表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

554/1373

26-34.執着

「シーちゃん、覚悟は良い?」


「はい……お願いします。マスター」


 私はシーちゃんをベットに寝かせる。

不安げに見上げてくるシーちゃんを安心させようと、意識して優しく微笑みかける。

そんな私にシーちゃんも少しだけぎこちない微笑みを返してくれる。


 暫くの間、私はシーちゃんと二人きりで過ごした。

ルチアとアウラは私達がくっつくまで部屋から出してくれなかったのだ。


 そして、遂にその時が来た。

シーちゃんは未だ幼い。

実年齢はともかく、殆どの記憶がない。

まっさらで純粋だ。


 シーちゃんから私を愛してくれるのはまだ難しい。

シーちゃんは道具として生まれたが故に、持ち主を求めただけだ。

シーちゃんは私に抱き締められた事で、初めての肉体的な接触に夢中になった。

キスもその延長でしかない。

愛を理解しているわけじゃない。

恋をしているわけじゃない。


 とはいえ、シーちゃんへ魔法をかけるには、私がシーちゃんを愛すれば済むはずだった。

少なくとも、最初はそう思っていた。


 けれどそれでは、ただの愛ではダメだ。

私はシーちゃんとお互いに愛し合う必要があるのかとも思った。

そうでなければ、私の気持ちはこれ以上強くならないのではないかと思っていた。

純粋すぎるシーちゃんに一方的な想いをぶつけるのは憚られたからだ。

そうやって自分の想いにブレーキをかけていたからだ。


 けれど、そうではなかった。

そもそも、愛するだけでは足りなかった。

ノアちゃんやセレネ、ニクスへ向けるような強烈な執着でなければならなかった。


 そう。執着だ。

たぶん、愛じゃない。

私の一番強い、能力を暴走させる程の原動力は執着心だ。

愛よりももっとずっと強烈な欲望だ。

私はまだ勘違いしていたのだ。


 なんとしてもシーちゃんを手放したくない。

何があっても守り抜く。

その程度の覚悟と想いはとっくに十分だった。


 だから違う。

足りていないものはそうじゃない。

シーちゃんを自分のものとする。

その執着心が足りていなかった。


 初めて抱き寄せ魔法を創り出した時は、嫌がるノアちゃんの気持ちを無視して無理やり抱き寄せたのだ。

ノアちゃん自身の気持ちなんて二の次だった。

私がノアちゃんを手放したくない、失いたくないという気持ちが魔法を創り出したのだ。

あの時は恋なんて考えてもいなかった。

けれど、ノアちゃんの心が私に向いている事はわかっていた。

ただ、母娘の気持ちだと思っていただけだ。

だから、必要なのは体だけだった。

気持ちを無視して奪い取る為の力だった。


 ニクスの時は、純粋な愛ですらなかった。

怒りと憎しみが混ざった不純物塗れの愛だった。

故にこそ、何ものよりも強い強烈な執着心だった。

だからこそ、能力を作り変えてまでこの世界の法則を超える結果を引き寄せた。

あの時はそうしてニクスの隣に辿り着いた。


 それに気が付いた私はシーちゃんを押し倒した。

今のシーちゃんとは、まだ愛し合う必要なんてない。

私はシーちゃんを本当の意味で手に入れる。

今の私に必要なのは一方的な執着心だ。

シーちゃんは私のものだと思い込む事だ。

シーちゃんの心を手に入れるのは次のステップだ。


 ならばするのは蹂躙だ。

自分の気持ちを高めるだけだ。

どこか感じていた遠慮を無くしてしまおう。

シーちゃんの純粋さに対する引け目を振り払おう。

きっとそれで、私の気持ちは固まってくれる。

自分のだと思ってしまえば、強い執着心も勝手に生まれる。

私はそう考えた。


 私の異変に気付いたフィリアスが部屋に乗り込んできた。

私は折角だからと全員纏めて相手にする事にした。

何故か二人きりで閉じ込められてしまったけれど、元々そういう話だったのだし。


 チグサはあっさり受け入れた。

ルチアとアウラは戸惑っていた。

ナノハは喜んだ。

サナは嫌がった。

ハルちゃんとラピスは参加しなかった。


 シーちゃんは最初、怖がっていた様にも見えた。

けれど、そんな印象は気の所為だったのかと思う程、すぐに楽しみだした。

中途半端な恐怖は快楽の衝撃の前に簡単に消え去ったようだ。

私の豹変に恐怖はしても、道具としては拒めなかったのかもしれない。

もしくは、感情を平静に保つ為の、機械的な制御とか安全装置とかでも付いていたのかもしれない。


 そうして、更に何日も過ごした。

シーちゃんとフィリアスには指輪だけでなく首輪もつけた。


 その間、シーちゃんは少しずつ成長していった。

もしかしたら、日々の触れ合いと刺激で本当の感情が芽生え始めたのかもしれない。

ハルちゃん達が色々教え込んでいたのもあるかもしれない。

けれどまだまだ足りない。

ぱっと見では人間と変わらなくても、真に私を愛してくれているとは思えない。


 今私の眼の前でベットに横たわるシーちゃんは微かに怯えている。

私の覚悟が、気迫が恐怖を呼び起こしたのだろうか。

それとも、これから自分が作り変えられる事をようやく理解したのだろうか。

ともかく、以前試そうとした時には見られなかった反応だ。

もしかしたら、このまま何もしなくても完全な心が芽生えるのかもしれない。

私を愛してくれるのかもしれない。


 もしかしたら、命と魂を手に入れればすぐにでも大きな変化があるのかもしれない。

機械による思考と感情には限界でもあるのかもしれない。

擬似的な魂では実感できない事もあるのかもしれない。


 もしかしたら、魔法をかけても心は変わらないかもしれない。

単純に、知識と経験が足りていないだけなのかもしれない。

まあ、試してみればわかる事だ。


 私はノアちゃん、セレネ、ニクス、ノルン、お姉ちゃんが見守る中で意識を集中する。

私の中でフィリアスも協力してくれる。


 今回選別する感情は前回とは大きく違う。

ここ数日で育てたシーちゃんへの執着心を高めて、負い目を消していく。

シーちゃんが生きているとか、生きていないとかはどうでもいい。

そんな無駄な事は考えない。

本当の意味でシーちゃんが欲しい。

その一心で魔法を組み上げていく。


 今の私はシーちゃんの心が欲しい。

本当の意味で手に入れるとはそういう事だ。

シーちゃんはもう私のものだ。

けれどまだ足りない。全然足りていない。

シーちゃんはまだ私の事を愛していない。

恋をしてくれていない。

今のシーちゃんでは心から理解できない。

そもそも心が、魂が無いのだから。


 最初は一方的に手に入れた。

自分のものと思い込む為に蹂躙した。

けれどそれだけでは満足できない。

この数日、そう自分の気持ちを誘導してきた。

今この時の為に高め続けてきた。

思い込んできた。


 シーちゃんに心から愛して欲しい。

その為にはシーちゃんに本当の心が必要だ。

シーちゃんを救いたいだとかすら、今はもうどうでもいい。

そんな事は考えるまでも無く当たり前の事だ。

必要なのはその先だ。


 私はシーちゃんの全てを手に入れる。

シーちゃんが持っていないものが欲しいなら与えるだけだ。

矛盾していようが関係ない。

私には無茶を通す力がある。

そうとだけ想い続ける。


そうして、魔法を発動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