25-23.詭弁
私の部屋を訪れたカノンはスミレの手を引いていた。
「その様子なら、早速仲良くなれたようね」
「ええ。スミレもとっても可愛いんだもの。
けれどね、正直アルカには言いたいことがあるわ。
スミレの前でこんな事は言いたくないけれど、きっと契約を結んでしまえば考えている事も全てバレてしまうのよね?
だからこそはっきり言うわ。
後からスミレに嫌な思いをさせたくないもの。
言葉を選ばず正直に言えば失望したわ。アルカ」
「心当たりは沢山あるわ。
ごめんなさい。
ちゃんと聞くから言いたいことは全て言ってね」
「当然よ!
そもそも、デートの最後に喜ばせる為のサプライズプレゼントとしてはおかしいでしょ!
スミレの事は嬉しいけどタイミングが違うでしょ!
アルカとの契約についてはかろうじてそう思えるけれど、スミレの事がインパクト強すぎて吹き飛んでしまうわ!」
「もっとタイミング考えて!
この空気でどうやってキスまで持っていくのよ!
ずっと楽しみにしてたのに!」
「あと!気軽に命を生み出さないで!
いくら魔物だからって、命を弄んでいいわけじゃないわ!
神にでもなるつもりなの!?
方舟計画の事を何だと思ってるの!?
本気で人で居続けるつもりはあるの!?
やって良い事と悪い事の区別もついてないの!?」
「アルカはスミレを一個人として認識していないの?
もし私が、アルカよりスミレに心惹かれたらどうするの?
これから私はスミレと長い時間を過ごすのでしょう?
それはアルカとよりも長い時間なのでしょう?
その上スミレは私の為だけに存在してくれるのでしょう?
いつか気持ちが変わってしまうとは思わないの?
私はノアやセレネとは違うのよ?
アルカと積み重ねてきた時間なんて極僅かなのよ?
そこまで私の事を信じられるの?」
「もちろん。信じているわ。
カノンは私を好きで居続けてくれる。
これから先、誰を好きになったって変わらない。
私はもう十人もお嫁さんがいるのよ?
自分だけそんな勝手な事をしておいて、私を受け入れてくれる伴侶を信じられないわけ無いでしょ?
タイミングと計画の方は返す言葉が無いわね。
ごめんなさい。言うとおりです。
結果が良ければ大丈夫だと慢心しました。
いずれ必ずカノンも喜んでくれるから大丈夫って思った。
けれど、ダメよね。
せめてデートとは関係なく話すべきだったのよね」
「事前の相談は欲しかったわね。
けれど、そんな事を言ってしまえばスミレに出会えなかったかもしれないのよね。
ダメだわ。
私もこんな事無茶苦茶だって思うのに、スミレを否定するような事は言いたくないわ。
アルカの件と言い、どうしてしまったのかしら。
こんなにすぐ心惹かれてしまうなんて」
「もしかしてスミレ、魅了使った?」
「魅了!?」
「そんな事しないわ。
ハルが絶対ダメだって言っていたもの」
「安心したわ。
これ以上カノンに失望されたいわけじゃないし」
「本当にそう思ってる?
正直、アルカの言葉は信じられないわ。
ノアとセレネの気持ちが益々わかってくるわね」
「けれど嫌いにはなれないでしょ?」
「自分で言わないで!
そんな開き直り方はダメよ!
いつか誰かの心が離れてしまうかもしれないわよ!」
「はい。気を付けます」
「本当にわかってるの?」
「そろそろ」
「けいやく」
「する」
「ハルちゃんは何とも思わないの?
自分の娘なのでしょう?
まるで便利な道具みたいに扱って何とも思わないの?」
「ハル」
「にんげん」
「ちがう」
「ハル」
「アルカのどうぐ」
「しあわせ」
「まものだから」
「ちがう」
「ダンジョンうまれ」
「だから」
「かも」
「けど」
「にんげん」
「いやがる」
「わかる」
「だから」
「どうぐ」
「おもわない」
「でもいい」
「スミレ」
「どんなでも」
「たいせつに」
「してあげて」
「……アルカはハルちゃんに引きずられているの?
人間としての判断力を失ってないよね?」
「ううん。私は元々こうよ。
実はね、私はノアちゃんと奴隷商館で出会ったの。
奴隷として扱うつもりが無かったとは言え、孤独を癒やすためにお金で家族を買ったのよ。
それが忌避される感覚なのも承知しているし、私にも抵抗はあった。
けれど、ノアちゃんと家族になった事を後悔したことは一度も無いわ」
「それに、命を産み出すことが間違っているとは思っていないの。
その生命を尊重できない事が間違いなの。
私はスミレの命を意思を尊重しているわ。
例えカノンが受け入れてくれても、スミレが嫌だと言えばカノンに引き渡さずに自分で育てるつもりだったわ。
無作為に生み出して放置なんてしなければ、神のように振る舞ったなんて言えないと思うの」
「詭弁よ」
「そうね。
理屈をこね回して都合よく解釈しているだけだわ。
けれど、それってとっても人間らしいと思わない?」
「アルカは私と喧嘩がしたいの?
正直、その言い回しは気分が悪くなるわ」
「ごめんなさい。もう言わないわ」
「そう。それは良かったわ。
それで?契約するのよね。
もうこの際だからしちゃいましょう。
まだ抵抗が無いわけじゃないけど、アルカの想いが全く分からないわけではないわ。
私の為だって気持ちは本心だと信じてる。
それはそれだけどね。
私の為だと思っているからって私の為になるとは限らないわ。
そんな所が信用できないのよ。アルカは。
だから、先ずは否定する前に契約とやらを結びましょう。
それで全てわかるのでしょう?」
「うん。きっと伝わるよ。
ハルちゃんお願い」
「がってん」
先ずはカノンとスミレが。
その次は私とカノンが契約した。
私とスミレは昨晩の内に済ませてある。
スミレは契約が完了するなり、カノンに同化した。
「これは……
凄いわね……」
「今後はカノンの覚視もスミレが補助してくれるわ。
世界が違って視えるわよ」
「ええ。アルカの事も前よりはっきり視えているわ。
ノアが言っていたように、本当にわけのわからない事になっているのね。
私とアルカの間に繋がっているのがパスなのね」
「え?もうそこまで視えるの!?」
「スミレが自分は優秀だからって言ってるわ」
「あれ?また念話使わないの?
ルチアといい、アウラといい、どうして?」
「アルカと言葉を交わすのは危険だからって。
取り込まれてしまいそうだって」
「ハルちゃんなんか言った?」
「……のーこめんと」
「でも、スミレは今日一日私の中で過ごしたのよ?
今更じゃない?」
「ほごした」
「……流石ねハルちゃん」
「アルカ避けられてるじゃない……」
「私は娘だと思ってたのに……」
「ハルのむすめ」
「たいせつ」
「よめいりまえ」
「きずものダメ」
「私が見境なく手を出すみたいに言わないで!」
「出さないの?」
「だす」
「じかんのもんだい」
「スミレかわいい」
「おもってた」
「二人とも!?」




