26-14.ポンコツ
ノアちゃんとお姉ちゃんを連れて私の部屋に移動した。
私はノアちゃんを後ろから抱きかかえてこたつに潜り込む。
お姉ちゃんは私のぴったり横に入ってきた。
「お姉ちゃん、顔見て話したいから正面に移動して。
あと、流石に狭いわ」
「え……」
「そんな絶望しなくても……」
「私が行きましょうか?」
「ダメ」
「小春……」
「なんで泣きそうなのよ……」
最近お姉ちゃんのポンコツ化が激しい。
エイミーの時が信じられないわね。
『ついかせんし』
『ぽんこつか』
『おやくそく』
……面倒な。
「しかたない」
「ハルのでばん」
同化を解いたハルちゃんが転移でお姉ちゃんもろとも私の正面に移動して、お姉ちゃんの腕の中に収まった。
お姉ちゃんはそんなハルちゃんの行動に少しだけ複雑なような嬉しいような顔をするも、そのままハルちゃんを抱きしめた。
「じゃあ、まずは私から話すわね。
ハルちゃんからざっくり状況を聞いただけだから、二人にも共有したら、細かい所を確認していきましょう」
私はまず、先日グリアのお母様と話していた時の事を説明した。
まるで時間が巻き戻ったかのような経験をした件だ。
失言でグリアを怒らせて、お母様とグリアを嫁にもらう約束をして、ノアちゃんに怒られたと思ったら、失言する直前に戻っていた事だ。
その次に、夢の件を話した。
私には覚えが無いけれど、記憶には残っていたそうだ。
ハルちゃんがその記憶を掘り起こしてくれた。
私が視界に収まらない程の大木の根本に広がる泉に沿って歩いていると、見知らぬ女性に話しかけられたこと。
その女性は私を小春として知っていたこと。
その女性が私をその場に呼び出したこと。
おそらくニクスが私に施した加護に、誰かが穴を空けた事。
その女性はその穴を利用した事。
その穴を空ける事は女性が誰かに何らかの方法で伝言した結果である事。
その女性はニクスと同じようにこの世界に呼び出して欲しいと言った事。
「どっちもただの夢って事は無いのですか?」
「ない」
「ゆめちがう」
「かんしょう」
「こんせきある」
「あの子が伝えてくれるって言うのがハルの事なら、伝言を聞いて穴を空けたのもハルなんじゃないの?」
「ちがう」
「こころあたり」
「ない」
「結局、名前はわからなかったの?」
「うん」
「アルカ」
「ききとれてない」
「だから」
「きおくない」
「ハルちゃんなら認識できるって意味じゃなかったのね」
「視界に収まらない程の大木と湖、それに現れたのが女性なら、おそらくウルズの泉ね。
なら、その女性は女神ウルズ?
でもニクスと何の関係も無いわよね……」
「お姉ちゃん、なにか知っているの?」
「私達の世界の神話に似たようなものが登場するのよ。
ユグドラシル、世界樹って言葉なら聞き覚えがあるんじゃない?」
「うん。それくらいなら知っているわ。
ゲームとかでよく、世界中のマナを循環させたりしてるやつよね」
「そうそれ。
ウルズは運命の女神であるノルンの一人で、彼女が住むユグドラシルの根本にある泉の一つはウルズの泉と呼ぶの」
「ママ」
「きおくちょうだい」
「良いわよ」
ハルちゃんはお姉ちゃんの頭に抱きついて記憶を吸い出し始めた。
手の平を当てるだけで良いんじゃんかったっけ?
