25-27.緑
私達はダンジョンに来ていた。
デート二日目の昼頃に起き出した私達は、そのままベットに戻ることはせずに外に出ることになったのだ。
流石ノアちゃん。
ついダラダラと続けてしまう私達とは違うようだ。
とはいえ、折角のデートでわざわざギルドに行きたがる辺りまでノアちゃんらしい。
テッサのギルドに行くと、新しい高難度ダンジョンの情報を得ることに成功した。
ラピス達の件で注意喚起しておいたので、危険なダンジョンの情報は集めておいてくれたようだ。
つまりはそういうことである。
今回来ているダンジョンは難易度が高すぎて、未だ深部まで到達した者がいない。
この感じだと、ダンジョンボスはハルちゃんの娘である可能性が高い。
今の所ノアちゃんは何も言わないけど、どうするつもりなのだろう。
ルチアがいる以上、ノアちゃん単独でも討伐は可能だろう。
今度こそ問答無用で始末するつもりだろうか。
なんとなく怖くて聞けない。
今回は転移ショートカットは無しだ。
私はノアちゃんの補助に徹して、共に駆け抜けていく。
とはいえ、ノアちゃんに補助なんて必要ない。
ただついて行っているだけだ。
別にデートでするような事でもない気がする。
まあ、余計な事は言わずにノアちゃんの望む様にするけど。
ノアちゃんの速度でも、最深部に辿り着くまでには一日近く必要だった。
帰りは転移すれば済むとはいえ、そろそろ帰還するべきかしらなんて考え始めた矢先の事だった。
「やはり今回もハル関係でしたね。
残念です。
このダンジョンのボスなら楽しめるかと思ったのですが」
「え?それって?」
「その疑問はなんです?
まさか私が問答無用で斬りかかるとでも思ったのですか?
ハルの気持ちも知っているのにそんな事するわけ無いでしょ」
「すみません……」
「いいからとっとと口説いてきて下さい。
早く済ませて帰りますよ」
口説いたりしてないってば……
「後半殆どデート感なかったわね」
「次に期待します」
「また近い内に行きましょう」
「楽しみです」
私はダンジョンボスに一人で近づいていく。
今回は緑色だ。髪も服も。
なにか裏で打ち合わせでもしているのだろうか。
被らないようにする必要ってあるの?
「あら~?
お客様なんてはじめてやわ~」
やわ?
当たり前のように話し始めるダンジョンボス。
なんだかのんびりしていそうな口調だ。
というか、方言?なんで?
それにまるで近づくまで私に気付かなかったかのようだ。
そんなわけがない。
私との力の差を感じ取れない魔物なんていない。
多少距離があったくらいで気付かないはずがない。
「戦いに来たわけじゃないの。
少しお話しても良い?」
「ええよ~
どうせうちじゃ勝てへんし~」
やっぱり理解している。
すっとぼけているのだろうか。
「私はあなたごとこのダンジョンが欲しいの。
大人しく奪われてくれる?」
「熱烈な口説き文句やね~
いいよ~
うち、あなたの物になったるよ~」
「本当に良いの?
ダンジョンボスなのでしょう?
コアを守るのが役目じゃないの?」
「正直退屈してたんよ~
こんなの守るなんてもういややわ~」
『ハルちゃんどう思う?』
『あやしい』
『だよね。なんかこの子狙いがありそうな気がするのよ』
『けいやく』
『すれば』
『かんけいない』
『まあそうね。その辺はハルちゃんに任せるわ』
『がってん』
「私はアルカ。
あなたにも名前を付けたいのだけど、良いかしら」
「名前?」
「今から私と契約してもらうわ。
そのために必要なの」
「なるほどな~」
「あなたの名前は……
チグサよ。どう?」
「うちの名前ね~
なんでもええよ~」
「じゃあ、契約を結ぶわ。
血を飲んで」
私は指を差し出す。
チグサは躊躇なく咥えこんだ。
いつものようにチグサの体が光り始めた所で、光が一瞬ブレるも、そのまま影に包まれてチグサの体が消え去った。
「ハルちゃん?大丈夫?
今のなに?」
『チグサていこう』
『けいやく』
『じゅつしき』
『かいにゅう』
『のっとるき』
『だった』
『けど』
『ちからの』
『そうりょう』
『ちがいすぎる』
『おしきった』
『流石ハルちゃんね。
チグサは大人しそうなフリしてとんだ腹黒さんなのね』
『ひどいわ~
そないな言い方せんでもええやないの~』
『え?もう喋れるの?』
『チグサ』
『ゆうしゅう』
『アルカはん、こないに囲い込んでどないするつもり?』
『チグサを取り込んだのがあなたのオリジナルよ。
正直、今の人類が敵対するにはあなた達は強すぎるの。
だから犠牲者が出る前に集めて回っているのよ』
『倒してもうた方が早ない?』
『チグサ達のオリジナル、ハルちゃんはチグサ達の事を娘だと思っているのよ。
だから倒すのではなく保護したいの。
ちなみに私はハルちゃんの伴侶であり、ハルちゃんは私の一部だから、あなた達は私の娘でもあるのよ。
まあ、詳しい事はこれからハルちゃんが教えてくれるわ。
あまりおいたしない方が良いわよ。
ハルちゃんには勝てないから』
『もうなんもせんよ~』
『仲良くしましょうね』
『ええよ~
なんか楽しそうやし』




