26-17.無茶
「先ずはノルンの降臨方法について今一度検討しましょう。
ニクスの場合は、アルカの抱き寄せ魔法を使うことで実現しました。
けれど、現状で禄に面識も無いノルンを相手に発動する事はできません。
何故なら、抱き寄せ魔法の発動条件は相手を愛している必要があるからです。
アルカが抱き締めて手放したくない相手にしか使えないはずです」
「そうね。
その件でノルンの言葉にまだ一つ気になるのがあるの。
"縁は繋がった。気付きなさい"、ノルンはそう言ったわ。
この言葉がただの思わせぶりなのか、何かヒントが隠されているのか、この言葉の後に伝えられないとわかっていながら名前を口にした事にも意味があるのか。
皆はどう思う?」
「ノルンが抱き寄せ魔法の制約を知っていた場合と、知らなかった場合でも意味が分かれるわよね」
「ハルちゃんはその辺どう思う?
ノルンは知らなかったと思う?」
「しらなかった」
「ばあい」
「かんがえても」
「いみがない」
「しってた」
「かてい」
「かんがえる」
「そうね。確かにその通りだわ。
知らなかったのならそれでこの話は終わりだものね。
そんなの考える意味がないわ。
知っていた前提でこの言葉にヒントがあるとして、どう繋がるのかしら」
「えにし」
「なまえ」
「信仰でも集めさせるつもりでしょうか。
数百年かけて呼び出させるつもりとかでは?
神の時間感覚ならありえない事でも無いかもしれません」
「そっか、それなら名前を教えたかった事にも意味があるわね」
「それはない」
「ニクスにばれる」
「そうだったわね。
そんな大っぴらにやってしまえばニクスに隠すどころではないわ。
コソコソしている意味が無くなってしまうわね」
「うん」
「ニクスにバレない手段、つまり一瞬で済ませられるような手段を望んでいる可能性が高いのですね」
「そうすると、契約とか?
ハルちゃん、神相手に隷属契約って可能なの?
それも遠隔で」
「むり」
「まあ、そうよね」
「でも」
「かんがえる」
「じゅつしき」
「じゃあそれはそれで進めてもらうって事で。
他には何か無いかしら」
「以前ニクスがやったように、アルカに何か仕掛けていたりはしませんか?
あの神殿のようにこの世界に干渉するための端末にするってやつです。
アルカがノルンに対して心を開いたら機能するとかはないですか?」
「ない」
「アルカ」
「ニクスのしと」
「そこまでむり」
「ばれる」
「そう言えばそんなのありましたね」
「私も忘れそうになるわ。
ニクスからの一方的な繋がりだから私に実感無いのよね。
精々、神力の強化と神威が身についたくらいだわ」
「神威の方はちゃんと鍛錬してるんです?
カノンにああ言ったのですから、アルカももっと訓練に参加して下さい」
「はい……」
「しとのしめい」
「ニクスのけんげん」
「ニクスのちから」
「ちがう」
「このせかい?」
「かみのざ?」
「システムある」
「どっちかすらもわかってないけど、何かは見つけたのね?
それを解析して利用するの?」
「むずかし」
「セキュリティ」
「がちがち」
「もう試した事あるのね……」
「ハル、無茶はダメよ」
「……はい」
「あまり妙な事をするのは本気で止めて下さいね」
「がってん」
「本当にわかってるのかしら。
まったく、誰に似たのかしらね」
「「お姉ちゃん(さん)でしょ」」
「……え?」
「自覚無いの?」
「お姉さん、相当やらかしてますよね。
ダンジョンの制御装置作らせたり、ハルを生み出したり。
きっとそれだけじゃないんでしょう?」
「過去改変の時点で相当無茶なのに、その上六百年生き延びる方法は現地調達とか、綱渡りの無茶ばかりじゃない」
「うぐ……」
「まあ、そう言うアルカだって似たようなものですけどね。
ニクスとパスを繋いだ件は忘れていませんよね?」
「……ごめんなさい」
「ともかく、皆無茶しないで下さい。
それを前提に話を再開しましょう」
「「「は~い」」」
「神、降臨、縁、名前、気付く。
今のところ出ているキーワードはこんな所でしょうか」
「引きずりだせとも言っていたわね。
強引な手段を想定しているのは間違いないわ。
やっぱり、抱き寄せ魔法をどうにかして使うしか無いのかしら」
「アルカが何かに気付けば使えるのではないですか?
実は、既にノルンを愛せるだけの理由があるのでは?」
「縁が繋がったとも言っているのよ?
逆を言えばその瞬間まで縁もゆかりも無かったって事よ」
「"あの方を愛する者同士仲良くしましょう"の部分は?
ニクスを愛する事が何かに繋がる?
例えば、ニクスの娘なら自分の娘も同然みたいな」
「流石にそれは無茶よ。お姉ちゃん。
どう考えても私達より遥かに年上よ」
「例えよ。他にそんな感じの考え方は無い?
例えば、ノアちゃんを好きな可愛い女の子が現れたら、纏めて可愛がってあげようって気にならない?」
「……いけるかも」
「アルカ、失望しました」
「違うの!頑張ればって話なの!」
「普通は頑張っても無理です」
「そもそもノルンは可愛い女の子って感じじゃないわ!
どう見ても綺麗な女の人よ!
私の趣味じゃないわ!」
「やはり好みならいけるんですね……」
「ためす」
「ノルン」
「おさなく」
ハルちゃんは少し考えた後立ち上がって、私の隣に立ち、ノルンの子供バージョン(想像)に変身した
「……回ってみて」
「わん」
「何、興味持ってるんですか」
「いやでも、これ中身ハルちゃんだし。
それだけでもう愛しくてたまらないし」
「後は私が認識を弄りましょうか?」
「やめて!お姉ちゃん!
それは流石に怖いわ!」
「……はあ~。
とりあえずハルは暫くその姿で過ごしてみたらどうです?
アルカならそのうち想像で惚れるんじゃないですか?」
「ひどい……」




