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25-20.姉

 私はお姉ちゃんを連れてテッサの町にやってきた。

この町はピレウス以外で一番顔見知りが多い。


 お姉ちゃんには私が一人で旅立った後の事を伝えて安心させたいと思った。

この町の人達の歓迎ぶりはうってつけだろう。

流石にもうあそこまで大騒ぎされる事はないだろうけど。


 この町では何度かノアちゃん達ともデートした事がある。

案内も問題ないはずだ。

いつもはノアちゃんに引っ張られるだけだったけど、今日は自分でお姉ちゃんを連れ歩く番だ。

いくつか見せたい場所もあるのだ。


 夕方になる少し前くらいまで町を歩き回ってから、いつも通りの高台の公園にやってきた。



「ここは……」


「私のお気に入りなの。

 いい景色でしょ」


「似てるから……かしらね」


「何に?」


「私達の住んでた町にもこんな場所があったのよ。

 もちろん、見える景色は全然ちがうのだけど」


「覚えてないな~」


「私は覚えているわ。

 小春との大切な思い出だもの」


「ぐぬぬ。

 そう言われてしまったら思い出せないとマズイ気がする」


「頭貸して」


「え?」


 お姉ちゃんは私の額に手のひらを当てて何か魔法を使う。

すると、記憶が流れ込んできた。


 私達の住んでいた町が一望できそうな高台に私がいる。

きっと、これはお姉ちゃんの記憶だ。

お姉ちゃん視点なのだろう。

幼い私が笑いかけると、心の中に大きな愛情が湧き上がってくる。

これは妙な気分だ。

視てる相手が自分なのに、好意が溢れてとまらない。

お姉ちゃん、私のこと好き過ぎでしょ。

景色を見せようとしたのだろうけれど、殆ど私の事しか見ていない。



「ありがとう。お姉ちゃん。

 もういいよ」


「そう」


「お姉ちゃん、よくあれで景色覚えてたね。

 殆ど私の事しか見てなかったじゃない」


「そっちは気にしないで。

 あれでも景色も見てる方だったのよ」


 他の記憶はもっと私塗れだったのか……



「お姉ちゃんは気になる所はある?」


 私はお姉ちゃんの視線を町に向けさせる為に、あっちこっちを指さして、そこであった思い出を話していく。

こうして全体を見回してみると、今日一日沢山歩き回ったけれど、まだまだ見れていない所は多かった。


 お姉ちゃんは明日も付き合ってくれるのだろうか。

本来のデートの予定は今日だけだ。

レーネもニクスもハルちゃんズも自然と二日間使っていたけれど、本来二日目は私の休息日だ。

一日置きにする事で、万全の状態でデートに臨むためのものだ。

もちろん、体力的な意味ではなくて精神的な切り替えというかそんな感じで。


 今更っちゃあ今更なんだけど。

何せ、普段から十人以上ものそういう相手と寝食を共にしているんだし。

切り替えできなきゃとっくに破綻してるし。

他の子への気持ちを引きずったまま、眼の前の子を愛していたら怒られるし。



『きりかえ』

『ちがう』


『つど』

『ながされてる』

『だけ』


『アルカ』

『なにもしてない』


 厳しいな~


『いまはママ』

『しゅうちゅう』


『は~い』


「お姉ちゃん。

 夕方になったし、そろそろ宿に行こ~!」


「宿?

 日帰りじゃなかったの?」


「今更何言ってるのよ。

 皆とも泊りがけで出かけていたじゃない」


「あの子達はアルカのお嫁さんなんでしょ?

 私は違うもの。

 家に帰りましょう」


「嫌!」


「いやって……」


「私は言ったはずだよ。

 お姉ちゃんも口説き落とすって」


「ダメだって答えたわ」


「関係ないよ!私はもう決めたの!

 お姉ちゃんが欲しいの!」


「何でそこまで……」


「お姉ちゃんが私を大好きな以上に私はお姉ちゃんが大好きなの!愛しているの!

 いっぱいキスしたいの!抱きしめたいの!

 もう我慢したくないの!」


「何を言って……」


「なんでさっき記憶を見せた時、お姉ちゃんの感情まで流し込んだの?

 記憶を映像として見せるだけも出来たよね?

 ハルちゃんだって出来るんだよ?

 なのに、わざわざあの感情も伝えたのはなんで?

 私が昨日あんな事を言ったから?

 私がお姉ちゃんに嫌われてるかもって思うのが嫌だったんでしょ?

 お姉ちゃんは私の事が大好きなんだよ?

 それもあんな幼い頃からだよ?