暫くそうしていたハルちゃんは、お姉ちゃんの膝の上に戻ると、考え込みはじめた。
「それで、ニクスと関係がって話は?」
「ユグドラシルと女神ニクスは神話体系が違うから関係ないのよ。
ユグドラシルはオーディンが主神の北欧神話で、ニクスはゼウスが主神のギリシャ神話って言えばイメージ出来る?」
「うん。だいたいわかったわ。
けれど、ニクスは私達の世界の神話との関連性を認めてないわよ?」
「そうは言っても権能が厄災って特徴まで一致しているわ。
仮にニクスの言葉が嘘じゃなくても、元ネタくらいの関係性はあってもおかしくないわよ」
「めがみヘメラ」
「そんざいしない」
「けど」
「ママのきおく」
「いた」
「え?」
「女神ヘメラは昼の神ね。
ニクスと交代で昼と夜をもたらすのよ」
「え?
この世界の女神ヘメラは、聖女アムルがでっち上げた存在しない偽物よ?
どういう事なの?」
「せかい」
「こんげんいっしょ」
「シイナのふね」
「ごらくせつび」
「このせかい」
「しょくぶんか」
「アルカとママのせかい」
「どっちもある」
「きょうつうてん」
「おおい」
「ぜんぶ」
「すこしずつちがう」
「それだけ」
「それと」
「じかん」
「はやさちがう」
「えっと、この世界も私達の世界もシーちゃんの世界も全て並行世界だから、似た部分があるって事?」
「そう」
「それぞれの世界で神に対する認識が異なるのかしら。
この世界ではニクスが実質的な唯一神だけど、私達の世界では数多いる神の一柱でしかないって事なのね。
神はそれぞれの世界とは別の場所にいるのよね?」
「そう」
「せかいのそと」
「むのせかい」
「かみのざ」
「そこにある」
「べつのせかいも」
「おなじ」
「???」
収納から紙を取り出して大きな丸を描くハルちゃん。
丸の内側に何本かの平行な長さの違う線と、それぞれの線の周囲に点を描き足す。
「せんがせかい」
「てんがかみのざ」
「じゃあ、邪神は大枠の外から来たの?
ニクスは最初、外なる神って呼んでいたけど」
「そう」
「たぶん」
「けど」
「ちがう」
「かも」
更に、線と点を一対一にして、点線で繋ぐハルちゃん。
「かみのざ」
「せかい」
「つながりある」
「そと」
「つながりの」
「ことかも?」
「だから」
「そとなるかみ」
「べつのかみのざ」
「かも?」
「じゃあ、今回接触してきた女神ウルズ(仮)は邪神の可能性もあるのかしら」
「ひていできない」
「そもそも、何故ニクスに話さないのです?
その相手はニクスにバレないようにアルカに接触しているのですよね。
そんな相手を信用する気ですか?」
「シイナ」
「すくう」
「かのうせいある」
「ニクスへの対抗手段にでもする気ですか?」
「そう」
「たぶん」
「てきいない」
「ニクス」
「すき」
「うそじゃない」
「?良くわかりません。
ニクスを愛しているという言葉が真実だとして、なら何故ニクスに隠れてコソコソ干渉しているのです?
ハルはその相手が何故、ニクスよりアルカの望みを叶えてくれると思うのです?」
「こうしょう」
「あのめがみ」
「このせかい」
「きたい」
「ハルとアルカ」
「きっとよべる」
「ニクスに会いたいなら協力しろとでも言うつもりですか?」
「そう」
「夢の件がある前からニクスに言わないように言っていたのは?」
「へいこうせかい」
「かんしょう」
「かみのかのうせい」
「たかい」
「ハルちゃんはあの時点でそこまで考えていたの?」
「だいたい」
「そう」
「やっぱりハルが何かしたんじゃないですか?
その痕跡を追おうとしたんですよね?」
「ハル、あなたその女神が残した痕跡を元にハッキングしようとして、逆ハッキングされたんじゃない?」
「……」
「女神は伝言のつもりで痕跡を残して、ハルちゃんはそれに気付かずに追跡して、その際に空けた穴を利用されたの?
女神はハルちゃんが伝言を見たから穴を空けてくれたと思っているけど、単なる偶然なの?」
「……ごめんなさい」




