25-9.人魚姫と空の島
今日はレーネとのデートだ。
私はレーネと手を繋いで上空を飛び回っていた。
昨晩は結局良い案が出なかった。
グリアが私との結婚を選ばない以上は、カノンが言った通りグリアが自分で頑張るしかないのが唯一の正解なのだろう。
ともかく、お母様にもまた二人で会いに行くとしよう。
お母様と親交を深める事で、どんな事で安心させられるかも想像出来るようになるかもしれない。
それに、放っておけばグリアが自分で行くことはないだろうし。
いけない。今はレーネとのデート中だ。
余計なことは考えるまい。
今日のデートの目的は空から大陸中を見て回る事だ。
一人で旅をしていた時は飛行魔法の燃費が悪かったからできなかったけれど、今なら一日中だって問題なく飛び続けられる。
私が旅をしていた時に気に入った場所をレーネに紹介しながら見て回る。
レーネもノリノリで気になった所を指さして質問してくれる。
時には近くまで飛んでいったりもするので、予定とは段々ズレていったけれど、楽しい時間である事に間違いなかった。
別に今回回れなかった分はまた次に回しても良い。
私達にはいっぱい時間があるのだから。
「アルカ様!あれはなんでしょうか!」
「……え?」
レーネは右手側の遠方上空を指していた。
かなり遠い所に何か見えている。
飛行物?
なんだろう。
とりあえず行ってみよう。
私はレーネを抱えて速度を上げて接近する。
最初は点にしか見えなかったが、どんどん近づいて行くにつれて大きくなっていった。
十分に近づいた頃には想像を越えていた大きさに戸惑ってしまう。
「島?は?え?ラ◯ュタ?」
『いこう』
「地上、いえ上空にはこのようなものまで存在するのですね!不思議です!」
「私も始めてみたわ」
あと、ハルちゃんステイ。
ワクワク感が伝わってくるわ。
こういうの好きなのね。
「折角だしもっと近くで見てみましょうか」
「はい!」
私はレーネをしっかりと抱きしめ直して、浮島の上空から島の全容を見て回る。
万が一攻撃でもされたらと警戒したけれど、島の中に人の気配は無かった。
どころか、多分生きているものすら存在しない。
唯一発見した人工物らしきものに向かって降りてみる。
島の中央辺りに存在したそれは物置小屋のような正方形の小さな建物だ。
けれど、作りは明らかにこの世界の技術水準ではない。
壁の質感も、扉の様子も未来的だ。
私が扉の周りを触っていると、ゲームで聞いたことがあるような効果音と共に、扉がスライドするように開いた。
『うまくいった』
『ハルちゃんが開けたの?』
『そう』
『ピッキングマスターの称号を送りましょう』
『うれし』
『そう?』
中は何も無い部屋だ。
壁際にはスイッチ?のようなものが付いている。
エレベーター?
「なんですか!?今の何なのですか!?
アルカ様何をされたのですか!?」
レーネも大興奮だ。
「ハルちゃんが開けたの。
ちょっと、中も見てみましょう。
絶対に手を離さないでね」
「はい!」
私はレーネの手を強く握りしめて、建物の中に足を踏み出す。
私達の全身が入ると、再び扉が音を立てて閉まった。
部屋の中は照明器具も見当たらないのに光で満たされており、いきなり閉じ込められたにも関わらず、恐怖を感じる程ではなかった。
私がスイッチに手を伸ばすと、触れる前に反応があった。
どうやら、手をかざすだけで反応するようだ。
ハイテクね~
扉の上には階層を表しているっぽいメーター?があり、凄い勢いで下に向かっている事が見て取れる。
けれど、振動も音もしないので、体感だと全然わからない。
覚視で壁の向こうを見てようやく実感したくらいだ。
殆ど一瞬で最下層まで到達し、再び扉が開いた。
扉の先は廊下になっているようだ。
エレベータの中と同じように光に包まれている。
廊下の先にはまた扉だ。
私はレーネの手を握ったまま、エレベーターを出て歩き出す。
「え?
どういう事なのですか?
さっきと違う場所なのですか?」
エレベーターを知らなかったレーネは、一瞬で扉の先の光景が変わったことに驚く。
「ここは島の中よ。
あの部屋は建物を上下に移動する為のものなの」
「じょうげ?
????」
「ふふ。後でちゃんと説明してあげる。
まずはもう少しだけ進んでみましょう」
「はい!」
私が扉に辿り着くと、今度は触れる前に勝手に開いた。
『今のもハルちゃん?』
『ちがう』
『システム』
『いきてる』
『ハル』
『きどうしただけ』
『これ』
『じどうとびら』
ここもドワーフの国と同じようなものなのだろうか。
でも、あれすら上回る技術力な気がするけど。
部屋の中央には上面ガラス張りのケースが置かれていた。
いつか、ハルちゃんのダンジョンで見たのと似た光景だ。
そのケースを目にした瞬間、私の心の中に得も言われん感情が湧き上がってくる。
今すぐに駆け寄りたい衝動に駆られながらも、レーネの手を引いたまま、ゆっくりと歩み寄る。
「アルカ様?どうされたのですか?」
「わからない。何か予感がするの。
あのケースの中にきっと……」
「ケース?あの四角いのがですか?」
あれ?何で私、あれがケースだって思ったの?
机とかにも見えなくはないのに。
ハルちゃんとの出会いが原因なのかしら。
ケースの側に立ってよく見てみると、上面のガラス部分は曇っていて中が見えないようになっていた。
私はガラスに手のひらを押し当てる。
すると、何かが抜けていくような音がした後、ガラスの蓋が持ち上がっていく。
「女の子ですか?また?」
「天使?」
ケースの中に入っていたのは幼い女の子だった。
天使のような輪っかと翼が生えている。
けれど、この子からは命を感じない。
眠っているようにしか見えないけれど、既に亡くなっているのだろうか。
そう思いながらも、気付くと私は少女の頬に触れていた。
私が頬に触れた直後、少女はゆっくりと目を開けた。




