26-22.天秤
目覚めてから数日後、ようやく私は完全復活を果たした。
正確にはもう何日か前に復活したのだけど、色々お叱りとお仕置きと一通りの禊を終えるのにここまでかかってしまったのだ。
主にセレネからのお仕置きに大半の時間を費やした。
「シーちゃん!久しぶり!」
「マスター!」
私はまず最初にシーちゃんに会いに来た。
久しぶりの再開に涙しながら抱き合う。
いやまあ、通信機越しに話しはしてたんだけど。
ともかく久しぶりの触れ合いだ。
少しくらい大げさでも構うまい。
フィリアス全員集合のせいでラピスもチグサも一緒に居られず、寂しい想いをさせてしまっただろうし。
その間、一応グリアが泊まり込んでいてくれたらしい。
グリアは研究に熱中して禄に相手していないとかいう事もなく、なんか普通にシーちゃんと仲良くなっていた。
なんだかんだ面倒見が良いものね。
セレネも昔からよく懐いていたし。
私はひとしきりシーちゃんとの触れ合いを楽しんだ後、名残惜しみながら自室に転移した。
これからようやく、ニクスとノルンとの話し合いだ。
セレネとノアちゃんとお姉ちゃんも参加する。
ハルちゃんズもラピスとチグサも含む全員集合だ。
あとルチアとアウラもノアちゃん達に同化している。
なので、カノンと一緒に仕事中のスミレを除くフィリアスは全員この場に揃っている。
「皆、既に経緯は知っているわね。
えっと、それで先ずは何から話すべきかしら。
私としては、ノルンの状況を詳しく知りたいのが一点。
その上でノルンの今後について話し合いたいのが一点。
最後に今回の騒動の私側の動機に関する話として、シーちゃんの件を相談したいのが一点。
私の話したい事はそんなところね。
皆は他に何かある?
先に話したい事でも後ででも良いから何でも言ってみて」
「何よりもまずアルカの状況よ。
ハルやニクスからも色々聞いてはいるけれど、本当に何も問題はないのよね?
益々力を増して神に近づいたとかではないの?」
「私の体感としては何も変わりないわ。
単に力の総量が上がっただけね。
隷属契約の性質上、配下側からの影響は殆ど無いの。
今回は力の差がありすぎたせいで流れ込んでしまったけれど、皆のお陰でその程度で済んだみたい」
「済んだみたいじゃないわよ!
どれだけ心配したと思ってるのよ!」
「ごめんなさい。セレネ」
「本当に次はないわよ!
今度何かしたら指一本動かせないようにして私の部屋に閉じ込めてやるわ!」
「はい……」
「では次はノルンの状況ですね。
ノルン、ニクス、そちらから話しますか?
こちらから質問した方が良いですか?」
「私から話すよ。
この世界を守る者としてノルンに勝手に話されては困る事もあるから」
「ではお願いします。ニクス」
「ノルンはこことは別の世界の神だ。
正確にはだった。
既にその世界は滅んでる。
今はアルカに隷属する事でここに居着くつもりのようだけど、私は認めない。
近い内に本来の居場所に帰ってもらうつもりだよ」
「お母様!」
「その呼び方はやめて。
私はノルンの母なんかじゃないよ」
「えっと、ニクスからの話しは終わりですか?」
「うん。終わり。それだけ。
すぐに帰ってもらうから知る必要はないんだよ」
「ならなぜこの一週間近く、見逃していたの?
なんですぐに送り返さなかったの?」
「納得くらいはさせてあげなきゃ可哀想だからね」
「納得できると思っているの?
そんな一方的で良いの?
ニクスの事を母と慕って助けを求めているのに」
「アルカはもう絆されたの?」
「そうじゃないわ。
まずは知りたいの。
ニクスは何を問題視しているの?」
「何もかもだよ。
ここは私が守る世界だ。
部外者が干渉するなんて許されないし、許すつもりも無いんだよ」
「お願い、ニクス。
ちゃんとニクスの想いを話して。
それじゃ何も伝わらないわ。
ニクスを信じられずに、勝手なことばかりしていた私が、言える事じゃないのはわかってる。
けれど、私もちゃんと話すから。
ニクスの事をもっと信じるから。
だからお願いよ。諦めないで。
優しいニクスが自分を慕う相手をそんな風に扱って辛くないわけがないわ。
言える事だけで良いから。
お願い。話をして」
「……本当に言えたことじゃないよ」
「ごめん。私が先に相談するべきだった。
事を起こしてから、ニクスを困らせてから言う事じゃ無いわよね。
けどそれでも、お願いします。
ニクスの想いを教えて下さい」
「……そうだね。
私もすぐに無理だって言うのは止めると約束したものね。
けれど、問題を一つ一つ挙げていくと切りが無いから、先に一つだけ言わせてもらうよ。
自分の守るべき世界を滅ぼしたような神を迎え入れて、本当に問題がないと思う?
