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26-20.浅慮

 私はハルちゃんと一緒に神降ろし魔法(仮)を発動する。

この魔法を成功させるためには、前提条件としてハルちゃんが神の座までの道を作る必要がある。


 ハルちゃんがノルンの痕跡を元にハッキングを仕掛けようとした経路を今度はニクスを引きずり出した時の様に道として繋いでいく。

完全に道が繋がって私が神降ろし魔法(仮)を発動し、腕の中にノルンが現れたのと同時に、ニクスとカノンも私の部屋に転移してきた。



「アルカ!何をしたの!?」


「お母様!!!」


 ニクスの怒鳴り声に反応したノルンは、私の腕から飛び出してニクスに抱きついた。


 ……あれ?

なんか小さくない?

ノルンの身長がニクスより少し大きいくらいしかないわよ?

というか、どう見ても綺麗な大人の女性じゃなくて、小さくて可愛い女の子なんだけど?


 いや、それより!

今お母様って言った!?

何がどうなってるの!?


 あ、やば……

契約……力が……逆流して……



『アルカ!!』


 最後にハルちゃんの声を聞いて私の意識は薄れていった。





----------------------





 私が意識を取り戻したのはあれから三日後だった。

どうやら、ノルンとの契約で力が逆流したらしい。

契約そのものは私優位の隷属契約のはずだった。

けれど、ノルンとの力の差が大きすぎたのだ。


 契約を結ぶと最初に従者側の力に応じて主側の力の上限が増す。

その後、主側から従者側に力が流れ込んでいく事になる。


 私がフィリアスとの契約で力を増していたのはその為だ。

同じくフィリアス達も私から力を受け取っていた。


 ハルちゃん達初期組のフィリアスが契約で寝込むのは、吸血鬼が種族的に神力を弱点としているからだ。

ルチア達のように、ハルちゃんが生み出した段階で耐性を持たせた場合は影響を抑えることができる。

更に吸血鬼からフィリアスへの進化によって完全に神力を克服し、自身の力とする事も可能だ。


 実際、レーネとの契約では進化こそ起きたけれど、寝込むことは無かった。

つまり、私とノルンの力の差は、私とレーネの差とは比較にならない程大きなものだったのだ。


 正直、甘く見ていた。

私が人間なので進化の心配も無いし、意識を失う事など想像もしていなかった。

そもそも、主側がここまで急激な変化を起こすとは思わなかったのだ。

ハルちゃんとの契約だって、ハルちゃんの力が丸々私に上乗せされたわけじゃない。

比率としてはそう大きなものではないはずだった。


 しかし、私をノルンの主として相応しい存在とする為に、契約の繋がりはノルンの力を容赦なく私に注ぎ込んだ。

水が低い位置に流れていくように。

私とノルンでは高低差がありすぎたのだ。

私は激流に押し流されてしまった。


 私の体は三日かけてようやくその力を受け入れつつある。

今ならニクスの半分くらいの力はあるのかもしれない。

ニクスは未だ信仰が足りておらず、全盛期の力には程遠いらしいし。


 という話を私に同化して力と変化を抑え込んでくれていたハルちゃんが教えてくれた。

とはいえ、流石にハルちゃん一人の力ではどうにもならず、今私の中ではフィリアスが全員集合している。

三日程度で意識を取り戻せたのも皆のお陰のようだ。

私一人では生き延びられたかどうかすら怪しい。



「何時まで寝たフリを続けるつもりですか?

