25-10.漂流物
「マスターご命令を」
開口一番に、少女はそう口にした。
「私?」
「はい」
「あなたお名前は?」
「記憶データが参照できません。
自己診断を開始します」
再び沈黙する少女。
今度は体が熱を帯びている。
まるで生きているかのようだ。
相変わらず命の気配は感じられない。
この子はロボットなのだろうか。
『からだにんげん』
『ちかい』
『全身機械ではないってこと?』
『そう』
『せいたいある』
『アンドロイドってやつ?』
『たぶんちがう』
『アルカのイメージ』
『とは』
『ぜんぜん』
『サイボーグ?』
『それもちがう』
『なまみ』
『ほとんど』
『かわらない』
『けど』
『たぶんじんこうぶつ』
『まちがいない』
『のうになにかある』
『それと』
『たましいない』
『かわりがある』
『……とんでもない技術よね』
『このせかい』
『ちがう』
『ニクス案件よね』
『みおとし』
『しょくむたいまん』
『まあ、そう言わないであげて』
最近、ずっと私達と暮らしているから気付かなかったのかしら。
外敵なら、勇者達の出番でもあるのよね。
セレネとクレアはこの島もどうにかするのかしら。
というか、そんなポンポン外敵来るの?
お姉ちゃんは六百年前じゃなきゃ世界に穴が空かないから来れないんじゃなかったの?
『きぼちがう』
『こっちの方が質量断然大きいじゃない』
『そうじゃない』
『しつりょう』
『かんけいない』
『せかいをわたる』
『えいきょうりょく』
『そんざいのおおきさ』
『きぼそこではかる』
『私やお姉ちゃんはこの浮島よりも、世界に与える影響が大きいって事?』
『そんなとこ』
『りかい』
『すこしたりない』
『けど』
『きゅうだいてん』
それはどうも。
ハルちゃん、少し知り過ぎじゃない?
いつの間にそこまで解析してたの?
ニクスに消されたりしない?
『……だいじょうぶ』
『たぶん』
『程々にね』
『がってん』
「アルカ様、私とのデートはどうなるのでしょうか」
「……明日続きする?」
「もう!アルカ様!もう!」
私にポコポコするレーネ。
可愛い。
私はレーネを抱き寄せてキスをする。
「何しているんですか!?
知らない子もいるのにダメですよ!」
「あまりにも可愛くてつい」
「マスターがお望みなら私もお使い下さい」
「見てたの?」
「診断中も目を離してはおりません」
「アルカ様?遂に、目を合わせただけで籠絡する能力まで手に入れたのですか?」
「ハルちゃん、レーネに状況の説明を」
『がってん』
ハルちゃんがレーネに念話で、現時点でわかっている事を伝えていく。
まあ、私達も全然状況なんてわかっていないのだけど。
「それで、なにかわかった?」
「いいえ。名称は確認できませんでした」
「自分自身の事とこの島について説明できる?」
「ごく一部のみ可能です」
「じゃあ、わかることだけ教えてくれる?」
「了解です。マスター」
少女が語りだした内容は、本当にごく一部のことだけだった。
しかも大体の事はハルちゃんが予想したとおりだ。
つまりこの子がわかっているのは、現状認識だけだ。
自身と島に関する過去の事は一切合切不明だ。
自己診断とやらで、自分の中とついでに周囲の状況も確認したらしい。
ついでと言うか、この島自体が少女の一部らしい?
この島は殆どが機械的なものだった。
島のように見える外周部は後から付け足されたものらしい。
本体は巨大な宇宙船とでも言うべきものだった。
少女はその船をある程度自由に扱えるそうだ。
本来は艦長の補助が役目の、船の設備の一部らしい。
その辺りの事は、私が上手く理解できず、レーネへの説明を終えたハルちゃんが噛み砕いて教えてくれた。
少女が私を艦長ではなくマスターと呼ぶのも、その辺りの私が理解できていない部分にあるようだ。
少なくとも、少女がこの船の一部だと言うのは間違い無さそうだ。
覚視で視ると、なにかの繋がりがあるとわかる。
まるで体から太いケーブルでも伸びているかのようだ。
どうして人間と変わらないような体の少女が機械のように扱われているのだろうか。
少なくとも、少女自身の認識は自身も人間に奉仕する機械だと思っているようだ。
この辺りの事は追々調べていくとしよう。
流石にこの子も島も放置しておけないし。
ニクスを呼び出そうかしら。
せめて念話くらい飛ばしておくべきだったわね。
『アルカ』
『なまえつける』
『なまえだいじ』
『大丈夫なの?
ニクスに教えたら処分するとか言わない?
名前つけてたら倒せなくならない?』
『いまさら』
『ておくれ』
まあ、正直壊せと言われて壊せる気はしないけど。
『なまえつけて』
『アルカのひごか』
『ニクスもあきらめる』
『本当?ニクスは必要なら手段なんて選ばないわよ?』
『……』
『というか、随分保護に乗り気ね。
ハルちゃんもしかして、ここの技術が気になるの?
ニクスに知られて隠滅されるの警戒してる?』
『ダメ?』
『……まあ、良いけど』
『ならはやく』
『できることする』
『てをうってから』
『ニクスよぶ』
『お主も悪よの~』
『アルカほどじゃない』