あのシイナの船なんて比較にならない程の脅威だよ?
アルカはそんな事も想像できないの?」
「それは……」
「アルカが責任を持とうが関係無いんだよ。
私は絶対に認められない」
「ニクス」
「何、ノア?」
「滅ぼしたとは、自らの意思でという事ですか?」
「意思なんか関係ないよ。
守りきれなかったのなら同じことだよ」
「ノルンはどうなるの?
元の居場所とやらに帰った後は」
「それは教えられないよ。セレネ。
少なくとも、皆にもこの世界にも関係の無いことだ」
「ニクスとノルンの関係は?」
「何も無いよ」
「お母様……」
「ニクス、本当の本当に何の関係も無いのね?
その言葉を信じてしまってもいいのよね?
もう私に嘘や誤魔化しは言わないでくれるのよね?」
「……」
「言い淀むのなら正直に話して下さい。
話せないのなら、心にもないことは言わないで下さい。
今日のニクスはらしくありません。
何をそこまでムキになっているのです?
アルカを危険にさらしたからですか?
ノルンを嫌っているのですか?」
「……」
「そうだとは、嫌いだとは言えないのですね?
なら、詳しい関係まで話せとは言いません。
せめて、冷静になってください。
ニクスの言い分もわかります。
確かにこの世界にとっては危険な存在なのでしょう。
けれど、本当に見捨ててしまってもいい相手なのですか?
ニクスも守りたいと思ってはいませんか?
誰よりも優しいあなただからこそ、あえてムキになって切り捨てようとしているのではありませんか?
そう自分を騙さなければ選べないのでは無いですか?
私達はニクスの力になります。
ニクスの本当にしたい事を教えて下さい。
私達を信じて下さい。頼って下さい」
「…………………………………………無理だよ」
「信じる事がですか?」
「違う、守る事がだよ。
私の力になるなんて思い上がらないでよ。
君たちは所詮、ちっぽけな存在なんだ。
世界なんて簡単に滅んじゃうんだよ。
全部必要な事なんだよ……
どうしてわかってくれないの……
私はただ失いたくないだけなのに……」
「ニクス!何時までもメソメソしてるじゃないわよ!
要するにこの子の事も守りたいんでしょ!
この世界と天秤にかけて切り捨てようとしてるだけなんでしょ!
ならそう言いなさいよ!
私達が手伝うって言ってるでしょ!
何も出来ないなんて言う前にできるようにしなさい!
あんたの手足になれるように育てなさい!
付き合うって言ってるんだから頼りなさい!
あんたこそ思い上がってるんじゃないわよ!
一人ではどうにもならないんでしょ!
孤独が辛くてアルカを巻き込んだんでしょ!
その癖、役に立たないなんて不貞腐れてるんじゃないわよ!
あんたは何もかも中途半端なのよ!
だから何時までも悲しみなんて抱えてるのよ!
アルカはあんたの使徒なんでしょ!?
どうせ何の仕事もさせてないんだから少しくらい働かせたら良いじゃない!
どうしてそんな事もわからないの!?」
「……」
「お願い。ニクス。
私に出来る事なら何でもするなんて、甘いことはもう言わないわ。
私に出来ない事だって何でもするわ。
いつか出来るようになるから。
ほんの少しだけニクスの信頼を頂戴。
私にチャンスを頂戴。
私にニクスを助けさせて。お願いよ」
「……もう。
わかったよ。
ちゃんと話すよ。
なんで私が寄って集って虐められてるの?
元はと言えばアルカとノルンのせいでしょ」
「良く言うわ。
思い上がるななんて言っておいて」
「ごめん。言い過ぎた。
いつも側に居てくれるだけでとってもありがたいって思ってる。
もう沢山守られてる。
だから……お願い。今回も力を貸して」
「「「もちろん!」」」




