26-4.計画
「まずは改めて要点を話すわ。
一点目はシーちゃんの体について。
シーちゃんは生命活動を停止している肉体をナノマシンが無理やり動かしている状態なの。
素の肉体はこの世界の人間と違いはないわ。
そして、この肉体には命と同じく魂もない。
今のシーちゃんの意思を形成しているのは、機械的に生み出された擬似的な魂なの」
「二点目、ナノマシンについて。
ナノマシンとは目に見えない程小さな機械の事よ。
とはいえ、カノンとグリアには機械が何かから話さないとよね……
魔道具と似たようなものでわかるかしら」
『ほそくする』
ハルちゃんが私に替わって説明してくれる。
この船の設備を見せながらなんとか理解してもらえた。
「そのナノマシンは莫大なエネルギーを必要としているの。
滅びたドワーフの国の中央にあったエネルギー源のような装置がこの船の中にも存在しているわ。
シーちゃんの体内のナノマシンはその装置からエネルギー供給を受けているから、この船からあまり離れられない」
「そして、三点目。
この船はあと三年で破壊する事になる。
この船に使われている科学技術はこの世界に存在しないものよ。
もしこの異世界から流れ着いた技術が広まってしまえば、この世界は本来の歴史と異なる進化の仕方をしてしまう。
それは世界を滅ぼしかねない程、急激な変化をもたらすかもしれないわ。
だから、ニクスはこの船を見過ごせない」
「これらの問題を解決するためにハルちゃんの立てた計画の内容はこうよ。
まずはシーちゃんに魔石を埋め込んで魔物化させるわ。
その上で私と契約して、シーちゃんが生きる為に必要なエネルギーを私が供給するつもりよ」
「計画の課題は三つ。
一つ目、魔物への転生方法。
魔物になる方法なんて誰も知らない。
だからまずはそこからね。
唯一、アンデット系だけは人が変質したものである可能性が過去の記録で示唆されているわ。
シーちゃんの肉体は生きてないから近いかもしれない。
けれど、ゾンビみたいに腐り落ちても困ってしまう。
まあ、細かいことは追々詰めていきましょう。
それより問題なのは魔石の方よ。
普通の魔石では足りないの。
特別な魔石を使う必要がある。
けれど、これにもニクスにとって許容できない技術が関わっている。
この件ついても後で話すわ」
「二つ目、エネルギー変換。
魔力や神力をただ送り込んでもナノマシンを動かすためのエネルギーにはできないわ。
発電機のようなものを作るか、ナノマシン側を作り変えるかはわからないけれど、どうにかして変換する必要がある」
「三つ目、エネルギー消費量の調査。必要なら私の強化。
そもそもの消費量だけでなく変換効率もわかってない。
万が一、私の力では賄いきれない程のエネルギーが必要なら全てがパーになってしまうわ。
あらかじめ必要量を計算して、足りないのなら私の魔力や神力を伸ばす必要がある。
これについては方法に心当たりがあるの。
フィリアスを増やしていけば解決できるわ。
契約の度に私の力は増していくから」
「ウルト◯ンでも作る気なの?」
「うる?なに?」
「なんでもないわ」
「どう考えても悪の組織の所業だと思うのだけど」
この世界にもその手のお話あるの?
「正直、私もそう思うわ。
人を魔物に変えたり、世界を滅ぼしかねない技術を流用したり、力を得るために幼い子供を産み出して利用したり。
倫理的にアウトな事ばかりよ」
「しかも最愛の神様に黙ってやるのでしょう?
こんな事言いたくないけど、そこまでしてシイナを生かす意味があるの?
最悪の場合ニクスと、この世界と敵対するのよ?
本当にわかってる?
