26-8.失言
私はラピスを連れてヘパス爺さんの店を訪れた。
今日はカノンとお姉ちゃんの指輪を受け取って、ラピスの指輪を依頼する。
パンドラルカの活動はお休みだ。
とはいえ、カノンはニクスと二人で動き回っているけれど。
ニクスはやる事なんて無いと言いつつ、何でも手伝ってくれるし、何だかんだと意見を出してくれる。
カノンは優秀だけどまだ若い。
ニクスも経験豊富とは言い難いけれど、知識の面では頼りになる。
「今回の指輪も最高よ!
次もお願いね!」
「もう着ける場所も無いじゃろうが」
「人差し指で……」
「仕方ないわね!」
「ごめんね。ラピス」
私の左手の薬指には既に四つの指輪が着いているのだ。
ノアちゃんとセレネとで一つ。
ニクスとで一つ。
アリアとルカとで一つ。
レーネとで一つだ。
そして右手も予約で埋まっている。
リヴィとで一つ。
ハルちゃんとで一つの二つが既に着いている。
カノンとで一つ。
お姉ちゃんとで計二つはこれから着ける事になる。
更には既に左手の人差し指にもシーちゃんから受け取った通信端末の指輪を着けている。
サナ達の分どうしようかしら。
「フィアリスは全員で一つでも良い?」
「しっ仕方な、やっぱ嫌!」
「わかったわ。
とりあえずラピスの分はラピスの為だけに作りましょう。
他の子の事は後で考えるわ」
『ボクも一緒くたは嫌なのです』
『…………ナノハも』
「まだ大丈夫よ。
人差し指なら空いてるわ」
「まったくお前さんは……」
爺さんはいつも通り呆れながら作成依頼を受けてくれた。
爺さんにはチョーカーの作成も依頼した。
カノン、お姉ちゃん、フィリアス達、シーちゃんの分だ。
またあの店に買いに行ってもいいのだけど、そんなに数が多いわけではない。
大量に同じ種類の物が欲しいのなら作ってもらうしかない。
どうせならと爺さんにお願いする事にした。
頑丈さが段違いだろうし。
ついでにデザインも拘る事にした。
カノンとお姉ちゃんは指輪に合ったイメージにしてもらう。
フィリアスの皆の分は、私をイメージした物を爺さんに考えてもらう事にした。
流石に丸パクリは不味かろう。
法律云々じゃなくて、職人さんに依頼する内容として。
シーちゃんはどうしようかしら。
シーちゃんにはまだ欲しいかすら聞いてないのよね。
でもまあ良いか。
シーちゃんの分はフィリアスの皆と同じものに、少しだけ付け足した物にしてもらった。
どんな風にできあがるのかしら。
とっても楽しみだ。
爺さんの店での用事が終わり、今度はシーちゃんの船に転移する。
「グリア行くわよ~」
「一人で行きたまえ」
「何馬鹿なこと言っているのよ。
あなたが行かなきゃ意味ないでしょ。
それとも本気で私のお嫁さんになる?
グリアが望むのなら形だけでも良いけど。
なんなら正式に嫁入りしてくれても良いのよ?」
「君こそ馬鹿なことを言うもんじゃあない!
わかったとも!いくとも!
だから抱き上げるんじゃあないよ!」
「このままお母様の所に行ってあげましょうか?
私達の関係を見せてあげましょう」
「いい加減にしたまえよ!
こんなの伴侶ではなく親子だ!
意味がないだろうが!」
「もう。我儘な子だわ」
「小春、いい加減にしなさい。
目上の人に対する態度ではないわ。
家族のように親しくとも最低限の礼儀があるでしょう」
「はい。
グリア、ごめんなさい。
調子に乗りました」
「まったく。ほら行くのだろう。
早く済ませたまえ」
「グリアさん、年長者がそんな態度はダメよ。
自分の問題に巻き込んでいる自覚は無いの?