 ならもう我慢なんてしなくていいじゃない。

 姉妹なのが気になるなら、エイミーとして愛するから。

 だから側にいてよ。

 私のものになってよ」


「…………それは嫌よ」


「お姉ちゃん!!!」


「……エイミーとしてじゃなくて私の事を好きでいてよ」


「お姉ちゃん!じゃあ!」


「私も小春の事を愛しているわ。

 けれど、でも無理よ。無理なのよ……」


「まさかまた逃げるつもりなの?

 今まで一緒に暮らしていてくれたのは、私の魔法から逃げる手段を探すための時間稼ぎのつもりだったの?」


「……」


「許さないよ。

 絶対にそんな事認めない。

 逃げたって見つけ出して縛り付ける。

 どんな手段を使ったって手放したりなんてしない。

 そうだ!お姉ちゃんも私の心に引きずり込めばわかってくれるかしら!

 それでもダメなら深層まで連れて行って監禁してしまいましょう!

 ニクスがやったように、無理やり好きにさせてしまいましょう!

 その為なら一時的に嫌われるのだって仕方ないわ!

 想像するだけでとっても辛いけれどお姉ちゃんと一緒にいるためなら頑張れるわ!

 だからハルちゃん!お願い!」


『……ダメだよ』

『おちついて』


「ハルちゃん?

 まさか裏切るの?

 ハルちゃんだってお姉ちゃんが欲しいんでしょ?」


『アルカ?』

『どうしたの?』

『すこしへん』

『おちついて』


『ハルが』

『うらぎるはず』

『ないよ……』


「そうよね!

 ごめんなさい!泣かないで!

 ハルちゃん!ごめんね!」


『おちついた?』


「……わかったわ。心の中に閉じ込めるのは無しね」


『うん』

『アルカ』

『ママ』

『くるしめたい』

『わけじゃない』


『しゅだん』

『えらぶ』


「そうね……どうしたら良いのかしら。

 お姉ちゃんはどうしたいの?

 とにかく私から逃げ出したいの?」


「それは……」


「すぐに否定は出来ないのね。

 まだ私と離れる必要があるとは思ってるみたいだわ。

 今更何が気になっているのかしら。

 未来への影響?

 ノアちゃん達に気を使ってる?

 やっぱり姉妹なのが気になる?

 どうしても教えてくれないの?」


「……ないわ」


「何が?」


「もう理由なんて無いのよ……」


「じゃあなんで?」


「そんな簡単に切り替えられないの!

 小春に会うためだけに六百年も頑張ってきたのよ!

 もう大丈夫だって言われても受け入れられないのよ!

 そんな簡単に受け入れられないの!

 小春こそなんでそんな風に言えるのよ!

 あなた最近まで私の顔も忘れていたはずじゃない!

 なのになんでそんな簡単に好きだなんて言えるのよ!

 それは本当に私の事なの!?

 エイミーが好きだっただけじゃないの!?

 元の世界に暮らしている深雪が好きなんじゃないの!?

 もう何もわからないのよ!」


「お姉ちゃん。

 お姉ちゃんは本当にわからないの?

 私がどれだけ嬉しかったか想像できないの?

 お姉ちゃんが世界を超えて私に会いに来てくれたんだよ。

 私がどれだけ会いたがっていたのか想像できないの?

 お姉ちゃんだって私に会いたかったんでしょ?

 それと同じなんだって信じてくれないの?

 お姉ちゃんが私の記憶を消してしまっても、私は顔も思い出せないお姉ちゃんに、家族に会いたいってずっと思っていたんだよ?

 お姉ちゃんをこの世界に呼び出した私もそうだったはずだよ?

 家族と引き離された事が辛くて悲しくて、ニクスを嫌って憎んで、そうやってそっちの私は神にまでなったんでしょ?

 お姉ちゃんに会いたくて呼び出してしまったんでしょう?

 私だって同じことをするんだよ?

 今また、お姉ちゃんが姿を消せば何をしてでも取り戻そうとするんだよ?

 お姉ちゃんは今の私の気持ちまで疑うの?

 エイミーだってお姉ちゃんの一部でしょ?

 私はエイミーの事だって大好きよ。愛しているわ。

 深雪お姉ちゃんだってわかった時は嬉しかったのよ。

 決して、エイミーがいなくなってしまったなんて思っていないわ。

 エイミーだろうと、深雪お姉ちゃんだろうとお姉ちゃんはお姉ちゃんよ。

 どっちの事を好きだったとしても変わらないのよ。

 私が好きなのは今目の前にいるお姉ちゃんの事なのよ。

 私の為に何百年も頑張ってくれたお姉ちゃんの事なの。

 元の世界に残してしまったお姉ちゃんの事でも無いの。

 私が恋人にしたいのは今のお姉ちゃんなの。

 だから今度こそ受け入れてくれる?」


「……」


 私は俯いて何も答えないお姉ちゃんの顔を強引に持ち上げて、キスをした。

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