そんな事させないわ、なんて言葉だけではダメよ?」
「それは理解しているわ。
けれど、具体的な解決手段はわからないの。
だから助けて下さい。
私にはどうにも出来ないから知恵を貸して下さい。
お願い。カノン」
「……仕方ないわね。良いわ。
もう計画に賛同するとは言ってしまったのだし。
最後まで協力してあげる。
けれど、本当にどうしたものかしらね」
「先ずはその異世界技術とやらの検証が必要だ。
場合によっては大幅に過程を短縮できるかもしれん。
極端な事を言えば、アルカ君から自力で力を取り込めるようになるならば殆の懸念は無いようなものだ」
「そうね。その辺りの事はハルちゃんが先に調査を始めているから、シーちゃんと三人で良く話し合ってみて」
「承知した」
「お姉ちゃんも基本的にはハルちゃんとグリアに協力して欲しいの。
魔術の知識だけでなく、私達の世界の知識もあるのだから二人には無い視点でも考えられるかもしれないわ」
「わかった。お姉ちゃんに任せて。小春」
「ありがとう。心強いわ」
「安請け合いしすぎでしょ……
お姉様はもっとまともだと思ってたのに。
この姉妹は似た者同士だったのね」
「「えへへ~」」
「褒めてないわよ!」
「カノンは私とシーちゃんと一緒にニクス攻略班よ。
三年かけてじっくりいきましょう」
「頑張ります!マスター!」
「そっちはシイナと仲良くさせるより、アルカに逆らえなくさせる方が早いんじゃない?」
「いやよ。ニクスの意に沿わない事を無理やり押し付けるつもりはないわ。
可能な限り、自分の意思でシーちゃんを守る事に賛同して欲しいの」
「矛盾塗れね」
「いつものことよ」
「開き直らないで!」
「そもそも、ニクスはそうはならないわ。
ニクスの強固な意思を覆せるとしたら本人の愛情だけよ」
「思ってたより、えげつない事考えていたのね」
「仕方ないのよ。
私の神様は人より遥かに強くて優しいのだもの」
「もう良いわ。
それで、魔石の件は?」
「それね……
お姉ちゃん、ドワーフの国の事ってどう思ってる?
お姉ちゃんが魔道具を作ってもらった相手は国を滅ぼしたドワーフなのよね?」
「……そうよ。正直あまり話したくないのだけど」
「それならそれで良いわ。
ただ、覚悟して。
今回利用するつもりの魔石は、あの国を滅ぼしたのと同じ技術で生み出されたものよ」
「……そういうこと。大丈夫。
勝手に破壊したりはしないわ」
「ありがとう」
「国を滅ぼした技術?」
「カノンもわかっているとは思うけれど、口外は厳禁よ。
というか、実際に必要になるまでは知らない方が良いとおもうのだけど。
知るだけで危険なものもあるのよ」
「なら判断は任せるわ」
「ありがとう。ごめんね」
「いいえ。その辺りの事は今の私が知ってもあまり意味が無いでしょうしね。
私達は私達の出来る事をしましょう」
「そうね」
「今日はもうやることが無いのなら、一つ見てもらいたいものがあるのだけど」
「見てもらいたいもの?どうしたのお姉ちゃん。
まさか、また私の昔の映像?
もう止めてよ。恥ずかしいわ」
「興味があります!マスター!」
「ごめんね、シーちゃん。
機会があったらね」
「はい!」
「違うわよ。そうじゃなくて、これよ」
お姉ちゃんの手の平から黒い霧が湧き出して、巨大なスクリーンになり、そこに映像が映し出された。
私達は二時間程かけてその映像を見終えた。
「どっちかと言うとヴィ◯ョンだったじゃない」
「どの道、トラブルの元になるのは変わらないわね」
「興味深い」
「マスターの世界は恐ろしい所なのですね」
「違うわシーちゃん。
これは記録映像じゃなくてお芝居よ」
「え!?」
「続きもあるわよ」
『みたい』
「ハルちゃんが真っ先に食いついたわね」
『あるじ!私も見たいわ!』
「一作目なら私の記憶にもあるんじゃない?
自由に見ていいわよ。
ハルちゃんがストックしてるだろうし」
『ママ!見せて!見せて!』
『じょうえいかい』
私の中でハルちゃんズが上映会を始めたようだ。
皆自由ね~
ハルちゃんとチグサは置いていかなきゃだし、キリが良いところまでは帰れないわね。
その間はシーちゃんとイチャイチャしていましょう。
私は映像の感想を言い合うお姉ちゃん、カノン、グリアを残して、シーちゃんと一緒にこっそり転移した。




