はまだこの子とも敵対するつもりは無いけど、何れはそうなるかもしれない。


 そんなつもりで話したのだけど、何故か魔王様(仮)はブチギレた。



「貴様ぁ!

 舐めたこと言うのも大概にするのじゃ!!

 ちょっとくらい強いからって!

 われの事馬鹿にしてるんでしょ!!

 もう怒った!!!」


 口調がメチャクチャだ。

頭にきすぎてメッキが剥がれてしまったらしい。



「落ち着いて。

 どうして怒ってるの?

 魔物なんだから私に勝てないのはわかるでしょ?

 今なら何もしないから、落ち着いて冷静に話しましょう」


『煽りすぎよ!あるじ!』


「もう本当にゆるさん!!」


 私に向かって飛びかかってくる魔王様(仮)。

棒立ちの私に次々と拳と魔法を放ってくる。


 仕方が無い。

満足するまで付き合ってあげるか。

そう思って、私は暫くそのまま好きにさせてみた。

この子じゃ私の防御抜けないだろうし。



『えぐいわ~』


『付き合ってないのです。

 単に相手にもしてないだけなのです』


『『性格悪すぎるでしょ』』


『なんでよ……』



「びええええん!!!!」


 そんな調子で暫くの間私をサンドバックにしていたが、攻撃がやんだと思った途端、突然その場に座り込んで泣き出す魔王様(仮)。

何故かその姿は子供に変化していた。

まあ、変身が解けたのだろう。

そっちは予想出来てたわ。


 まだ時間かかるのかしら……

時間の速さのズレの問題は解決したけど、別にゆっくりしたいわけじゃないのに。

もうこの子は放っておいて他の町目指してみようかな。

今更確認も何も無いだろうし。


 今この子が使った魔法はどれもこれも見覚えがある。

ハルちゃんがベースなのは間違いない。

結果的に会話で聞き出すより、遥かに多くの情報を得られたのだし良しとしてしまおう。



『ダメ』

『けいやく』

『する』


「え?

 この子も欲しいの?」


『まちのこ』

『ぜんいん』


「冗談でしょ?

 流石に多すぎるわ。

 連れて帰れないでしょ?」


『なにいってる?』

『どうかすればひとり』

『もんだいない』


「流石に嫌よ。

 この町だけでも数百人はいるじゃない。

 そんなに同化したら混乱してしまうわ」


『うむむ』


「あきらめたら?」


『でも』

『もんだいない』

『このせかいのかみ』

『せきにんとらせる』


「どっちかと言うと私達が責任取らされてるんだけど」


『シイナのふね』

『せかいかん』

『こうこう』

『かのう』


「あれ?もしかして自力で帰れる?」


『きけん』

『じくうのまいご』


「それは嫌ね。

 やっぱり神に帰してもらうしか無いのね」


『あんないだけ』

『させる』


『きかんは』

『しいなのふね』


『それなら』

『ぜんいんつれて』

『いけるはず』


「そうなの?」


「可能か不可能かで言えば可能よ」


「問題点は?」


「無視できる範疇よ」


「もう一度聞くわ。問題点は?」


「こはるのファンが増えそう」


「つまり余所の神に目を付けられるのね?」


「今更だし時間の問題でもあるわ」


「だからその問題は無視してしまえと?」


「ええ。

 むしろ、こはるの力が増せば対抗手段になるし、世界間航行の経験は今後の為にも役立つと思うわ」


「まだ何度も繰り返す事になるのね……

 まあ良いわ。

 ノルンまで賛成しているなら覚悟を決めましょう。

 ノアちゃんとセレネになんて謝ろうかしら……」


『カノンもおこる』


「そうね……

 やっぱり無しにしない?」


『ダメ』

『ひつよう』


「何のために?」


『ないしょ』


「悪いことはダメよ」


『だいじょうぶ』


「そう」


「ひっぐえっぐ」


「ほら泣かないで。

 あなたこの国の王様なのでしょう?

 皆に格好悪い所を見せていいの?」


「ひっぐ。

 いいんだもん……

 えっぐ。

 だっでぇ!

 ひっぐ。

 誰も付き合って、えっぐ。

 くれないもん!」


「え?

 一人で王様ごっこしてたの?」


「ごっこじゃないもん!

 たみがいないだけだもん!」


「でもあなた、この辺りで一番強いでしょ?

 皆従ってくれないの?」


「力で支配するなんて可哀想でしょ!」


「あなた、可愛いわね。

 名前は?」


『『早速口説き始めたわね』』


「なまえ?」


「無いの?

 付けて良い?」


「なんで?」


「あなたの事が欲しくなったから。

 私のものになってもらうわ」


「なにいってるのぉ……

 こわいよぉ……

 うわあああん!!」


 再び泣き出す魔王様(仮)。

すっかり心が折れてしまったらしい。


『もう』

『どういいらない』

『さっさとなまえつける』


「ハルちゃん、面倒くさくなってない?」


『さんびゃくごじゅうはちにん』

『まだいる』

『じかんかかる』


『はやくする』

『ゆうはんまでにかえる』


「流石にそんなに名前思いつかないわよ……」

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