25-16.マスター?
私はニクスと別れた後、ハルちゃんとシーちゃんのいる部屋にやってきた。
色々悩んだけれど、結局明日からの事をハルちゃんと確認したいのもあったし、シーちゃんを意図的に避けるなんて私は選べなかった。
皆とのデートが終わるまで何事も無いと良いのだけど。
「ねんわでいい」
「はず」
私が来ても船の解析に熱中していたハルちゃんを抱き上げて、先程ニクスと話していた内容と、シーちゃんとの出会いに対する懸念を相談する。
シーちゃんに隠すつもりも無いから聞いていても構わない。
「ぜんぶみてきいた」
「つうしんき」
「つねにおん」
「シイナ」
「アルカに」
「むちゅう」
「そうなの?」
「かいせきした」
「まちがいない」
「この船とシーちゃんはそこまでリンクしているの?」
「べったり」
「からだのいちぶ」
「ことばどおり」
「マスター、私もあれやってみたいです」
「あれ?どれ?」
「ニクスにやっていたやつです。
寝所でやっていたやつです」
「キス?」
「だっこ」
何故かハルちゃんが答えた。
本当に全部筒抜けらしい。
というか、ハルちゃんはもうそこまで掌握してるの?
異世界の技術なのよね?
しかもハルちゃんに機械の知識なんて無いはずでしょ?
本当のマスターがどっちかバレちゃうわよ?
『とっくに気付いているのでは?
ボクだけのマスターに戻っても良いのですよ?』
『サナとの関係って、私にマスター要素ある?』
『今更!?』
ごめんて。
「良いわよ。抱き締めてあげる。
って、今はどっち?」
「生身です」
私は抱き上げていたハルちゃんをその場に降ろす。
近づいてきたシーちゃんをそのまま抱きしめる。
腕に当たるシーちゃんの翼の羽毛の感触が気持ちいい。
これ何で出来ているのかしら。
体は殆ど人間と変わらないらしいけれど。
暫く抱き締めてから手を離して、ハルちゃんとの会話を再開させようと向き直る。
シーちゃんは私が手を離してからもしがみついてくる。
それを見た私は、思い直してシーちゃんを抱き上げる。
「それで、ハルちゃん。
明日のデートはどうするの?
まだここにいたいなら、他の子と順番変わってもらう?」
「うん」
「おねがい」
「悲しいわ~
そんな風に即答されるなんて」
「シイナ」
「だっこしながら」
「いうことちがう」
「それはそれよ」
「そうかも」
「ハル」
「アルカのどうぐ」
「アルカさいゆうせん」
「とうぜん」
「今は道具としてではなく恋人として側にいてって話しをしているのよ」
「ならなおのこと」
「もしかして怒ってる?」
「ハルおろした」
「シイナだっこ」
「するため」
「ごめんって。
ハルちゃんだって、私が来ても船に夢中だったじゃない。
しかもシーちゃんの希望まで教えてくれたからそうしろって事かと思ったのよ」
「さすがアルカ」
「ハルのきもち」
「かんぺき」
「けど」
「なんか」
「おもしろくない」
「おろされたら」
「むっときた」
「じぶんでいった」
「のに」
可愛い。
なにそれ可愛い。
「ごめんね、シーちゃん」
私はシーちゃんを再び降ろしてハルちゃんを抱きしめる。
そのまま何度もキスをする。
「シーちゃん、ゆっくり座って休める部屋はある?」
「こちらへ」
私はハルちゃんを抱き上げて、シーちゃんに続いて移動する。
案内された部屋は船長用の私室だそうだ。
ベット等の生活に必要な家具は一通り揃っている。
ベット?で良いのかしら。
見た目は何の凹凸もない台だ。
直方体の金属?プラスチック?の塊のようにしか見えない。
試しに触ってみると、上面が柔らかい素材になっていた。
そのまま座ってみると、少し沈み込んだくらいで、意外としっかりしている。
なにこれ?
ふわふわでもあるような、しっかりとした弾力があるような、妙な感触だ。
ここで寝たら快適そうだというのは何となくわかる。
とりあえずそのまま座って、ハルちゃんを抱き締め直す。
シーちゃんには隣に座ってもらった。
そのまま暫く、私はハルちゃんを慰めていた。
「やっぱり」
「あしたいく」
「そっか。嬉しいわ」
「シイナつれてく」
「え?良いの?」
「どのみち」
「ラピスたちこみ」
「ひとりくらい」
「かわらない」
「そっちもだけど、船から離れられるの?
ホログラムでついてくるの?」
「そう」
「にくたい」
「むり」
「えねるぎー」
「じりきで」
「せいせいできない」
「じゅみょうない」
「どころか」
「いきてない」
「せいたいぱーつ」
「あつかい」
「そと」
「ながくもたない」
「しくみ」
「だっそうぼうし」
「たぶん」
うっわぁ……えげつないわね……
命の無い空っぽの肉体に、どうやってか人工的に作り出した魂もどきが入っている様な状態らしい。
肉体の維持にはこの船が必要なのだと言う。
「それは三年で切り離せるの?」
「むずかし」
「けど」
「がんばる」
「ありがとう。ハルちゃん」
「マスター、ハル、私も感謝します」
「色々放りっぱなしでごめんね。
せっかくマスターって呼んでくれるのに、話すら聞いてあげられてなくて。
もう少し用事が済んだらいっぱい一緒に過ごそうね」
「はい。お待ちしております」
「さっそくあした」
「おためし」
「しんぼくかい」
「デートのついで」
「本当に良いの?」
「いい」
「ひとり」
「さみし」
「ハルちゃん……」
「ハル。あなたの優しさを嬉しく思っています。
私はあなたを好ましく思っています」
「きにしない」
「アルカのもの」
「ハルのもの」
「アルカがマスター」
「ハルがマスター」
「おなじこと」
「アルカとハル」
「ふたりでひとつ」
「はい!マスターハル!」
もしかして、ここ数日間で多少仲良くなってるのかしら?
二人きりでも色々話をしていたのかもしれない。
これ以上関係が進む前に混ぜてもらおう。
ハルちゃんもシーちゃんも私のだ。
『ラピスも混ぜて!』
『ボクも希望するのです!』
『…………ナノハもママのもの』
『あなた達はまだ暫く娘として見ることにするわ』
『なんでよ!?』
『情緒が育っていないもの』
『シイナも変わらないのです!』
『それはそれよ』
『…………おうぼ~』
今日は珍しく、ナノハまで積極的に参加しているわね。
シーちゃんの出現になにか思う所があったのかしら。
そもそも娘で良いって言ってなかった?
『…………ママ、ハルすき』
『…………うらやましくなった』
『今更!?』
何でラピスがツッコむの?
『ふふん。ナノハもようやくわかってきたのですね!』
サナは何を偉そうにしてるの?
あなたも数日前に吹っ切れたばかりじゃない。
『良いのです!ボクの方が早かったのです!』
僅差でね。
『うるさいのです!
マスター、いえ、アルカ!ボクも娘は嫌なのです!』
『あるじ!私が先よ!』
『…………ママ、ナノハのもの』
あかん……
今まで以上に姦しくなりそう。




