25-15.野望
夕方頃になってニクスとのデートを終えて自宅に戻った。
「明日はハルの番だよね?
シイナは放っておいても良いの?」
「そうなのよね……
できれば今はあまり会わないようにもしたいのだけど」
「どういう意味?
シイナに心惹かれているからハルに悪いってこと?」
「ううん。そうじゃなくて予感がするの。
シーちゃんはノアちゃんやハルちゃんと会った時と同じ感覚がするの。
何か大きな変化があるんじゃないかって思うの」
「ノアとの出会いがキッカケでアルカの停滞していた野望は動き出して、ハルとの出会いで神の座にすら干渉する程の力を手に入れたから?」
「野望って……
まあ言い方はともかく、大体そのとおりよ。
今の私にはどうにも出来ない事が大きく変わると思う。
何かそんな気がする」
「あまりその手の考え方には囚われないほうが良いよ?
少なくとも根拠が希薄だ。
アルカは三人以外との出会いでも多くの事が変わってきたはずだよ?
ハルだけでは、そもそも私と出会うことすら無かった。
セレネとの出会いがあったからこそ私に繋がったんだ。
レーネとの出会いが無ければシイナとの出会い方も変わったはずだ。
シイナが何かを変えるのなら、レーネとの出会いにも何かを感じても良いはずだよ。
運命なんてものには必ず理由があるんだ。
人間の視点でわからなくても、神の視点にはあるんだよ。
少なくとも、私の視点から三人に特別な要素は無い」
「アリアのように、結果から想像が出来ても干渉までは知覚できない場合は?」
「それは……
つまりアルカは私以上の存在がアルカに干渉していると思てるの?」
「うん。そう思ってる」
「……困ったなぁ」
「そんなにマズイことなの?」
「仮にその考えが正しければ、最悪アルカが横取りされる。
遠回しに言うなら、私は上司には逆らえないんだよ」
「ダメよ。何をしても守り抜いて。
私はニクス以外の神の物になる気なんてないわ」
「私だって……」
「その為なら私は何でもするわ。
ニクスの隣にいる為ならね」
「何をしたって、どうにもならないよ」
「ニクスのその、迷いのなさというか、判断の速さというか、決断力というかはもう少しどうにかしましょう。
もちろん良い部分ではあるのだけど、もっと挑戦してみる気持ちも必要だわ。
長い時を生きた経験からくることなのでしょうけれど、ニクスの過去に私と同等の存在がいた事はあるの?」
「私はニクスの心を覗いても生き延びてみせたでしょう?
あなたはそんな事、不可能だと思っていたのでしょう?
ハルちゃんの存在だってニクスの想定外だわ。
私とハルちゃんなら、ニクスの体を取り戻すことだって出来たのよ?
そこにシーちゃんも加わればもっと強くなるかもしれないわ。
それにどうしてもダメならルネルに泣きつきましょう。
邪神すら警戒する彼女なら他の神だって撃退してくれるかもしれないわ」
「もう。言ってることが無茶苦茶だよ。
殆ど推測じゃん。
私の体を取り戻したのだって、私の協力ありきでしょ?
シイナにそんな力があるのかもまだわかってないんだよ?
そもそも、シイナとの出会いすら別の存在とやらの差し金かもしれないって話をしているんだよ?
ルネルだって協力してくれるとは限らないし、どれだけ強くてもこの世界の存在であることには変わりないんだ。
ダメージを与えられるからって勝てるわけがないんだよ。
水槽の上から手を突っ込んでくる相手にいくら噛みついて傷つけたって倒せるわけ無いじゃない」
「傷口から毒でも流せば倒せるかもしれない。
例え倒せなくても、恐怖を感じさせられるかもしれない。
そうしたら怖くて手を入れられずに諦めるかもしれない。
実際、あなたも最初にルネルに反撃された時怯えていたじゃない。
冗談のつもりだったのでしょうけれど、邪神も倒せるかもしれないなんて言っていたじゃない。
その冗談を現実にしてもらいましょう。
それでもし、水槽ごとひっくり返そうとしてきたらニクスが守ってね。
私達も水槽の外に飛び出して助太刀するわ。
けれど、流石にそんな癇癪は通らないんじゃない?
