26-35.誕生
「ニクス、どう?」
私は目を覚まさないシーちゃんに寄り添って観察しながら、直ぐ側のベット脇に立つニクスに問いかける。
「うん……問題は解決したよ」
「なにか気になってる?」
「自分でもわかってるでしょ?
何でパスまで繋いじゃったの?」
「それは意図した事じゃないの。
私はただ、シーちゃんの心を望んだだけ」
「やりすぎたね。
ハル、私の時と同じ様に感情の部分だけ閉じておいてね」
『がってん』
「隷属契約とは違うわね。
けれど、同じ様に力は流れているみたい。
というか、契約以上の繋がりを感じるわ」
「今のシイナには命がある。
この世界の法則で見ても一つの生命体だ。
この魂はどこからきたんだろう……」
『アルカ』
『きりわけた』
「え?」
「ああ、それで。
パスの原因もそこにあるんだね。
アルカの方の問題は?」
『ない』
『けずれたわけじゃない』
「切り分けたんじゃないの?
なのに私の魂に損傷はないの?」
『うまくせつめいできない』
「出来ても説明しちゃだめだよ。
ハルが知っているからって、これはダメだ。
物事には限度がある」
『ニクス』
『りかいしてる?』
「まあね。
もちろん、私も説明する気はないけど」
「その程度のやり取りでわかるのなら、事前にこの手段も思いついたんじゃないの?」
「馬鹿なこと言わないでよ。
理解できるからって実現できるわけじゃないよ。
誰にも出来ない事提案したって意味ないでしょ」
「ごめん……」
「まあ、アルカは実現したわけだけど。
やっぱり能力の方も書き換わってるね。
どうしようかな……」
「また元に戻す?」
「本当はそうしたいけど、暫くはそのままでいいや。
こんな事をしでかした以上、面倒なのに目をつけられたかもしれないし」
「それは……」
「大丈夫。
想像以上だけど想定内ではあるから。
アルカの事は私が守り抜くよ」
「ありがとう。ニクス。
私も自衛できるように鍛錬に励むわ」
「そうです。
ノルンとの契約でも力が増しているんですから、ちゃんと使いこなせる様になって下さい」
「私もまた参加するわ。
ルネルさんもいるなら勉強になるだろうし」
「セレネも参加するなら、久しぶりに三人で転がされるのも良いわね」
「良くないです。もっと向上心を持って下さい」
「そうよ。
ノアとアルカは前衛として私を守り抜きなさい」
「私は別に前衛ってわけじゃ……」
「今更何を言っているんですか?
アルカの能力なら拘る必要は無いでしょう?」
「まあ、そうなんだけど」
「小春、今はシイナちゃんの事を気にしなさい。
どうせ診察はハル達に任せきりなのでしょう?
自分でもちゃんと確認しなさい」
「そうね」
私は眠り続けるシーちゃんに意識を向ける。
お姉ちゃんの言う通り、私達が話している間も、フィリアスは私の中からシーちゃんの体を観察し続けてくれていた。
私も魔法と覚視でシーちゃんの体を念入りに確認していく。
「あれ?
頭の中の機械無くなってない?」
『きづくのおそい』
「ごめん……」
『それにかんがえあさい』
『なくなったちがう』
『いまのシイナ』
『ぜんしんナノマシン』
「え!?」
『こうせいようそ』
『にんげん』
『なまみかわらない』
『けど』
『せいたいナノマシン』
『みたい』
「つまり?」
『からだバラバラ』
『できる』
『ぐんたい』
『みたいな』
『つくりかえ』
『じゆうじざい』
『たぶん』
『ふねのせつび』
『おなじ』
「ハルちゃんの黒い霧みたいな感じ?」
『みためは』
『そう』
『しくみは』
『ぜんぜんちがう』
『けど』
「何でそうなったのかしら」
『ふめい』
「まあ、それはそうよね。
相変わらず魔法の内容も意味不明だし。
この魔法ってもしかして理論だけの問題じゃなくて、認識阻害みたいなのかかってない?
いくら何でも読み解けなさ過ぎるわ」
「よく気付いたね。
それも安全装置の一環だね。
アルカを守るために必要なんだよ。
まあ、ハルはとっくに気付いていただろうけど」
『そのはなしあと』
『いまはシイナ』
『とりあえず』
『いままでと』
『かんぜんにべつ』
『ちがういきもの』
『あたらしい』
『せいぶつ』
「……名前何にする?
ニクス、名付けてよ。
神様が新しい種族として定義すればご利益ありそうだし。
フィリアスの時みたいに良い感じのお願い」
「必要ある?
唯一無二の存在だよ?
どうせ子孫を残す気もないんでしょ?
まあ、そもそもそんなの認めないけど」
「じゃあ、フィリアスに加えるって事で良いかしら。
これからは私の娘にしましょう。
この世界の存在として転生させたようなものだし」
「それはそれでどうなの?」
「なら何か考えましょう」
「そんな事より、シイナの心配して」
「もちろん、心配してるわよ。
けれど、私の技術じゃ普通の人間との違いなんてわからないわ。
覚視も魔法も使ってるんだけど……」
『しゅうちゅう』
「は~い」
シーちゃんが目を覚ましたのはそれから数時間後だった。
その間、ニクス達も帰らずに見守り続けてくれていた。