小春の態度とグリアさんのお母さんの件は別の問題よ?」
「……すまない。行こうか」
「そう言えばお姉ちゃん、グリアより遥かに年上の年長者だったわね」
「小春!!」
「ごめんなさい!!」
私は慌ててグリアを抱えて転移した。
結局、グリアの件で良い案は出ていない。
相変わらず私のお嫁さん作戦は拒否されている。
代替案として、定期的に顔を出すことにしたのだ。
その際は私が付き添うことにしている。
もう少ししたら、誰か他の家族にも付き合ってもらおう。
人格的にはノアちゃんが一番良さそうだけど、流石に幼すぎるかしら。
十二歳で成長が止まっているのよね……
変身魔法で大人モードになるのもあまり良くない気がする。
相手はグリアのお母様だもの。
あまり騙すような事はしたくないわ。
まあ、お母様の姿も何かしら細工があるのだろうけど。
実年齢と見た目が合ってないし。
三十超えの娘がいるのに、見た目二十代だし。
「アルカちゃん、いつもありがとうね。
グリアちゃんたら面倒がって来てくれないのだもの」
「お気になさらないで下さい。
私もお母様とお話出来て楽しいですから」
「あらあら。アルカちゃんたら。本当に良い子ね」
「良く言うものだ。人見知りのくせに」
「グリアちゃん!
アルカちゃんはあなたの為に頑張ってくれているのでしょう?
そんな言い方がありますか」
「……申し訳ございません」
「私にではなくアルカちゃんに謝りなさい」
「……すまん」
「ごめんね。アルカちゃん。
こんな子だけど見捨てないであげてね」
「ご安心下さい!
この程度で嫌うはずがありません!
むしろ伴侶になって欲しいと思っているくらいです。
けれど、中々頷いてくれないんです」
「君はまたそんなふざけた事を!」
「グリアちゃん!」
「ですが!」
「こんなに綺麗で優しい子の何が不満なの?
確かに少しお嫁さんが多すぎるのは気になるけれど、それでもグリアちゃんには勿体ないくらい良い子じゃない」
「アルカ君!本当に良い加減にしたまえよ!
君がいつ本気で私を口説いたというのかね!?
毎度毎度悪ふざけばかりじゃあないか!
母様、失礼します!」
「グリアちゃん!!」
グリアの姿が掻き消える。
どうやら自宅に転移したようだ。
「申し訳ございません。お母様。
グリアの言い分は尤もです。
グリアの優しさに甘えて悪ふざけが過ぎました」
「……そう。
なら本気で口説き落としてくださいな。
それでこの件は不問としましょう」
「はい!」
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「ドン引きです」
「はい……」
「アルカは別にグリアさんの事を本気で落としたかったわけではありませんよね?」
「はい……」
「グリアさんのお母様の前でもいつもの悪ノリで失言して、結果的に責任を取ることになったと。
それをお母様に約束してしまったと言うのですね」
「はい……」
「アルカは最低です」
「仰るとおりです……」
「私も同行するべきでした。
アルカの失言癖は知っていたのですから」
「ごめんなさい……」
「本当に反省してください。
そして責任も取って下さい。
今回は手を貸したりはしません。
自力でグリアさんを口説き落として下さい。
その為にはアルカ自身がグリアさんを本気で愛する必要があります。
……本当にいい加減にしてください」
「はい……」
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「ご安心下さい!
この程度で嫌うはずがありません!
むしろ」
『あるじ!すとっぷ!』
「え?」
あれ?
「どうかしたの?
アルカちゃん」
『お嫁さんにしたいなんて軽口で言ってはダメよ!
グリアに悪ふざけで言うのとこの人の前で言うのは違うでしょ!
本気でグリアの事そう思っているの?
ちゃんと考えて!』
「あ、いえ。
むしろ私の方がお世話になりっぱなしですから。
それにグリアの事は大切な家族だと思っています。
この程度では揺らぎません」
「ありがとう、アルカちゃん。
娘の事をそこまで思ってくれるなんて嬉しいわ」
…………今のなに?