神様みたいな強大な存在が、ちっぽけな私達に傷つけられたから、怖くて全てひっくり返しましたなんて笑いものじゃない?
そう責めれば付け入る隙もできるんじゃない?
そうやって一手ずつ考えていけば、一見不可能に思えてもどうにかなる気がしてこない?」
「……全部想像だ。妄想だよ。
もうこの話は終わりだよ。
やっぱり続けたって意味ないよ」
「なら最後に一つだけ賭けをしましょう。
シーちゃんの影響で何か大きく事態が動いたら、ニクスは私の考えに賛同してもらうわ。
私がニクスの側を離れないための力を求める事に同意してもらう。
具体的には、先ずはシーちゃんの船を壊す期限の撤廃よ。
この世界の為に壊すべきだっていうのはわかるけれど、場合によっては手段を選べない可能性もあるわ。
この世界の存在でないあの船の技術に何か可能性だってあるかもしれない。
そしてもう一つ、私をもっと鍛えて。
人間で在り続ける事については私達が頑張るわ。
ニクスは信じて私を強くする事だけ考えて。
ニクスの隣で一緒に戦えるだけの力を頂戴。
その上でノアちゃん達と一緒に居続ける方法は私が考えるわ」
「ダメ。そんな賭けには乗らないよ。
例えシイナの存在が事態の変化に繋がったとしても、それが干渉された運命だとは限らない。
大きな力が存在すれば大きな影響が出る事は当然なんだ。
あの島をどれだけ丁寧に隠し通したって、存在するだけで影響を与え続けるんだよ。
世界とはそういうものなんだよ。
因果は必ず巡るんだよ」
「アルカが大きな力を持っているからこそ、彼女たちは引き寄せられるんだ。
それは、現在の彼女たちの力が強いからじゃないんだよ。
彼女たちの存在が強いからなんだよ。
存在が強い者はいずれ大きな力を得るんだよ。
その流れのために集まっているに過ぎないんだよ。
少なくとも私は上位存在からの干渉なんて言うよりも、そんな理由の方が納得できるんだよ」
「アルカを必要以上に人間であることから離したくないのはそれも理由なんだよ。
アルカの力が神に匹敵する程に大きくなってしまえば、上位存在から干渉を受ける可能性も高くなるんだよ。
そうなれば本末転倒だ。
だから、アルカ。
私はアルカの提案を受け入れるわけにはいかないんだよ。
お願いだから、今回だけは引き下がって欲しいんだよ」
「……わかったわ。
今はもう言わない。
少し頭を冷やすわ。
思い付きで喋り過ぎた自覚もあるしね」
「ありがとう。
わかってくれて嬉しいよ」
「いいえ。完全に諦めたわけではないわ。
ニクスの諦めグセは絶対になんとかしてみせるわ。
とはいえ、諦めグセは語弊があるわね。
ニクスはこの世界の事と、出来ると思えた事なら、どれだけか細い可能性でも絶対に諦めないのだし。
結局、問題なのは上位存在とやらに尻込みしている部分だけなのよね。
良いわ。その苦手意識だけなんとかしましょう。
そうすればきっと今より上手くいくわ」
「……もう。好きにして」
「それにしても、ニクスって虐められているの?
上司には絶対服従だし、業務内容は無茶ぶりだし。
ブラック過ぎない?
神ってみんなそうなの?」
「……皆が皆こうじゃないけどさ」
「なら決まりね。機能的に不可能ならともかく、意識的に改善出来るのなら、ためらう必要はないわ。
いっそ、てっぺん取ってやりましょう!」
「変な事言わないで!いい加減天罰落ちるよ!」