 いい加減にしないと怒りますよ?」


 起きたって怒られるよね……

けれど、また沢山心配をかけてしまったのだし無駄な抵抗は止めて素直に怒られよう。



「おはよう」


「随分遅いお目覚めでしたね」


「心配かけてごめんなさい。

 こうなる事は予想しておくべきだったわ」


「そうですね。

 私も考えが足りませんでした」


「ううん。ノアちゃんに落ち度なんて無いわ」


「当然です。悪いのは全部アルカです」


「はい。そのとおりです」

 

「まったく。

 同じ事を言うのは何度目かわかりませんが、これきりにしてくださいね。

 ……もう良いですよ、アリア」


 ノアちゃんが声を掛けると、ノアちゃんと一緒に見守ってくれていた皆の中からアリアが飛び出して抱きついてきた。


 私は大泣きするアリアを力の入らない腕で撫でる。

私の体はまだ本調子ではないようだ。

本当は思いっきり抱き締めてあげたいのだけど。


 どうやら私が意識を取り戻した事で家族全員が集まってくれていたらしい。

アリア達は訓練の最中だったようだ。

ルネルなら私が意識を失ったくらいで訓練を休ませたりしないだろう。

ハルちゃん達のお陰で無事なのはわかっていたのだろうし。


 アリアに続いてルカが、リヴィが、レーネが、と次々に泣きながら抱きついてきた。

セレネは私の首を締める様な勢いで抱きついて、耳元で囁いてきた。


「次黙ってこんな事したら絶対に許さないわ」


 家族全員が落ち着くまで、暫く時間がかかった。


 一通り済んだ所で、少し距離を取って様子を見ていたニクスが私に近づいた。

ノルンはどこだろう。

側にはいないようだ。



「アルカ、病み上がりで悪いけど話があるよ」


「ごめんなさい。勝手な事をしました」


「なんで言ってくれなかったの?」


「……」


「話せないの?

 ノルンが隠れて接触したから?

 それだけじゃないよね?

 アルカにも何か目的があったんでしょ?

 そうでなければ私よりノルンの意思を優先する理由なんて無いよね?」


「……」



「どうせシイナの事だよね?

 私が無理だって突っぱねちゃったから、都合よく転がり込んできた力に頼ろうとしたんだよね?」


「どうして、神に頼ろうとなんてしたの?

 私以外の神のものにはならないんじゃなかったの?

 それとも、本気で一方的に利用できるとでも思ってるの?

 隷属契約で縛ろうとしたようだけど、見た所良くて五分の契約だよ?

 そんなんじゃ一方的に命令なんて出来ないよ?」


「逆転されてたらどうするつもりだったの?

 ノルン以外なら絶対にそうなってたんだよ?

 ノルンがそうならないように抑えてくれたんだよ?」


「アルカは知らないだろうけど、今のノルンは殆どの力を失っているんだよ。

 信仰を失った今の私にすら及ばない程度の力しか持っていない。

 その上でアルカを壊さないように頑張ってくれたの。

 そこまでしても五分の契約を結べただけで奇跡なんだよ?

 本当にわかってるの?」



「ごめんなさい。

 浅はかだったわ」


「何度同じように謝るつもりなの?

 その場さえ凌げればいいの?

 もう無茶はしないんじゃなかったの?

 ノアともそう約束していたんじゃなかったの?

 どうしてわかってくれないの?

 私はただアルカを失いたくないだけなんだよ。

 私を皆を悲しませるのがそんなに楽しいの?」


「ごめんなさい……」


「お願いだよ。

 もう二度と自分から神に関わるなんて止めてよ。

 シイナの件は出来ることなら何でもするから。

 最初に私に話してよ。相談してよ。

 私もすぐに無理だって言うのはやめるから。

 一緒に出来ることを考えるから。

 だからお願い、一人にしないでよ……」


 私は泣きながら縋り付くニクスを抱きしめる。

相変わらず上手く力は入らないけど、できる限りの力で目一杯抱きしめる。

こんなつもりじゃなかった。

何もかも軽く考えすぎていた。

ノアちゃんの言う通りだった。

先にニクスに相談するべきだった。

シーちゃんの事だって大切だけど、だからって何でニクスを蔑ろにしてしまったのだろう。

どうしてもっと信じられなかったのだろう。

泣かせたかったわけじゃないのに。


 ニクス、ごめんなさい。

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